Punica wars (後編)

 そのキレイな表面を見る限りでは傷一つないように思える。

「生命維持装置の機能が停止しているようです。おそらくは漂流しているうちに超高圧電磁フィールドに触れてしまい、長期間麻痺したものかと」

「開封は可能ですか?」

「ファーストコードセキュリティは無事クリアしました。プニカ二十一号と四十二号が今、カプセル内で蘇生プログラムの修正にあたっています。ですが――」

「プニカ十四号!」

 プニカ十四号が言葉を紡ぐ前に、タマゴの表面にぽっかり丸い穴が出現し、その中からタラップが降りて別のプニカが出てくる。無表情だが僅かに声を張っているのでおそらくは血相を変えているのだと思われる。

「どうしました、プニカ四十二号」

「報告します。生命反応の検索を行ったところ84%、蘇生困難の腐敗が認められました。やはりスリープが阻害され、正常に機能していなかったようです。そして15%、これはスリープではなく元々死亡していたものだという結果になりました」

「分かりました。では、残りの1%はなんですか?」

「今、プニカ二十一号が確認に向かっているところなので明確には答えることはできませんが、高い確率で蘇生が可能な人類だと思われます」

 プニカたちの表情がパァーっと明るくなった、ということはないが、とりあえず喜びの無表情を浮かべ、小さく小さくおお、と歓声が上がった。

「それが本当であれば直ぐにでも生命維持装置の修復をしなければなりません。プニカ七号は何処ですか」

「彼女は現在仮眠スペースで休息しているところです。前に回収されたネクロダストの解体作業を終えてまだ二時間も経っていませんから」

「時は一刻も争います。プニカ七号を呼び出してください」

 プニカ三十五号に命令されるまま、プニカ十四号とプニカ四十二号の二人がプニカ七号の元へと急ぐ。

 同じプニカであっても能力はそれぞれ違う。

 それというのも、技術のほとんどは外部的にデータとしてインストールされたものであり、個々のプニカによってインストールされている技術が異なるためだ。

 やろうと思えば全てを万能にこなすプニカを作ることも可能だが、プニカは生身の人間であり、負担を無視することができない。

 そうでなくとも、プニカには他のクローンの記憶が同様の手段で引き継がれているため、ただでさえ頭脳という媒体は著しい負担が掛かっているのだ。

 そして、プニカ十四号もプニカ二十一号もプニカ三十五号もプニカ四十二号も、一応技術面では申し分ないデータをインストールされているが、プニカ七号はそのどのプニカをも凌ぐ特化した修復の技術のデータを多くインストールされている。

 そのように役割分担ができているのだからプニカ七号が適任であることは間違った判断ではない。

 だが、プニカ三十五号は自分の決断が早計だったのでは、と思っていた。

 プニカ七号を呼ぶ前に今、ネクロダストの中へ確認へ向かったプニカ二十一号の報告を待つべきだとも考えたが、プニカ三十五号ははやる気持ちを抑えられなかった。

「プニカ三十五号、来ていたのですか」

「プニカ二十一号。戻りましたか。今プニカ十四号とプニカ四十二号にプニカ七号を呼びに行ってもらったところです」

「そうですね。プニカ七号の力が必要です。あと、この船にプニカ四十九号もいてくれたら助かったのですが」

「何がありましたか、プニカ二十一号」

「報告します。蘇生可能な人類がスリープ状態で保存されていました。ただし生命維持装置が正常ではないため、修復の必要があります。簡単な応急処置までは私の方でやっておきましたが、何分上手く電源供給ができていません」

「供給ケーブルの代替をすればいいのですか? それなら私にもできます」

「それだけならいいのですが、肝心なのはスリープ状態の本体が極めて瀕死の状態なのです。プニカ七号にカプセルを修復をしてもらっても状態を維持することしかできません。今、必要なのは治療です。医療用データをインストールされたプニカは他に誰かいませんでしたか」

「緊急用の医療データパックなら船内にあったはず。今からインストールの手配をするべきですね」

「プニカ三十五号。プニカ十四号戻りました。プニカ七号を連れてきましたよ」

「プニカ七号、ここに」

 疲れの取れてない顔で言う。

「プニカ七号。至急生命維持装置の修復を願います。プニカ二十一号もサポートをお願いします」

「分かりました。ではプニカ三十五号、医療データパックの方を」

「はい。プニカ十四号。確かあなたはデータ要領に余裕がありましたね。今から緊急で医療データのインストールを行います。これからプニカ二十八号へ申請を仰ぎ、準備に入ります。至急ラーニングルームへ向かってください」

「了解しました」

 さて、どれがどのプニカだっただろうか。

 プニカがプニカの確認を待つ間も惜しみ、プニカとプニカにプニカを呼ぶように指示を出し、戻ってきたプニカと確認を終えたプニカに指示を与えた後、一方のプニカはプニカとプニカにプニカへの申請を……。

 ともあれ何人ものプニカが慌しく動き回っていた。

 これは人命に関わっているだけではない。人類の存亡に関わっている。

 ミスは許されない。この失敗の損失は計り知れないほど大きい。

 プニカたちはこの任務を果たすために生きて、働いているのだから。

「機体コードの認証。チェック。メーカー一致。比較的新しいポットです」

 どれかのプニカが言う。

「ですが、スリープのデータはかなり古いようです」

 また違うプニカが答える。

「状態から算出できますか?」

 どれだか分からないがプニカが訊ねる。

「スリープ期間は不要な情報です。回復を優先させてください」

 結局プニカが答えた。

「どうやら男性のようですが、衰弱状態が無視できません。肉体の治癒、細胞組織の正常化には時間を要します」

「どのくらいが想定されますか?」

「五十年くらいでしょうか。『ノア』の技術ではかなり難しい施術になるでしょう」

「全力を尽くしてください。この方は将来、人類繁栄の礎となる方です。次のプニカに託さねばなりません。私は、プニカは、この方の子供を生むのです」

 誰だか分からないが、プニカは力を込めて、そう言った。

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