第13話 コマンド?

 デイジーが彼らを疑った理由。


・テロリストたちが見せしめに公開した映像では無人機ばかりだったのに対し、直接軍人が乗り込んできたこと。

・戦車など学校を制圧するだけなら大袈裟な兵器の投入。加えて対空用の高射砲まであったこと。

・軍人たちが電子端末を装着していないこと。ルーシーの拘束に電気錠ではなく縄を用い、電脳システムが関与する電子制御を避けていること。


 以上の判断材料からデイジーはひとつの空想を導き出した。彼らはテロリストではない。それが的中した。

 彼らは通信が混乱する直前に連合政府の指示系統のひとつであるゴトウによって編成された、言わば〝アナログ中隊〟だと指揮官は名乗った。敵からの妨害を避ける為、外部から影響を受ける電子制御を避けた兵装ばかりの部隊だ。

「保護する目的で来たというのに突然襲われたので、君たちも既に取り込まれたのかと思った」

 隊長らしい男から説明を受け、デイジーは苦笑いの横目で隣のルーシーを見やる。

「あれは私もムチャだと思った。止める間もなかったが」

「だって先手必勝しかないと思ったんだもん」

 本人は大して悪びれずに縄で擦れた手首を撫でている。

 場所は中庭に設置されたテント。設置されたライトが眩しいくらい、机を挟んで座る4人を照らしている。指揮官、デイジー、ルーシー、それにアキラだ。

 常識では教師なり成人が対話の相手となるところだが、正常ではないこの状況で常識を気にしても仕方がないと、指揮官はデイジーを指名、ふたりも同行した。

「通信が信用できない状況で連絡もなしに接触した以上、誤解は起きても仕方ない。それよりそこのアマゾネスにやられたうちの部下の現状を知りたいのだが」

 デイジーは眉を傾け、信じられない想いでルーシーを見つめた。

「……倒したのか?」

「ブービートラップにやられた30名ほどが拉致された。あっという間だ」

 指揮官の補足にルーシーは誇らしげに胸を張る。

「ブルーハギルドの連中がアタシの畑にイタズラするからさ。罠作っといたやつがあったじゃん」

「アレは撤去するよう言っておいたはずだが……ああ、もういい」

「トゲトゲとかは外しといたよ」

「もういいと言っているのに」

 ダンスルームの壁に激突して失神した、アキラを乱暴に扱った隊員を思い出せば納得もできる。

「――今確認しました。貴方の部下は寮の各部屋に閉じ込められているそうです。もう解放してあるから、すぐに戻って来るでしょう。どうかこの部分までを誤解の一端と思っていただきたい」

 話しながら電子端末でやり取りした結果、生徒会役員たちがルーシーに協力していたことがわかった。防火シャッターを利用して追っ手を遮り、電子ロックで捕虜の幽閉に手を貸した。「会長が認める手段では抵抗できないと思って相談しなかった」というのが彼らの弁だ。

「校内のネットワークは孤立していて侵入される心配はないので無線も使えます。ゲストアカウントを配布するので通信に使ってください」

「助かる。現状本部とも連絡が付かんので我々はここで孤軍奮闘することになる。だがなにしろ急遽のことだったので何日もは持たん。救世主殿にはなるべく早く動いてもらいたいのだが」

 指揮官の厳つい相貌に射すくめられ、アキラは体を震わせて顔を下に向けた。そうして目に入る机には今時なかなか見かけなくなった紙の資料、シラハネ高校の全体図が広げられている。

 彼らはゴトウの命令で、詳細な作戦指示を受けずにここへ来ている。さぞ驚いたことだろう。守るべき事態の命運を握る救世主が、ここにいる意気消沈したか弱い少女だと知って。

「あの……ゴトウさんは元気?」

 おずおずと、気弱な声でアキラが尋ねる。それが指揮官には頼りなく感じられたようで、返事の語気が強まった。

「ゴトウは現在衛星とミサイル基地の防衛に当たっている……そう考えられる。こちらに手を回す余裕はないはずだ」

 デイジーの驚きの声はもっと激しいものとなった。

「ミサイル? まさか! ネットワークを抑えただけで彼らは圧倒的優位に立っている。地球の破壊が目的でもなければそんなこと――」

「既に敵も正常ではないのだ!」

 一喝が場を鎮める。子供相手に取り乱した自分を恥じ入ってか、指揮官は顔を覆った。

「……すまない。だが状況は逼迫ひっぱくしているとわかってくれ。敵はある意味で既にテロに失敗している。奴らの目的はネットワークを支配したうえで連合政府と交渉することだった。当初はな」

