繁殖支援 (後編)

「んっ……、んっ……、大分、慣れてきたッス……、んっ……、んっ……」

 巧みに腰を浮かせ、そして沈ませ、器用なリズミカルを繰り返す。初めてとは思えないその動きと、初々しすぎるくらいの反応がまるで真逆だ。知識を持っているが、経験を持たないというギャップはこのようになるのか。

 さながら熟練者が直ぐ隣で指導している感覚か。自分で動かしているはずの身体の動きに心の方がまるでついていっていないように思う。

「んぁ……、い、い、イクぅ……!」

 背筋を仰け反らせ、大げさに跳ねる。が、それでも腰の動きは止まらない。データのままに行動しているせいだろうか。当人には体力も十分にあり、効率の良い動き方も熟知している状態ではあるが、明らかに止めどころを把握できていない。

 よもや、自分の意志で身体を制御できていないわけではあるまいな。

 自称優秀と言える程度には技術力は完璧なものだ。それは間違いない。

 しかし、当のエメラは自身の完璧すぎるその技術で逆に引っ張られている。

「あ……あ、あの、ゼクラさん……、休憩しなくても、大丈夫ッスか?」

 むしろそれはお前に言いたい。

 どちらが先に体力が尽きるかといえば、俺の方なのだろうが、無尽蔵に近い体力を持っているはずのエメラの方がもう限界と言わんばかりの顔を浮かべている。

 瞳を潤ませ、悶えんばかりに口元も歪ませ、それでも尚、身体は機械的に丁寧に乱れることのない動作を繰り返し続けている。

「ふわぁ……、今イッたばかりなのに、またイクっ。……ぁぅぁ、余韻が残ってるのにぃ……、またイッ……あ、頭がショートしそうッスぅ……」

 などと言っている本人の身体は元気そのものだ。ストップをかけなければいつまでも動き続けられそうなくらい、疲労というものが一切感じられない。

 さすがはマシーナリーである。人間とは比べものにならないという点は逆立ちしてもひっくり返せまい。俺の知っている性行為セックスではない。

「ゼクラさんも、そ、そろそろ限界ッス、よね? 無理はよくないッスよ?」

 そうまで自分から折れたくないのか、それとも許可制になっているのか、エメラは自分の身体ほど正直にはなれていない様子だ。

「……じゃあ、そろそろ終わりにするか」

「おほぉぉっ!? ま、またナカにキたッスぅぅ!!」


 ※ ※ ※


「う~ん……、う~ん……」

 いつもの姿に戻ったエメラが困り顔でうなる。

「どうした、何か問題でもあったのか?」

「あ、いや、ゼクラさんの遺伝子情報を解析しているところなんスけど、卵巣が上手く動いてくれないというか……」

 まさかの不具合だろうか。あれだけ乱れに乱れて、何の結果も残せなかったとしたらとんだ草臥れ儲けだ。主にエメラの方がだが。

「問題はないと思うんスよ。ただ、かなり遺伝子が特殊な構造というのか、なんていうのか、想定しているよりも時間が掛かりそうッスね」

 忘れがちかもしれないが、俺は人造人間である。戦闘用の兵器として遺伝子構造もかなり弄くられているはずだ。しかもその技術は二十億年も前のもの。ともなれば、ひょっとするとこの時代からしてみれば異物なのかもしれない。

「俺では妊娠させることができないということか?」

 もしそれが事実とするならば、それはかなりの一大事だ。人類繁栄のための計画が今、この場で破綻となってしまう。

「そんなことはないと思うッス。人類同士の交配なら全く問題なく赤ちゃんが産めるはずッスよ。ただ、ボクの赤ちゃん部屋の機能をアップデートしていく必要がありそうなだけで」

 どういう仕組みなのか、理解できてないところがあるから俺としても何とも言えないところではあるが、やはり人類と機械との性行為セックスは言うほど簡単なものでもなかったらしい。

「いやいや、無理じゃないッスよ? ちゃんとボクでも赤ちゃん産めるッスから!」

 そんなむきにならなくてもいいのでは。

「もっと精液サンプル採取できればナカだしすれば改善できると……思うッス、が」

 急に顔を赤らめて、お腹の下の方をさする。恥じらうソレというよりかは、実技によって学習してしまった身体が経験のデータをデフラグした感じだろうか。

 おそらくはあらゆる面においてマシーナリーは人類の遙か上の上をいっているはずだ。身体のあちこちの感度も、それによって得られる快感も全てが想像を超えるレベルなのだろう。

 そのデータを反芻して、身もだえしているのかもしれない。

「ボクに任せればゼンブ大丈夫なんス! 何の問題もないッス!」

 まだ何も言っていないのだが、勝手に言い訳してきた。

「ゼクラさんは子孫繁栄あかちゃんのために陰茎おちんちんから精液サンプル提供どっぴゅんしてくれればオッケーッス」

 そこで肝心な恥じらいが皆無なのもおかしな話ではあるが、マシーナリーというものは極度の完璧主義なのか。正確さ、精密さ、確実さにおいて、微塵の亀裂も許されないような気質なのかもしれない。

「ああ、今後ともよろしく頼むよ」

「はひっ」

 股間に手を当てつつ何かを思い出すような赤い顔で、二つ返事を頂戴した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る