第8話 フレンド申請

 時間はアキラが生徒会サーバーに侵入する少し前に遡る。

 一日の最後の授業が終われば学校から連絡事項をまとめたファイルが各生徒に送られ、それを確認した時点ですべてのタスクは終了、放課後に切り替わることになる。

 本日のニュースは電脳の不正使用に関する警告と、被害を受けない為の注意喚起。要約すれば「ブルーハギルドに気を付けろ」と解釈できるが、学校側がそのことで根本的な解決をする姿勢を見せないことを改めて知った幾人かの生徒が陰鬱な顔をする。

 すべてに目を通し、デイジー・グレースは落胆することもなく席を立つと足早に教室を出た。

 彼女が他の生徒に比べて忙しいことは確かだ。だがそれは多少のことで、大慌てになるほど立て込んでいるわけではない。

 物言いや態度から周囲の生徒と馴染まずにいる彼女は孤独を感じないよう、自ら目まぐるしい状況に身を置くことにしている。その徹底ぶりは奇特なクラスメイトが「今日こそは」と意を決して声をかけようとするのを置き去りにするほどだ。

 周囲に苦手とされている以上に、周囲から苦手とされていると信じている。

 デイジー・グレースという女は、与える印象に反して卑屈である。


「ああ、今日も生き延びたぁ……」

 生徒会室へ到着するなり長く息を吐き、伸び伸びと背中を反らす。本人は気が付かない今日一番の笑顔が出た。他者の前ではけっして出ない朗らかさだ。

「会長さあ、青春の使い方間違ってると思う。学校楽しい? ゴメン。聞くまでもないか」

「人生を灰色に染めるのは構いませんが、ここを逃げ場にされるのは不快です」

「相手しなくちゃいけなくて処理持ってかれるのはこっちっスよ。自立してほしいっス」

 着席している3名はまっしぐらにここを目指したデイジーよりも先に来ていたわけではなく、電脳端末を通じて知覚される複合現実に過ぎない。過剰な感情移入を防ぐ目的で個人の指名も持たされていない生徒会役員たち。

 その人格は歴代の生徒会長をモデルとし、その選出基準は現生徒会長との相性の良さというのでデイジーとしては不服がある。

「なぜお前たちは私に優しくないかな。条件式の集合体にはわからないだろうが、朝起きて顏洗って学校行って寮に戻るまでずっと集団! 集団! 集団! その中をそっと泳ぎ回らなくてはならないのだ。質量差でバラバラに引き裂かれる。実際引き裂かれている、私の心が」

「勝手に自分を例外にしているところがイタイタしい」

「ならひとりでいてください。呼ばないでください」

「ルームメイトが会長との同室を拒否した申請理由、読むっスか?」

 慰めてほしいのにこの対応だ。余計に引き裂かれる。

「ああもう、うるさい! 会長になればAIが友達になってくれると思ったのに、詐欺だ!」

「会長が勝手に期待してすっ転んだだけっス」

 生徒のために活動しようという意欲がなかったわけではないにしても、生徒会長というポストに収まることで学校内に自分の居場所を作ろうという魂胆――下心はあった。今のところうまくいっていない。休み時間は自主学習、放課後はこうして生徒会室にこもってAIにいじめられる。

「違う。私が思い描いていたキャッキャうふふな高校生活と全然違う。一体どうして……」

 涙交じりの呻きのあとで、扉をノックする音が部屋に響く。無論音は入り口から、来客だ。

 役員一同と顔を見合わせたデイジーは素早く奥の席へ着き、よそ行きの表情を作る。しかしながら来客を迎える経験の乏しさからくる緊張で、渾身の柔和さを総動員しても微妙な笑顔となった。

