終幕

閉店『羽村さん、また明日』

「はぁ、くたびれた。もうアイツの車には乗らないからな。どんだけ金積まれても絶対に乗らないからな!」

 事務所に戻る階段で、俺は本人が居ないことをいいことに、大声で宣言した。

 仕事自体は問題なく終えることができたのだが、その代わりに受けた被害には文句の言葉しか出てこない。

 兜一とういちはよくあれで違反切符を切られないなと思う。スピード違反はしてないかもしれないけど、運転が荒っぽすぎて腰が痛くて仕方ない。

 これが俺の新たなる不幸の温床として定着しないことを祈ろう。

「あはは、最初はびっくりしましたけど、私は途中から慣れました」

 さらっと何を言い出すんだこの子は、と俺は目を丸くした。意外と清子きよこくんは遊園地のテンション高めなアトラクションもイケる口なのだろう。俺は彼女の意外な一面を知ってしまったのかもしれない。

「それでは、今日はこれで帰ります」

「ありがとさん、急に仕事付き合わせちゃって悪かったね」

「とんでもないです。それでは羽村はむらさん、また明日」

「おう、気をつけて」

 いつの間にか、こんなやりとりが当たり前になっていた。とはいえ、こんなやりとりもいつかは終わる。

 清子くんだってずっとここで働くわけではないし、俺も正社員なんて雇えないわけで、遠くない未来にそれは当たり前ではなくなるのだろう。

 だけど俺は、清子くんがここに来ることを望む限り、「また明日」という約束だけは守ろうと思う。

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