第27話 次週解決!二時間SP殺人事件
「犯人はこの屋敷のご主人、そう、鬼屋敷太ろ……」
「ちょっと待った!」
「ん?」
関係者が集められた広間。探偵が真犯人を指差し、真実を叩き付けようとしたその瞬間。メガホンを持った若い男が割って入った。突然推理を邪魔され戸惑っているのは探偵ばかりではない。犯人として名指しされた屋敷の主人も、周りの使用人達も皆声を上げた青年に注目した。青年はニヤニヤと薄っぺらい笑みを浮かべながら、長身の探偵にすり寄った。
「真田先生、ちょっといいですか?」
「何ですか? あのねえ君、TVの取材だか何だか知らないけど、今一番いいところだったのに……」
「それなんですよ!」
憮然とする真田探偵に、番組スタッフの青年はメガホンを手で叩いて見せた。二人の会話を映そうとカメラが数台近くに集まって来て、真田の周りにあっという間に人だかりができた。
「やっぱりドラマでも、ミステリの醍醐味って『犯人特定』の瞬間にあるじゃないですか。だからこそ、僕達番組を作る側としても、ここはもっとドラマチックに演出して行きたいんです」
「ドラマチックって、これはドキュメントの取材じゃないのか?」
「ええ。ドキュメントという名のドラマです」
番組スタッフの若者は一人納得したように笑顔で頷いた。
「だからですね……『犯人特定』は、来週先生に生放送でやってもらおうかなって」
彼が何を言っているのか分からず、真田は声を荒げた。
「ちょっと待ってくれ。そんなこと言ったって、こっちはもうトリックも解いたし、犯人の名前も途中まで言っちゃったよ。後、『う』だけだ」
「その『う』を、来週まで引っ張りましょう。編集で何とかするんで」
「何とかするったって……」
真田は同じように困惑する周囲の関係者を見回した。待ちぼうけを食らった屋敷の主人が肩をすくめた。
「我々はどうすれば良いのかな?」
「そうですね。推理を聞いてなかったことにしましょう。来週またここに集まってください」
「そんなことできるか! 人が殺されているんだぞ」
「できなくても、やってもらわないと困りますよ。昨日の会議で、来週二時間スペシャルで生でぶち上げて行こうって決まったばっかりなんですから」
呆然とする真田に、青年があっけらかんと言ってのけた。カメラの前で立ち尽くす探偵の元に、マフィア顔の警部がやって来て耳打ちした。
「真田、大丈夫だ。容疑者の身柄はこちらで拘束する。来週また君はここで、『う』を発表してくれればいい。TV側のことは、向こうが編集で何とかしてくれるだろ」
「ちょっと! 猪本警部まで何言ってるんですか!?」
「真田……折角の君の取材じゃないか。全国区になるチャンスだぞ? 君、億単位の借金があるなんて噂もあるそうだな。スポンサーのこととか考えたら、ここは素直に番組スタッフに協力しておいた方がいい」
「う……」
マフィア顔の警部の迫力に、真田は一瞬言葉を詰まらせた。警部がそこまで言うと言うことは、恐らく警察側にも何らかのメリットがあるのだろう。泣きそうな顔になった探偵の元に、扉の向こうから学生服姿の少女がおずおずと近づいて来た。
「あれ? 先生、もう事件解決しました?」
「後、『う』だけだ……」
「う? 何言ってるんですか?」
「警部! お願いです、『う』だけ言わせて帰らせてください! 『う』だけ!」
「ダメだ。TVを通して世間一般に警察の仕事を、ひいては君の仕事を啓蒙するのも立派な社会貢献だ。もう俺達も予算下りてるしな。君は来週、二時間生中継を『う』で何とかするんだ」
「そんな……!」
真田はその場に膝をついて崩れ落ちた。こうして広間に集まった関係者達は一度解散させられ、真犯人・鬼屋敷太郎は納得いかないといった顔で警察に連行されて行く。その一部始終をカメラが追いかけ、メガホンの青年が満足そうに声を張り上げるのだった。
「ではまた! 皆さん、来週の解決編でお会いしましょう!」
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