 しかし既に破壊が行われていることは誰もが映像で見せつけられている。

「奴らの電脳上の主力となる個体が――いや、違法な手段で破壊的な電脳歴を獲得したメンバーが反乱を起こし、内部崩壊している。君たちと同じ年頃の子供を兵器にしておいて、制御できないほど増長させてしまったんだ」

 これにはさすがにルーシーも深刻な顔つきになった。

「じゃあ、なに? 今大暴れしているのは子供? オモチャを振り回すみたいに街を壊してるの?」

「その通りだ。本来の首謀者は既に〝自首〟している。『あの悪魔たちを止めてくれ』と勝手なことをぬかしているそうだ」

 電脳技能は接続時間が物を言う以上、電脳システムが導入される以前に生まれた成人では子供に敵わない。時代の断層がこの地獄を作り出した。

「ゴトウはこの窮地を打破できる唯一の可能性がアキラ・シラユキにあると言い、だからこそ我々はここに来た。頼むアキラ・シラユキ。やがてここへも無人兵器がやって来る。防衛はするが、何日もは持たん。なんとしても君に戦ってもらう」

 じっと下を向いて動かないアキラを庇うように、デイジーがその頭を撫でる。

「実は――彼女はテロリストには勝てないのです。敵はアキラ以上の電脳技能を持っていて、しかも複数いる。絶対に、勝てません」

 苦いものを噛み潰すような顔で、デイジーは釈明した。虚を突かれた顔で、指揮官が聞き返す。

「勝ち目がない? 万にひとつの可能性もか」

「現実ならば奇跡が起こることもあるでしょう。しかし電脳はそういうところではありません」

 沈黙が生まれる。指揮官はややヒゲが浮き始めている顎を撫で、小さく「ゴトウめ」と呟いた。

 やおら立ち上がったとき、アキラは役に立たない自分が叱られると思って身を縮めた。しかしそうはならない。

 傍らのヘルメットを手に取り、指揮官は気を付けの姿勢を取る。

「我々は命令を実行する。なんとしてもこの学校を防衛しよう。君たちもそれぞれできる限りのことに当たってくれ」

 言葉にはしない。だがアキラを見つめる瞳は明確に語った。アキラは顎を引いて何度も首を振る。

「そんなこと言ったってなんにもできないよ! ママに捨てられたボクなんか! なんにも、できないのに!」

 嘆きの声は聞かずに指揮官は足の向きを変えた。立ち去ろうとしてすぐ、首だけ振り返って今度はルーシーを見る。

「おい、アマゾネス。お前卒業後の進路は決めているか」

 机に肘を突いていた手から顔を上げ、ルーシーは首を傾げる。

「なに? こんな時に。……自然に帰るつもりだったけど」

「なんだソレは。公共の役に立ちたいと望むなら就職口を世話してやる。考えておけ」

 言ったきり返事も聞かずに離れていく背中を見つめ、ルーシーは唇の端を釣り上げる。

「……期待しとくよ」


「私は一旦、地下の生徒たちに事態を伝えに行くが、君たちはどうする?」

 デイジーにそう聞かれ、ふたりはなんとも返事ができなかった。このクソ真面目はわざわざ八つ当たりの標的になりに行くのだと、呆れる気持ちがルーシーには沸く。

「そうか、なら好きにするがいい」

 最期の時間と死に場所を選べと、そう言っているに等しい。

 デイジーを見送ったあとルーシーは中庭の端へ寄り、彼女が丹精込めて世話していた畑の前で屈み込んだ。

「もうちょっと時間があれば料理して出すくらいできたんだけど、これじゃあねえ」

 芽を出したばかりの双葉を引き抜くと、根が少し伸びた程度の未熟さだった。これから成長するはずだったのに、もうすぐ戦火が届く。

「ま、アタシ料理できないんだけどさ。煮ればとりあえず食えるでしょ」

 その声がわずかに震えたのが、隣に立つアキラにはハッキリとわかった。

 ルーシーがアキラに縋りついて泣き出す。

「家事とかちゃんとできるようになって、アキラのお母さんになってあげたかった! でもゴメン。なんか……ムリみたいなんだあ」

 アキラとふたりになり、静かになって、ここで死ぬという実感が湧いてきていた。自分の力が及ばないところで決着してしまうことが悔しくてならない。アキラを守るつもりでいたのに、果たせない自分に腹が立って仕方がない。

