40b

 風は収束する。ミドセが一瞥すると座り込んで正気を見失ったセドの肩を揺する。少し反射的な挙動はあったが反応はいまひとつ。彼女は指を弾き円陣を展開する。弧と幾何学の円は幾多に立体的に、淡い緑を放ちながら光で軌跡を生物のように描く。セドはそこで我に返ったのかこちらに顔を上げるがどこか生気がない。ただいつもより夜の様な色だとミドセはぼんやりと感じるのだ。


「俺がちゃんと視なかったから、こんな能力があったせいで……」


 半ば呪う詞だ、肩を落として琥珀の目を閉じる。自分の中に流れる音を掻き分けて、最良の位置を見計らうために。


 そして見つける。予備動作。手をゆっくりセドの額へ、見下ろすように双方の月が魔を注ぐ。


「あのね、君は精神的に引きずるんだよ、今もまだ引きずっている。現実空間で先読みしてしまうこともある。その未知数な能力のせいで」


 風が周囲を這い回る。光すら風圧で掻き消してしまいそうな状況。セドは反応しない、ただ溺れたままの様な姿で虚空を見つめていた。ミドセは息をゆっくり落とし、月を細めた。


「そうだな、代償は〈僕の持つ、この世界に関する知識一式〉で、この程度なら余るから君の能力に〈制限〉をついでにかけてあげるよ。無意識に視すぎないようにすればきっと――」


 半月は三日月に、やがて闇へと変貌し風が止む。





――いや、それは僕の管轄外の〈世界〉だ。

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