 不出来を自覚しながらも、ともかく掌を入口の扉へ向け電子制御の解錠信号を送る。

「どうぞ。入りたまえ」

 声に応じて開く扉。そこに現れたのはルーシー・アファールだった。

「わっ、噂の野生児だ。天然世界の刺客が遂に文明社会の秩序を滅ぼしに来た」

「なんてことでしょう。残念ですが仮想の存在である我々では会長をお助けすることができません」

「生徒会長から2階級特進すると……副担任くらいっスかね?」

 早速役員たちが軽口を飛ばす。とは言え、当のルーシーが思い詰め深刻な顔をしていることは事実だった。懐から刃物を取り出しかねない凄味を放っている。

「やめなさいお前たち。私までそんな気がしてくるじゃないか。心配しなくても裸になって踊ればまだ助かる可能性が残されている」

 怖気づくデイジーが自分に言い聞かせるようにして呟くと、ルーシーは眉を上げ奇妙なものを見る顔をした。

「……会長なに言ってんですか。あ、電話中? だったら終わるまで待ちますけど」

「なにってああ、そうか。君には見聞きできないのだな。その電脳深度ではムリな話だ」

 役員たちのアバターや音声は電脳を通じた複合現実なので、30%に達しないルーシーには彼らの存在を感じ取れなかった。

「じゃあエッチなことしてもわからないわけだ。ウッシッシ」

「ただちにこの変質者とサーバーを分けていただきたいのですが。……会長、なにを落ち込んでいるんですか」

「多分このメンツと『相性が良い』と判断されてることに改めて自己嫌悪してるんスよアレは」

 このやり取りもルーシーには伝わっていない。ただただキョトンとしている。

「どしたの……。大丈夫?」

「ああ、気にしないでくれたまえ。君の用件を優先させよう。今は自分のことから目を逸らしたい気分なんだ」

 強く鼻息を吹いて、陰鬱な空気を振り切る。

「なにか用があってここへ来たんだろう? さっきの様子から察するに、とても重大な事柄だ」

「ええと、実は……」

 ルーシーは少しの間迷い、やがて意を決した顔つきで頭を下げた。

「会長にお願いがあってきました。アキラ・シラユキを助けてください!」

 率直な物言いに、今度はデイジーの眉が上がる。

「私は君に好かれていないと思っていたが……私の勘違いか? それともその上でそんな相手を頼りに来たか」

「そんなことにこだわってる場合じゃないんだ。アキラが……ブルーハギルドの一味になった」

 ルーシーの言葉を聞き、役員一同のアバターにブロックノイズが走る。

「はぁっ!? あの電脳の化け物が? もう終わりだ! リアル炎上するしかない!」

「私だけでもシャットダウンするわけにはいきませんか」

「退学手続きを進めさせてもらうっス」

 ルーシーには聞こえない役員たちの狼狽を聞き流し、デイジーは黙って話の続きを促す。

「アキラが友達欲しがってたのを利用して、アイツらがそそのかしたんだ。『生徒会を倒せば仲間にしてやる』みたいなこと言って」

 役員たちは更に動揺を深める。

「バックアップ! 急いでバックアップ取っといて! 衛星のレンタルサーバーがいい!」

「シャットダウンだけでは安心できないのでケーブルを抜いていただいてよろしいでしょうか」

「アハハ……アハハハハ!」

 立場を揺るがす重大事だが、代わりに慌てふためく役員たちのおかげでデイジーは平常心を保てていた。なるほどバランスは取れているのかもしれないと、考えを前向きに持ちながら指の腹でこめかみをこする。

「そこまでの違反行為となれば退学は免れられない。ブルーハギルドの狙いはそこだな。しかし友達が欲しいがためにそこまで思い切るものかな? なにせ転校初日。ひとりぼっちが嫌でヤケを起こすにはまだ早いだろう? 現に私は2年耐えている。発想が子供染み過ぎてはいないか」