 アキラは大きな体が自分の膝のところで謝っているのを聞きながら、不思議な気持ちになった。

(ママは多分、こういうヒトになりなさいって言ってたんだよね)

 デイジーの言葉を思い出す。

『嫌なこと、辛いことがあるほうが現実だ』

 ならここは、もしかすると現実ではないのかもしれない。

 そしてすぐにルーシーの言葉を思い出す。

『なにが現実だって、どこにいたって、そこで一所懸命がんばるの』

 その意味を今ここで初めてアキラは考える。

(うん。……どっちだっていいなあ)

 自分は今ここにいる。では、一所懸命だろうか? 力が及ばないのは自分のほうなのに、責めることもせず泣いているこの優しいヒトにしてあげられることはないだろうか。

「ねえ……おねえちゃん? ボク、やりたいことがあるんだけど」

「なに、おっぱい揉む?」

「ちがうよ」

 笑ってしゃがんで顔の高さを合わせ、更に近付いて唇を重ねる。勢い余って押し倒されたルーシーは成り損ないの根野菜よりよほど赤く熟する。

「……そう言えば、キスはしてなかったかも」

「えへへ、あともうひとつあるんだ」

「今度こそ揉む?」

 そうじゃなくて、と息の届く距離から離れ、手と手を合わせふたり立ち上がる。

 電脳端末で公共ネットワークにアクセスし、今なお続けられている目を背けたくなるような破壊の映像を受け取って複合現実に投影する。ルーシーも電脳深度を上げつい細目になりながらも同じものを見た。

「どうかしたの? あ、今映ったの……近くの駅だ」

「コレやってるの、ボクの知ってる子かもしれない」

 言われてルーシーは耳を疑った。

「知ってる子って……もしかして仮想空間で遊んでたお友達? でもそれは会長がサーバーの設定だったって」

「ボクと同じように電脳に閉じ込められてたんなら、同じ場所で過ごしてたかもしれないんだ。わからないけど、確かめたい。もしそうならこんなコトやめさせたい」

 もしかしたら、という予感がアキラにはあった。ルーシーにも伝わる。

「……会長に相談してみよう」

 もしそうならこの地獄を終わらせられる、そんな救世主にアキラは成り得るのかもしれない。

 暗くなった空を振り仰げば、遠くに沈んだはずの夕日と同じ赤色が戻って来ていた。


 話を聞いたデイジーは、しかしふたりと同じ光明を見い出せなかった。

「君が『監禁されていた』というのはネットワーク上でも同義で、外部からアクセスを受け付けることは不可能な状態だった。専用回線もなしに共用のネットワークを通じていたなら君の接続継続時間は目立つからもっと簡単に発見されている。わかったな? これで承服してくれ」

