3-13『激闘、デカブツリレー』
敵味方合わせて八組が横並びになる。出場者には考案者だけあって
というか、あの婆さんはいくつ参加してるんだ、参加数に制限があるんじゃなかったのか。なんて言ったら「全部に出ているわけじゃない」と言い返されそうな気がするが。
終盤ということもあり、決戦ムード漂う中、のほほんとした空気を漂わせていた
イメージトレーニングのつもりなんだろうか、しかしそれはどちらかというと関取のポーズなんですけど。
そんな変な行動を隣で見ていると、黒木田さんが突然こちらを振り向いてきて、爽やかに白い歯を見せた。
「がんばろーぜー、相棒!」
「なんで急に馴れ馴れしいの!」
「私はー、とにかく全力でドーンって押しますからー、
「ドーンとズババーンの差は何!」
親指を立てていきなり小粋な雰囲気を出そうとする黒木田さんに対し、俺は不安で脂汗が滲み出てきた。
普段よりもテンションの高い黒木田さんは危険だ。周りが見えてないから絶対に何かをやらかす、主に俺に被害が出るタイミングで。
……もう、不幸の神が俺達二人の間に立って、今か今かと不幸に引きずり込むタイミングを見計らっているとしか思えない。
「お二人とも、もうそろそろ始まりますよ!」
「って、やめて! なんか肩痛い!」
肩を軽く回し、なんとか問題がないことを確認してから、俺と黒木田さんはスタートラインに並ぶ。と言っても順番が回ってくるのは最後なわけだけど。
最初に走る巨大バトンチームが、一様にバトンを横に倒し、前後に人を配置していく。
我がチームは
「相手はあの婆さんか、相手にとって不足なしっすねぇ」
木崎の婆さんはうちと同じ理由で、巨大バトンを担当しているらしい。棒を立てる際に補助する役目なのか、ガタイの良い中年女性がペアに付いていた。
椿さんはやる気満々だが、それと対象的に清子くんは真剣な顔でひたすら前をじっと見ていた。この子は真面目過ぎるのが長所であり、短所だなと思う。いや、真面目に生きているとは言い難い俺が偉そうに出来る話ではないけど。
「お嬢さーん、清子ちゃーん、ファイトしちゃってください! 気張って気張ってー!」
結構遠くにいるはずの
「アイツめ、帰ったら膝の上にで岩乗せちゃる。トゲトゲした奴」
「い、
無謀な応援が、身を滅ぼすこともあるということを、俺は初めて知った。
そんな変な空気の中、スターターが現れ、アナウンスがスタートの合図を始める。ピストルを上空に掲げると、参加者が皆各々の姿勢でバトンを持つ手に力を込めた。
「よーい、ドン!」
開始の合図とともに、第一ペアが一斉に駆け出した。
それは見物人達の歓声が、参加者の背中を押し出したようにも見えた。
まずトップは木崎の婆さんチームが取ったようだ。老婆とは思えない機敏な動きで、敵味方問わずどんどん距離を離していく。
それに対し、意外にも椿さんと清子くんは善戦していた。簡単には離されまいとしてか、見に見えてペースがあがっている。
折返し地点に付くと、椿さんと清子くんは必死にバトンを起こし始めた。フラフラとする中、大人の平均身長一人半分はある高く太い棒を、スタンドに一生懸命立てようと試行錯誤する。
一方木崎の婆さんは、反対側に主婦を立たせ、婆さんが気合の一声とともにバトンを放り投げるように引っ張り起こした。待ち構えていた主婦はバトンを全身で受け止め、婆さんと一緒にスタンドへストンと立てる。
「な、なんていう手際だ」
「うちのジジィは、婆さんのあれと張り合って練習してる時に腰をやっちゃったんだ」
「……あのジジィの方がよっぽど年相応に思えてきた」
などと話しているうちに椿さんと清子くんもようやくスタンドにバトンを立て、四段の箱を受け取った。ルール上、分担して二つずつ持っていくことは出来ないので、二人で両端を持ってこちらまで運んでくる。
木崎の婆さんは既にスタート地点まで戻って、バトンとなる箱を既に置いてある箱の上に置き、八段に積み重ねていた。
少し遅れて椿さんと清子くんが汗だくで戻ってくる。特に椿さんは動物のうめき声のようにひぃひぃと落ち着かない呼吸をしていた。
合流すると、婆さんと同じように板に乗っかった四段の箱の上に、持ってきたそれを重ねていく。一番下の板には、神輿の担ぎ棒みたいな太い棒が二本通してあり、それで比較的持ち上げやすくなっているようだった。
手伝いたいところだが、残念ながら第三ペアである俺達は手出しが出来ないので、後ろで見ているしかない。
手早く準備が終わると、
「よっしゃ! 一気に巻き返す!」
「お、おうよ」
「声が小さい! 気合入れて! せーの!」
と、二人は掛け声に合わせて板を腰の位置まで持ち上げた。どうやらお神輿スタイルで持っていくらしい。
「荷物落としたら後で背中に膝蹴りかましますから、そのつもりで!」
「なんで僕が仕切られて……」
「グダグダ言わない、勝ちたいんでしょうが!」
「わ、わかってる! じゃあ行くぞ、せーの!」
草川さんの怒鳴り声に押されて、前方を担当する冷蔵庫くんが進み始めた。それに合わせる形で、後ろの草川さんが地面を踏むタイミングを合わせる。
箱がグラグラと揺れて、崩れやしないか心配だったが、動きの安定しない冷蔵庫くんの動きに草川さんが機敏に合わせる形でバランスを保っている。
「やたら器用だな、彼女」
「
妙に仕切りが上手かったのはそういう経験によるものだったのか。
「高校でも、体育が苦手なクラスメイトを科子ちゃんがしっかりフォローしてくれるから、みんな嫌々やらずに済んでるんです」
「ワタシ、とかね」
余裕のない笑顔を見せながら、椿さんは自分を指差した。むしろこの人の場合、草川さんに背中蹴飛ばされてやるタイプな気がするけど。
「すごいですねー、トップに追いついてきましたよー!」
黒木田さんの言う通り、木崎の婆さんに付けられた差が、みるみるうちに縮まっていった。折返し地点に着く頃には、ほぼ差がないところまで詰めていた。
二人は箱を崩さないよう手早く板を下ろすと、すぐさま大きな台車を受け取り、力一杯ハンドルを押し出した。するとあまりの勢いに前輪が浮いてしまい、草川さんの怒号が飛んだ。
「羽村さん良かったですねー、私達が転がす大玉が鉄球みたいに重くなくてー」
「気にするとこ、そっちなんだ」
「あー、そこに立ってると危ないですよー」
「え? あっ」
黒木田さんに目を向けている隙に、台車がすぐそこまで突っ込んできていた。目を血走らせた二人に「どけぇぇ!」と怒鳴られ、俺は弾かれたように横へ飛び退き、ぶっ倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます