2ー3『事件記者・羽村正貴の夢』
俺はしがない事件記者、
どんな難事件の真実も調べ尽くし、解き明かすのが心情だ。というわけで仕事がてら、難事件を推理してしまうわけだが……。
警察は、俺が介入すると面子が潰れる、と言ってあまり良い顔をしない。帰国子女だとかで、何かと天狗になっている冷蔵庫刑事は、特に俺のことを目の敵にしている。
まあ、彼等の面子など気にしていたら、事件の真相を解き明かすことは出来ないから、俺は怒られない程度に立ち回るわけだが。
今回の事件は、動く密室の定番とも言える長距離列車で起きた。たまたま乗り合わせた俺は、警察よりも早くこの事件と遭遇することになった。
被害者は財閥の社長で、宛てがわれた個室の中で殺されていたとかいう話だけは聞いている。実際のところどうなっているのか、今から現場に向かって検証しようというところだ。
果たして今回は、どんな謎が俺のことを待ち受けていることやら。
「失礼致しますー。お客様のお切符を拝見致しますー」
へ? と、俺は腑抜けた声で返事をした。
そこには、
俺は、すぐにポケットから切符を出そうとした。だが、どこにも見当たらない。
「あらー? もしかして、紛失されましたー?」
のんびりとした催促が、逆に俺の焦りを誘う。ポケットが破れんばかりに手を突っ込んでいると、胸元のポケットに手応えを感じた。
慌てて中身を取り出すと、相棒のハムスターであるぽんすけが、何かをポリポリと齧っているところだった。
コイツが食べていたのは、なんと切符だった。
「って、何食ってんの! 大事な切符だぞ!」
『んあぁー? オイラ腹減ったからよぉ、何かないかと思ってたらこれがあったからさぁ。あんま美味くなかったけどなぁー』
見間違いであって欲しかったが、当事者の自供から、最早疑いようがなかった。コイツは切符を食べてしまったのだ。
「どうやらお切符を紛失されてしまったようですねー。では仕方ありません」
黒木田車掌は右手で手刀を構え、そして客車の床に向かって切り裂くように薙いだ
刹那、金属が斬れる音とともに、客車が俺と黒木田車掌を隔てるように真っ二つとなった。
「無賃乗車はお断りしておりますー。またのご乗車をお待ちしておりますー」
「って、これじゃ俺達が死……!」
という抗議の声をあげようとする前に、客車が突然燃え始めた。あの車掌の手刀の一撃で火花が出てたけど、まさかそれでか!
『ど、どうすんだぁ! もう飛び降りるっきゃねぇぞぉ!』
そう言われて背後を見ると、もう後ろは紅蓮の炎に包まれていた。
俺は飛ぼうとしたが、足元を見るとそこにあったのは暗黒の世界だった。
先の見えない暗闇は、紅蓮の炎で薄っすらと照らされているが、それでもその奥は何があるか、判別出来ない。
そうこうしているうちに、炎が俺の背中を焼いた。
「熱ぃ!」
その一言とともに、俺は暗闇の中に飛び込んだ。すぐそこにあるはずの地面はどこにもなくて、崖から飛び降りたかのような風圧が、俺を襲った。
「うぎゃあああああああ!」
『助けてくれぇぇぇぇ!』
闇はどこまでも続いた。いつ終わるとも知れず、どこまでもどこまでも……。
◆
コンコンと扉を叩く音に起こされ、俺は目を覚ます。気がつくと、俺は事務所の床とキスを交わしていた。
どうやらソファーで寝ているうちに、寝返りを打って落ちていたらしい。
「うぅ、なんか舌がザラつく感じがする」
とても埃っぽい味がした。普段から暇を持て余しているから、掃除を長い間サボった記憶はないが、思った以上に汚れているらしい。
ゆっくりと起き上がった俺は、ふとぽんすけが気になってケージへと振り返った。
『おぉ……何故なんだぁ……何故カリカリ飯が猫になるんだぁ……』
ぽんすけはぽんすけで、別の夢でうなされていた。夢の中とはいえ、コイツのせいでサスペンスドラマの主役になり損ねた恨みは深い。しばらく悪夢で苦しんでおいてもらおう。
「っていうか、お客?」
寝惚けていた頭が覚めると、ドアのノックにようやく意識が向いた。
「羽村さーん、いらっしゃいますかー? おかしいな、声は聞こえたんだけど……」
扉越しに聞こえたのは、聞き覚えのある少女の声だった。
時刻を見るとなんと昼過ぎになっていた。あれこれ考えているうちに、あろうことか熟睡してしまっていたようだ。俺はもしかすると過眠症かもしれない。
それはさておき、来客を放置するわけにはいかないので、俺は寝惚け眼を擦りながら、呼びかけに応答した。
「はーい、はいはいはい。いやーすいませんね、お待たせしまして……」
俺は、扉の前に居た人を見て、一瞬固まった。
真ん中に居るのは、なんだかすっかりお馴染みになりつつある
しかし、今日はその隣に見知らぬ少女が二人立っていた。
左には、俺のことを訝しげに睨むボーイッシュな少女が居た。紺のジーンズを中心としたワイルドな服装も相まって、威嚇されているような気がする。あの目付きからして、実際そうなのかもしれないけど。
もう一方には、背が物凄く低い少女が、不敵な笑みを浮かべて笑っていた。小学生にも見えるが、雰囲気に子供っぽさはない。実際、自分の年齢を主張するかのように、少し大人っぽい厚手のワンピースを着ている。
「えーっと……」
「あ、二人は私の友達です。今日はいつもの用事じゃなくて、羽村さんにお仕事を頼みたくて」
「へぇ、仕事ね。……仕事だって!」
俺は思わず大声をあげてしまった。
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