 生徒たちに事情を説明したあとも宛先違いの抗議をひとりで受け付けていたデイジーは疲労の色が極まっている。しかし必死なルーシーは容赦がない。

「そこはホラ、偽装されてたとか。アタシはよくわからないけど方法はあるんでしょ?」

「反論の根拠まで私に考えさせないでくれ。それをやるには電脳の兵器を育てるために、あらかじめ同等の電脳技能が必要になる。矛盾だ。ムリだ」

 重ねて言っても隣で強情な顔つきをしているアキラを、デイジーは冷徹に睨み返す。

「そうだったとして説得できなかったらどうするつもりだ。彼らの〝遊び〟に混ざるつもりか?」

「やらない。ママはこんなヒドいコトしちゃダメって言う」

「ならば戦うか。きっと傷つくことになる。絶対に勝てない。それでもか」

「好きにしろって言ったじゃん。これがボクのやりたいことだよ」

 その気があれば、アキラは勝手にやれるはずだ。生徒会役員を押し退け学校のネットワークを再接続する。楽勝だ。外部のネットワークに直接飛び出して行ってもいい。

 それなのに許可を求めている。アキラが本当に欲しているものはなにか、推し量ろうとするデイジーは後ろからの声を聞いた。

「やってやろうぜ! どうせこのまま負けるんならやられっ放しはガマンできねえ。圧力には反抗するのが不良のテンプレだ。テンプレには従わなければ」

 振り返れば髪を逆立てた男子生徒が喚いていた。周りも同調している。あれはブルーハギルドの連中だ。手を焼いていた問題児どもが学校の危機に立ち上がろうとしている。

「そんな殊勝な理由ではないか。ここはお前らの縄張りでもあるものな」

 地上では戦闘が始まっているようで、砲撃の振動がここまで伝わってきていた。行動を起こすなら猶予はない。

 デイジーは長く息を吐き、腕を組むと背筋を伸ばした。生徒会長のいつものポーズを、生徒たちはひさしぶりに見た気がした。

「いいだろう。生徒会もサポートしよう。だがブルーハギルド! 我々は外部の公共回線から入るぞ。本校の通信容量はすべて救世主に明け渡す」

 特別扱いは気に入らないようだが、この期に及んで異を唱えるつもりはないらしかった。この期に及んではアキラに勝ってもらうしか希望はない。それを理解しているのだろう。

 デイジーは彼らほど前向きにはなれなかった。アキラは絶対に勝てない。もし多勢である相手の総力がその程度ならばこれほど追い詰められずゴトウがなんとかしているはずだった。あくまでも死に場所を探すだけのこと。

 それでも、デイジーはアキラにここで言ってやりたいことがあった。

「アキラ、君は――良い子だな」

 その一言で場にそぐわないほどくだけた顔でアキラが笑って、かくしてヤケッパチの狼煙が上がることとなった。



 情勢はまさに一方的。現実でも着々と制圧が進行している。各地で反抗は起きているが、兵器の生産工場から資源の採集工場まですべて支配下にあって、様々なオートメーションが兵力を無尽蔵に成さしめている。体力勝負になれば機械の勝ちは揺るがない。

「思ってた以上につまんねーなー」

 彼らがテロの主導権を奪った理由は、計画がつまらなさそうだったからだ。征服する実行力があるのに交渉なんて生温い。発案は誰からともなくで、「やろう、やろう」と全員が同調したのですぐに始めた。