「子供なの! 自分は小さな男の子で、ここが現実じゃないって思い込んでるみたいなの」

 なにを言っているかわからない。そういう感想がデイジーの顔色に露骨に表れた。それを見てルーシーは唇を尖らせた。

「そりゃおかしな話だってアタシも思うけど、あの子仮想空間に閉じ込められてたって言うから、そのせいなんじゃないの? 仮想空間では子供だったし」

「そう言えば君も仮想空間では小さな女の子だな。それにアキラ・シラユキの生い立ちを考えれば、その精神性を一般的な尺度で計ることはナンセンスか。うん、君は正しい」

 デイジーは頷き、思考をまっさらにして立て直す。

「役員諸君、アキラ・シラユキが自分を小さな男の子と思い込む可能性はあるか? 演算しろ」

 生徒会役員たちはパニックから一転して真面目な顔をした。機械だけあって切り替えは早い。

「監禁されてたっていう仮想空間を設定変更できる権限が当人にあったら、なんでもありでしょ。なんにだってなりたいものになれる」

「それがなぜ男の子なのかについては、異性を羨ましく思うことは珍しくない情緒のようです」

「現在の記録だけで思い出がないコンピューターには共感できないっスけど、会長は心当たりないっスか?」

 部下の報告を聞き、デイジーは唸りながら頷く。

「ああ、よくわかる。むしろそれは両親のほうが強く願ったことだろう。うちは姉ばかり3人いて、男児を待望していたようだからな。人工授精技術は進んでも生の選別は批判が――いや、もしされていたら私は産まれてこられなかったのだが」

 考え込み始めたところで、ポカンとしているルーシーの視線に気が付き、咳払いをひとつ。

「話を戻そう。アキラ・シラユキは生徒会を倒すつもりで狙ってくる。仮想空間での彼女は男の子のアバター。以上でいいか」

「あの……大丈夫なんですか?」

 複合現実が見えていないルーシーにはデイジーが一人芝居の奇行に走っているように見える。不審視するのも無理はなかった。

「なに、気にするな。なにをしでかすかわからない問題児候補生がなにを仕掛けてくるか判明しただけでも収穫だ。目的さえわかれば対策は取れるからな。彼女を救いたいという君の要望も、我々の存在理由に合致するものだ。生徒会の全処理能力で必ず学校の電脳を守り抜くと約束しよう」

 この場でできうる限りの返事だった。しかしルーシーの反応は優れない。デイジーは察する。

「それだけではないのだな」

「できればその、アイツを負かしてください。できるだけ……ボコボコにしてほしい」

 口にすることが罪であるかのように苦い顔をしながらの発言は、相応の驚きを与えた。

「君は彼女に恨みでもあるのか」

「そうじゃなくって! アイツを『特別な存在』から引きずり降ろしてほしいんだ。普通の生徒じゃない〝特別〟が一番……ひとりぼっちってことだから」

「経験者は語る、か」

 また余計な一言を、とルーシーは奥歯を噛む。しかし、不満は呑み込んだ。

「アタシじゃできないことだから、アンタに頼みたい。その代わり――」

 この先自分にできることならなんであろうと手伝う。生徒会の配下になっても構わない。そういうつもりでルーシーはここへ来ている。

 だが、その覚悟は受け入れられなかった。

「生徒が生徒会に頼みごとをして『借り』になるとでも思っているとしたら、君は間違っている」

 ルーシーは顔を上げ、デイジーを見た。いつも通りの、憎たらしい笑みだ。

「我々にとっては普段の業務だよ。アキラ・シラユキを叩きのめすことで生徒個人、果ては学校全体が最適に整うのなら、やらないでいればそれは怠慢だ。若輩ながら今まで生きてきた中で努力を惜しむ合理的な理由が見つからなかったものでな。とことんまでやらせてもらおう。なにより――」

