33b

「〈お姉さん〉、何を手伝えばいいですか?」

「そうだな、君は長命だって言ったよね。術式組み立てながら聞くから君が知る限りの〈吸血鬼〉について教えてくれないかい?」


 またの呼び名に呆れたゆえに、出来る限り優しく、ミドセはそう尋ねた。とは言ってもどうしても冷たく聞こえたらしい。やはりクトロカは怯えるような仕草をみせてくる。それでも頷くあたり、純粋な性格なのだろう。


「でも、さっきの話を聞く限り、ほとんどわかったんですよね」


 上ずった声が耳に障った。ミドセは「まあ」と紡ぎながら糸のように光る魔力の線を交差させていく。


「それでも、推論はたくさんあってどうしても僕が落ち着かないんだ。君は〈トゥティタ〉と違って経過年数もあるし、頭が良さそうだ、だから興味があってね」


 言いながらも彼女はクトロカには目を向けない。明らかに視線を合わせることで、怯む光景が現れることは読めているからだ。


「たとえば、どんなことをお話したらいいですか」

「そうだな――」


 精神を集中させるために息を大きく吐き、そして吸い込む。


「名前が変わってるっていったけど、前はなんて名前だったの?」

「え? ええっと、〈カリオ〉です。貴方とは違う人みたいでしたが、その、吸血鬼さんは貴方と同じように優しい声でいい名前だって言ってくれました」

「君は昼に飛ぶ鳥の種かい?」

「いえ……本来は夜に飛ぶ種です。この通り、羽がなくなってしまって飛べませんが。夜に目が光るって言われるのでなんとか飛ばなくても過ごせています」


 クトロカが息を整えながら答えを述べる。たどたどしいが、いざ話し始めると解けたのだろうか、緊張を次第に消滅させるような、落ち着いた声だった。一方、指だけを動かしながら考えていたミドセは、ある程度の沈黙のあと、目をクトロカへと向けた。若干だが、びくついたのが視界へと映った。だがミドセは気にしない。そのまま口を開き、言葉を示した。


「それじゃあもう一つ手伝ってもらうよ」

「はい、なんでしょうか」


 再び。一瞬にして緊張が走ったのを見たミドセは、そのまま笑みを見せて、編み込むように操っていた指をそのままクトロカへと向けた。


「このまま終わろうか。〈置き土産〉さん。イトスに預けた〈銀の弾〉といい、僕の手を見ての悟りといい、君は少し隙を見せすぎた。見計らって排除しようとしていたようだけど、僕で残念だったね」

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