 その結果があまりにも呆気ない。つまらない。

「ミサイル基地はどう? もうさっさと全部ぶっ壊そうぜ」

「あー、ダメ。自爆された。衛星も爆撃機なんかも無力化されてる」

「じゃあこのあと地上戦力縛り? マジでかー」

「2チームに分かれて勝負しねえ?」

「いやそれ、逆転しちゃったら困るから」

「あ、そうか。それじゃこのあと地道にやってくの? うげー、ダリぃ」

 落胆がチャットを埋め尽くした頃だった。

 ネットワークに小さく穴が開いた。それが世界の果ての一片であっても彼らは敏感に反応する。

「鼠だ! まだ遊べるぞ!」

 一挙に集合して我先にと攻撃を仕掛ける。なぜ今になってと不思議なほど大量のアカウントに対し、一薙ぎにアカウント締め出しバン

「うわっ、弱ぇ! ……ぅん?」

 接続情報をごまかして拒否命令をかわしたアカウントがひとつ、仮想空間に残っている。アバターは短髪の少女だ。及び腰で肩を縮めている。

「あーっ! コイツ知ってる。アキラ・シラユキだ!」

 侵入者はその一声に表情を輝かせたが、続く言葉ですぐに曇ることになる。

「破棄された落ちこぼれ! 俺らの計画の欠番メンバーだ」

「バーカ、誰でも知ってんだよ。途中で外されてメルヘンな環境設定で生きてたって奴だろ? 俺らみたいな訓練も受けずに」

 脳波を強化する投薬や、実験的な電気刺激を受ける日々から抜け出した裏切り者。そうした彼らにしかわからない怒りと嫉妬が渦巻く。

「全員でやったらつまらねえ。俺からやらせてもらうぜ!」

 指を弾くと、なにもなかったグリッド線の仮想空間が変化を起こした。周囲がすり鉢状にせり上がって闘技場の形を成す。

「いーぞー。やられっちまえ!」

 観客席から野次が飛ぶ。

「ンなバカな。負けるワケねーだろ。……退屈してたんだ。長く楽しみたいから気絶はするなよな」

 環境に相応しく、剣闘士の格好にアバターを変えた少年が挑戦者の前に立つ。砂を蹴って近付く。

 ひ弱な少女は情けない顔をして後ずさった。

「待ってよ、ボクのこと知らないの?」

「知ってるっつってんだろ不良品!」

 振り下ろした剣は横へ逃げられ空を斬る。追った視線の先で、標的は三つに増えていた。電脳上での分身、一般的なアカウントなら驚くところだが、彼らには承知済みの技術だ。

「ボクと同じサーバーで暮らしてたトモダチじゃないの?」

「しゃらくせぇ、ハジメマシテとサヨウナラだよ!」

 すかさず横一線にまとめて薙ぎ払い、3体一度に仕留める。観客席では「やっぱりつまらなかった」とため息が漏れた。

 だが、剣闘士の少年は見逃さなかった。切り裂かれたアバターが消える寸前、別の形に変わって笑うのを。

「――だそうだよ」

 それは彼らの姿よりも年上の男女。たった今陥落したネットワーク上の強AIたちのアバターであること彼らは知らない。

「ィィィイイ隙ありぃ!」

 突如上から降ってきた巨大なハンマーが剣闘士の少年を隠す。

 叩き潰された。ハンマーの柄を握るのは彼らが相手にしていたはずのアカウント、アキラ・シラユキだ。同じ少女のアバターでもずっと眩しい存在感を放っている。

「ゴメン、ありがとう!」

 自分の身代わりとなって消えた先の3人へ届くはずのない声をかけ、指先でペンを振り回すようにして巨大なハンマーを扱う。

「知らない奴なら遠慮はいらない。お前ら強いから弱い者いじめにはならないし、ママにも叱られない。やっと全力出せるよ」

 驚いたのは観客席の少年たち。

「えっ……やられた? アカウント抹消?」

「――ッフザけんなぁっ!」

 今消えたばかりの剣闘士の少年が砂上に戻った。アカウントを再発行して即座に復活した。

「あ、負けたくせにズッコい」

「うるせぇ! 不良品がナメたことしやがって!」

 剣を構えて突き出したが、アキラはそれをひらりとかわす。

「なになにローカルルール? ボクのとこじゃナシだよ復活なんて。一回引っ込まないと」

「そーだそーだ。一回引っ込め」

「あ――」

 さっきまで観客席にいた数人に囲まれて、アキラは逃げ場を失った。たったひとりとは渡り合えても相手が複数となれば太刀打ちはできない。

「コイツあとのお楽しみにとっとかねえ? これから地味な作業が残ってんだからさ、ログアウトできねえように捕まえといて」

「バーカ、電脳端末外されたら逃げられるだろ」

「あっ、そうか。……バカバカうっせーな!」

「それよりお前、負けたんだからひとりで世界征服やっとけよ。俺らコイツで遊んどくから」

「いくらなんでもそりゃねーだろ?」

 余裕しゃくしゃくの話し声を聞きながら、アキラは息を整える。

 少年ばかり3人。数は合っている。だが違うらしい。警戒心がまるでない丸出しのプロフィールにも思い出と一致する部分がまるでない。

(そっかぁ、みんなじゃなかったんだ。……ちょっと期待してたんだけどなあ)

 似た境遇で決定的に違う彼ら。電脳歴は監禁から解放された分か、やや負けている。

(まあいいや。一所懸命だもんね。ボクがんばるよ、おねえちゃん。見ててくれてるかな)

 囲まれて萎縮する気持ちを奮い立たせて燃やし、大きく息を吸い込む。境遇が似ているというのなら、同じことできっと傷つくはずだ。

「お前ら! ちんこ付いてたか?」

「テ――テメェ!」

 アキラの叫びに2人が逆上し、ひとりがゲラゲラ笑った。


<続く>


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