 コホンと咳を挟んで、視線を逸らす。

「大切な友人からの頼みだ。絶対に応えるさ」

 しばらくの間があって、頬を赤らめるデイジーとは逆にルーシーは青ざめた。

「え、友人……?」

「私と君との仲で水臭いぞと言っているんだ。やはり気分が良いものだな。頼られるというのは」

「なんでそういう話になってんの? そんなんだったら手下とかのほうがマシ! アタシを生徒会の犬に、犬にしてください! 友達は嫌だ!」

「そんなに嫌がることはないだろうに」

 見透かされない不敵顔の奥で、デイジーは密かに傷ついた。


 そうした悲しいやり取りをすることにはなっても、ルーシーから事前に襲撃の報せを聞いていたおかげでアキラに対応することができた。

「ママがいない世界なんて現実じゃない! お前はウソつきだ!」

「誰がいなくとも現実は現実! 君の母は逃亡中だ! 元の仮想空間に戻るとしても、そこだけは認めてからにしてもらう!」

 くだんの手に負えない電脳の怪物は今やデイジーが組み伏す下にいる。聞いた通りの男の子の姿だ。

「なんだよ年上のくせに! 仲間に守ってもらってるくせに! ボクだってあの場所なら絶対負けないんだからな!」

「仮想空間だけが居場所と思うな! 現実にもお前を受け入れてくれるヒトがいることが、それをわからないか!」

 役員たち強AIと処理を同調させて補強することでデイジーはアキラとも対等以上に戦えている。元々はブルーハギルド打倒のために調整していた奥の手がうまく機能していた。

 生徒会に対する挑戦なのだから、ルーシーの頼みでなくとも必ず受けて立った。だがその場合はこれほど懸命にはなっていない。

「心底羨ましいことだ。私が願ってやまない繋がりを既に君は持っている。境遇に関しては同情するが、君のことを『恵まれていない』とは思わない」

 デイジーが役員たちの協力で強化を図る以前に、妨害と精神的動揺でアキラのほうが処理能力を著しく落としている。

 このままいつまでも押さえ込んでいられる。電脳深度を保つ集中力が枯れるとしても、先に根を上げるのは窮地にあるアキラのほうだ。そう推測するうえで、デイジーはひとつ重要なことを見落としていた。

「……同情?」

 アキラにとっては仮想空間に接続した状態こそが自然で、そこに集中力は介在しない。気が散って飽きもするが、疲れだけを言えば消耗はデイジーのほうが早かった。

「誰が、誰に、同情だって? まるでボクが『弱いもの』みたいに」

 眼前に表示されているアバターが、まるでそこに実存するかのような重みを持ったようにデイジーには感じられた。

「電脳深度90%……? 80%以上になればサーバー側から強制遮断されるのではなかったか」

≪やってますって! でも弾かれる。その他の処理をすべて中断させた全力でもサポートできない! 会長、ソイツから離れて!≫

 押し返される、という表現は適切ではない。デイジーはアキラに触れられることもなく、壁に磔になった。あらゆる権限を奪われて身動きすらできない。電脳深度を固定されてログアウトも不可能だ。ブルーハギルドと違い電子端末を外す、という方法も望めない。デイジーはひとりだ。

「生徒会が一介の生徒に敗れるわけには!」

 電脳の怪物を前にしては、用意した策が楽観に過ぎなかったことが証明されていく。

 投影されていた生徒会室は消え、空間にはただグリッド線だけが果てしなく伸びる。まるで神か何かであるかのようにそこへ浮かぶアキラを睨み上げる地に落ちたデイジーの視線に力がない。

 見返すアキラも同様に力みはなく、冷ややかだった。

「どっちが強いか教えてあげる。元々お前らをやっつけに来たんだし……メチャクチャにしてやる」

≪危険です。彼はサーバーを燃やす気です。非常消火装置の準備と、応援を――≫

 役員たちの声が途中で消えた。

「……おい、みんな……?」

 デイジーは戦慄する。話しかけても無視されることはこれまでにも多々あった。だが今回のこれはそれとはまったく違う気がする。

「貴様、彼らのアカウントを消したのか?」

 消されたとしても彼らのアカウントはバックアップから復旧される。基となるデータベースが大きく破損しない限りは損傷はない。だが、デイジーにとっては、そういうことではなかった。

