第七章 After

繁殖支援 (前編)

「――というわけで、ゼクラさん。性行為セックスするッス」

 延々と長い講釈を垂れてきたかと思えば、さも必然であるかのように、さも当然のものであるかのように、その結論へと帰結していた。

 エメラの話をかいつまんで言う必要もないところだが、人類は今、絶滅の危機に瀕している。よって現状の打開策として最適と判断されたのが生殖活動である。そろそろさすがに耳が痛くなってくる話だ。

「しかしだな、エメラ。俺は人類だが、お前はマシーナリーだろう? 混合種というのは絶滅危惧種の保護に該当するのか?」

 聞いた話によれば、エメラの身体はバイオメタルという特殊な金属によってできているらしく、人類と大差ない生命活動を行っているとのことだが、いくら子作りのできる肉体を持っているからといって、人類との交配はどうなんだ?

 そもそも、人類と機械とで子供を作れるのか。俺の時代でもそこまでの技術はなかったはずだ。せいぜい遺伝子複製技術の応用で、何らかの手段で抽出した精子や卵子をその体内で受精させるといったものくらいだろうか。

 しかし、あれは妊娠とはまた違う次元の話だ。擬似的に機械の胎内に子を宿しているとはいえ、実質的には大がかりな試験管ベビーと変わりないはず。

「ゼクラさん。細かいこと言ってたら長生きできないッスよ?」

 そんな聞き分けのない子供をあやすように言われても。

「ボクの卵巣は遺伝子構造を変質させることもできるッス。ゼクラさんの陰茎おちんちんから頂戴どっぴゅんした精液サンプルを元に作り替えて、人類としての子供を孕んじゃうことなんてお茶の子さいさいッスよ」

 技術のレベルが高すぎて理解が追いつかない。そんなことが可能なのか。一体どういう仕組みになっているんだ、バイオメタルってのは。

「この機構を利用すれば人類なんて言わず大概の生物の子を繁殖させることもできるッス。というか、ボクはそういうのが仕事なんスから心配しなくていいんスよ」

 やれやれ、何も分かってないな、といった呆れ顔をされる。正直、エメラの容姿は少女のソレであり、実年齢も一歳だ。圧倒的な年下にされるような態度ではない。

「本来は特例中の特例なんスよ? 繁殖支援って。ボクくらいの権限を持ってるからできることなんスから。いいから性行為セックスするッス!」

 プリプリほっぺをふくらませつつそう言って、エメラは高速詠唱を開始する。緑色に発光したエメラの身体のパーツは換装されていき、その姿を変えていく。

 一糸まとわぬ、美女が、俺の股間に注視する。

「ゼクラさんも素人どうていじゃないんスから、ちょっと慣れなくてぎこちなさはあるかもしれないッスけどこういうものだと割り切ってほしいッス。貴重な人類が絶滅しちゃうじゃないッスか」

 それは分かるのだが、そのぎこちなさというのはむしろ俺よりもエメラの方が露骨のように思えて仕方がない。さっきからチラチラと視線が下の方に泳いでいる。

「ちなみに、エメラはこれまで繁殖支援の経験はあるのか?」

「……な、ないッスけど、データはバッチリッスよ。何の問題もないッス。テクニックだって色々とインストール済みなんスから! ボクは優秀なんスよ!」

 エメラが優秀だということはよく分かっている。この『ノア』に来てからというもの、その高度な技術にはとても助けられているからな。

「さっきも説明したッスけど赤ちゃんもちゃんと作れるんスからね? 人類どころかもっと大きな種の、馬とか象とかでもこの身体で孕めるし、産めるんス。そういう風にできているんスよ、ボクの身体は」

 ウマやゾウって確か相当な大きさ、重量を持った動物ではなかっただろうか。実物を見たことはないが、そんなものを孕んだら妊娠中は一体どんな体系になってしまうのか、気になるところではあるが、主題はそこではない。

 もしや、エメラは俺以上に緊張しているのではないだろうな。

 俺からしてみれば、マシーナリーとの性行為セックスなんて経験のないものだから、それが正しく行えるのかという疑問を抱えているところはあるが、それは不安というソレとは違う。

 対するエメラには何処か異様な焦りを感じる。これが初体験だからだろうか。いくら知識や技術を頭の中にしっかりインプットしたところで、結局のところ自分の経験がないのであれば耳年増にしかならない。

 マシーナリーの精神というものがどのような概念で組み立てられているものなのかは知らないし、知りようもないが、生まれて間もないたかだか一歳という未成熟な精神に、性行為セックスという経験は少々重いのではないだろうか。

 今はこうして言語力も達者であり、当たり前の会話をすることもできているが、それはインプットされたデータと、優秀な処理能力によるものだ。

「さ、さあ、陰茎おちんちんを出すッス! ……ひっ!」

 普段はあんなに優秀を自称するほど自信たっぷりだというのに、この変わりよう。

「じゃあ、始めようか」

 俺の方からエスコートしてやる必要がありそうだ。

「あの、やっぱちょっと待ってほし、……ひぎぃ!?」

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