カナタへの蠅

裳下徹和

第1話 八角形の金網の中で

 相手に馬乗りになり、顔面に拳を叩き込んだ。拳に衝撃が走り、相手の鼻が潰れた。

 容赦無く殴り続けた。前腕が張って手を振るのが辛い。心臓も爆発しそうだ。それでも殴り続けた。相手は、苦し紛れに背を向けた。すかさず首に腕をまわし締め上げた。

 レフェリーが試合を止め、ゴングが打ち鳴らされる。相手は顔面を鮮血に染め、口からよだれを垂らして失神していた。

 会場全体が拍手と歓声に満たされた。両手を挙げて観客に応える。手を上げるのも、立っているのもきつかった。強敵だったが、何とか勝てた。しんどくて倒れそうだったが、、なんとも言えない快感が僕を包み込んでいた。

 八角形の金網の中から観客席を見渡してみた。見知った顔も見て取れる。ふと客席の最上段に目をやると異質なものが目に入った。

 仮面。白い仮面を被った人間が立っていた。

 一瞬見とれていた僕の手をレフェリーがつかみ、天井に向かって差し上げた。再度観客から歓声が巻き起こった。逆の手も突き上げて観客に応えた。

 もう一度二階の端を見上げてみたが、そこには誰も存在しなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る