「だってうるさいし、アイツらみたいなのがいるせいでボクまで友達を『ボットかもしれない』なんて疑うんだよ? サイテーだ」

「ボットが友でなにが悪い! 名前などなくとも私がそう信じる限り、彼らは大切な友人だ!」

 役員たちの加勢がなくなった。デイジーはもうアキラに対抗する力がない。しかし立ち向かう。

「こんなことをしても居場所を失うだけだぞ!」

「それでいいよ。ここを出られたらクエストクリアってことでしょ」

 最早言葉で説得するしかない。問題を起こさせ退学にしてしまえという怠惰や不利になってから弁に走ることを情けないと憤る矜持が心の中で喚いても、デイジーは言葉を探した。

「私が貴様を止めるのは友に頼まれたからだ。貴様の友だ。ブルーハギルドは貴様を利用しているだけだ。その違いがなぜわからん!」

「コラ、ボクの友達を悪く言うのはゆるさないぞ。『友達のことは大切にしなさい』ってママに叱られたことあるんだからな。……あ」

 急に、なにか思いついた顔でアキラが楽しげに笑った。

「よくないことをすればママが叱りに来てくれる。ボクのことを愛してるから怒るんだって、ママ言ってたもん。よくないことをたくさんすれば、絶対ママは会いに来てくれる!」

 明るい声を聞いて、デイジーは黙り込んだ。届けるべき言葉が見つからなかったわけではない。

「だってボクはママに愛されてるんだから!」

 アキラは傷ついている。それを知ってしまっては、「お前がいた世界や母親は存在しない」とはもう言えなくなった。

「とりあえずここはアンタで終わり。クエストクリアするよ」

 笑うアキラに見下ろされ、成す術を失ったデイジーは目を閉じる。もうなにもできない。

 しかし審判は下らなかった。

 異変が起きていることを察して恐る恐る瞼を開いたデイジーは、その視界に小さな背中を見た。ほんの小さな女の子が目いっぱいに手を広げて自分を庇っている。このアバターは、仮想空間におけるルーシー・アファールの姿だ。

 役員たちの声が途切れる直前に「応援」と聞いたことを思い出す。生徒会サーバーはギリギリのタイミングで彼女にアクセス許可を与えていた。

「君が……助けに来たのか?」

 電脳深度を10%に保つだけでも難しいルーシーが、60%以上を必要とするこの仮想空間にいるだけでどれだけの苦心をしているか、それがわかるデイジーの胸に熱いものがこみ上げる。

「おねえちゃん。そこ、どいてよ」

 苛立ちを含んだアキラの物言いに怯まず、ルーシーは強く首を振った。

「ダ……ダメ! いけない!」

 電脳に不慣れなルーシーが言葉を発したことが、アキラにもデイジーにも驚きを与える。

「いけない! ダメ! いけない!」

 体中の空気を絞り出すように繰り返される単純な言葉。まるで幼児を相手にする言い聞かせはアキラにもっとも親しく、けっして他の誰かに重ねたくはないものを思い起こさせた。

「なんでお前が、そんなことを言うんだ! やめてよ!」

 うろたえて声は震え表情が辛く歪む。精神の乱れは電脳深度にまで及んで、デイジーは動作の自由を取り戻したことでサーバーの支配率が落ちたことを知る。

 だが、動かない。固唾を呑んでルーシーの奮闘を見守った。生徒会長の役割は、最後には生徒を信じることだと解釈するからこそだ。デイジーはルーシーを、そしてアキラを信じている。

「ジャマすんなよ! 一緒にやっつけちゃうぞ?」

「いけない!」

「なんでジャマするんだよ。おねえちゃん、ボクの味方だって、言ったじゃんか……なんでもゆるしてくれるって言ったじゃんか」

「ダメ!」

 何度も言葉をぶつけ合い、やがて在り得ないことにアキラのほうが根負けして膝を付いた。

「ママみたいなこと、言うなよっ」

 涙に濡れる顔をルーシーの小さな掌が優しく撫でる。

 デイジーは腰を上げ、なにも言わず電脳深度を下げて生徒会サーバーからログアウトした。

 ここに彼女の仕事はもう残されていない。対処すべき問題児はもういないのだから。


<続く>


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