Another
ざっぶ~ん (前編)
空は青く澄み渡り、視界の端の先のそのまた先まで続いていき、その広大さを悠々と見せ付けてくれる。
ほどよく心地よい涼しげな風に吹かれ、その反面焼けるような白い砂地に足跡を付けていけば、目の前に広がるのは鮮やかな色が多い尽くす一面の海だ。
水飛沫を立て、白い浜辺を打っては引いていく波が何とも言えない風流さを感じさせてくれている。
「何これ、すごい……本当に
下着と対して変わらない露出度のビキニと呼ばれる桃色の水着姿で、唖然とした表情のナモミが言う。普段人の前で服を脱ぐのも嫌がっている割にはそういう格好ができるんだな。
「投影ソフトウェアは少々古いものですが、それでも画質や品質は申し分ないでしょう」
一方で相対的にほとんど露出度のない紺色の生地が肩から腰まで伸びているシンプルなデザインの水着姿のプニカは、自信ありげに答える。
おそらくだがその自信については仮想現実の再現性ではなく自身の肉体美の方だろう。あまり追求しない方がよさそうだ。
「ふあ~……海なんて久しぶりやぁ。まぶしぃ~」
ナモミとプニカから遅れて現れたのは、途轍もない爆弾を二つ抱え込んだキャナだった。それを水着と認識していいのか判断に困る程度に、ナモミよりもまた露出度が高い。いっそ全裸との違いを比較したい。
スリングショットという水着らしいが、ただVの字をした生地が部位を隠しているだけで、それが意味をなしているのかどうか疑わしい。
動く度に動くソレは何という破壊力だろうか。
三人が並んで立つと一層際立って見えてしまう。
「地球のビーチもこんな感じだったのか?」
「というか、あたしも海には行ったことあるけどこんなにキレイな海は初めてよ。こんなの旅行雑誌の写真とかでしか見たことないわ」
地球出身のナモミが言うからには再現性は相当なものなのだろう。
「なんか水平線も見えるし、ものすっごく広そうだけど、これってどれだけ広いの? 東京ドーム何個分?」
ナモミからまた聞きなれない単語が自然と飛んでくる。
「ええと……、……、トーキョードームの敷地は約124万立法メートルだそうですから換算いたしますとこのスクリーンフィールドは七個分くらいでしょうか」
少々時間が空いた。わざわざ一生懸命検索してくれたらしい。探せば何の情報でも調べられるのな。
「さぁー、さぁー、泳ごっ! 泳ごう~!」
我先にと飛び出していったのはキャナだ。
「いけません、キャナ様。まずは準備体操を……」
続いていくようにプニカも駆け出していく。楽しそうなものだ。
「ねえ、ゼク」
「なんだ、お前は行かないのか?」
「いや、まあ思いっきりはしゃいじゃってもいいかなぁ、ってとこだけどさ。ゼクの時代でもこういう感じだったの?」
「こういう感じ、とは」
「仮想空間。あたしの時代だとせいぜい触れもしない立体映像くらいだったしさ、こんな触れることもできる、感じることもできるなんて凄いなって、思っただけ」
「俺の時代もまあそうだな。仮想空間は大体こんな感じだ」
「じゃあさ、本物の海って見たことがないの? 何処かの星とかさ」
「そうだな。そもそも安全性を考えると遊泳もできるような環境の整った場所を探す方が困難だ。宇宙は広いし、探せばありそうなものだが、仮にあったところでそのために七面倒くさい申請飛ばしてコロニーを離れるのも大変だ」
少なくとも、俺の知る限りでは目の前に広がるような海を本物として見た記憶はない。大体レジャーセットの付属品の仮想現実パックの光景だ。そもそも本物が存在していたのかさえ自分の中では怪しかったくらいだ。
「本物、知らないんだ……」
そのような憐れんだ同情の眼差しで見られても困る。
俺からしてみれば、この手の娯楽ものは仮想が普通だと思っているしな。
「でもま、地球がなくなって何十億年も経ってるっていうのに、こういうのがまだあるってことが何だか驚きだなぁ……」
しみじみと言う。達観した言い方だが、確かにそうかもしれない。
「ゼック~ン、ナモナモ~、はよおいで~、冷たくて気持ちいいよぉ~」
足先でちゃぷちゃぷと波を蹴っていたキャナが何とも無邪気な顔で呼んでくる。
「はい、お姉様~、今行きま~す」
そこへ吸い寄せられるように、ナモミが駆け出していく。
やはりたまにの行楽もいいものなのかもしれない。
気分転換というものは必要だ。
けして娯楽がなかったわけではないが、休息を前提としてそれほど満喫できた記憶があまりない。仮眠室で一日を過ごした方がマシだと思っていたくらいだ。
「ゼクラ様は泳がれないのですか?」
ふと、プニカが現れる。
「ああ、まあ。プニカもいいのか?」
「ええ、
仮想現実の中で現実じみたことを言うものだな。
「それよりも、いかがですか、私の水着」
それが本題か。
「身体のフォルムがくっきりと見えて素晴らしいとは思いませんか?」
確かに紺色の生地の上からでも寸胴っぷりがはっきりと見えて凹凸のなさがある意味素晴らしいとは思う。きっと本人もそういう風に考えているに違いない。
だが、それを女性としての魅力と考えているのであれば少々残酷だ。
ただただ体躯の子供っぽさを堂々と主張しているだけに過ぎない。需要で考えても見れば、子供に欲情することがまず間違っているし、そこをアピールポイントにしてしまうと本末転倒というものだろう。
「どうです? 私と
何処からくるんだよ、その自信は。
だが、ここは仮想現実。
本当の現実を突きつけるのはあまりにも酷だ。
「調べました情報によりますと、こういう場では砂浜から少しそれた岩場の影で男女が至るということもあるそうですよ」
それは一体何処の情報を調べた結果だ。
誤って変なところに検索をかけていないか心配になってきたぞ。
「今日は行楽がメインだ。それは主旨と外れるな。それに見たところ岩場もないし」
「必要とあれば生成いたします。これより立体造詣の編集に……」
などといいつつ、遮蔽物のモデリングに取り掛かろうとしだす。
どんだけ種子が欲しいんだよこの子は。もう少し場の空気を読んでくれ。
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