最終決戦①
あれから、何度も言霊を操る練習を繰り返した。どうやら、普通の人間には私の能力は聞かないらしい。しかし、能力者や幽霊には有効のようだ。ただし、神様にはさすがに通用しないようだ。九尾にも使おうとしたのだが、その前に釘を刺された。「私にはその能力は聞かない。さらに言うと、神ともなると、あらゆる能力が無効化されてしまう。」とまで言われた。
佐藤さんや翼君、狼貴君を相手には能力は発動した。どうやら発動すると、私と対象者の周りが光りだすようだ。夢で見た練習風景と同じだった。
私が能力をある程度使いこなせるようになってきたとき、いよいよ計画実行の日を決めるというときになって、突然九尾は計画に参加しないと言い出した。西園寺さんの仇を取るなどといっていたくせにどうしたものか。
「我は今回の計画には参加せん。お主たちだけで瀧とかいう男を捕まえておけ。我は別の用事を思い出した。」
そう言って、突然姿を消してしまった。今の今まで瀧さんを捕まえてやると意気込んでいたのに急な態度の変化。おかしいとは思ったが、西園寺さんがいっていた。気まぐれな神様だと。まあ一応神様らしいので神の考えることは我々下々の人間にはわかるはずもないと思い、特に気にすることなく、佐藤さんや翼君、狼君、雨水君たちと計画実行日を決めることにした。この時に不審に思って九尾になぜ急に考えを変えたのか聞いておけばよかったと後悔するのは事件解決後のことである。
作戦はこういう流れで進んでいく。まず私が事前に瀧さんに「塾の生徒のことでお話したいことがあります。できれば、今度の土曜日に塾が終わった後、少しお時間いただけないでしょうか。」と相談する。土曜日の午前中の塾が終わり、私は瀧さんと一緒にいつものファミレスで昼食を食べる。ファミレスでは話しづらい内容だと説得して、理由をつけて寺まで連れてくる。土曜日の午後に瀧さんを捕まえるということに決まった。
寺まで連れてきたら、雨水君が霧を発生させて、周囲に何が起こっているかを隠す手はずである。さらに寺の中に入るように雨も降らせてもらう。傘を持っていない私たちは寺の中に入って雨宿りせざるを得ない状況を作り出す
そして、翼君と狼貴君にここで登場してもらう。瀧さんは翼君が自分の正体を知っているとは思っていない。さらに狼貴君に至っては自分が幽霊にしたはずなのにその後行方不明になっていて、おそらく必死で探していたはずだ。翼君は塾以外ではかかわりがないことになっているし、狼貴君はそもそも私と面識があったとは思ってもいないだろう。瀧さんの動揺を誘うために二人が現れる算段である。そこで、翼君と狼貴くんは瀧さんに本当のことを教えてもらうよう説得してもらう。子供好きの瀧さんにとって、大好きな子供からの質問には正直に答えるだろう。
もし、それで話してくれないようだったら、私と佐藤さんの出番である。佐藤さんが威嚇の能力を使って瀧さんの動きを封じる。殺し損ねた佐藤さんを瀧さんは探しているはずだ。その佐藤さんが目の前に現れたとなれば、当然殺そうとしてくるだろう。だが、目の前にのこのこと現れた佐藤さんに驚きもするだろう。その隙を狙って能力を使ってもらう。それでもダメな場合は私の出番である。正直言うと、私の能力はあまり使いたくない。私の能力は相手を強制的に言葉で操るものだ。できれば、自分から罪を認め、自白し警察に自首してもらうことが理想ではある。
しかし、そうも言ってはいられない。すでに佐藤さんや西園寺さんは被害にあっている。自分から話してくれないようなら、やはり私の能力を使って自白させるまでである。そして、事件の全容を明らかにすることが必要である。どうしてこのような事件が起きてしまったか知りたい。
今回の事件は瀧さん単独で行ったものである可能性は高いが、人間の魂を捻じ曲げて、大人から子供の姿に変えることなど、普通の人には到底できないことだ。もしかしたら、瀧さん以外の共犯者の能力者がいるのかもしれない。もしそうなれば、その共犯者も探し出して捕まえなければ、事件が完全に解決したとは言えない。
瀧さんの話を聞いて、そのまま警察に通報して事件は終了となる。これが計画の内容だが、相手は凶悪な連続殺人犯である。計画がうまくいくとは限らない。
結局、この計画は早くも失敗に終わった。瀧さんが寺に着くなり、私を疑い始めたからだ。
「どうして、この場所を選んだのか聞いてもいいでしょうか。相談ならファミレスで昼食を食べながらでもよかったのではないですか。いくら人に聞かれたくないといっても、ここで話すことはないと思いますけど、それならもう一度塾に戻ってそこで相談を聞きましょう。」
予想はしていたが、このまま寺の中に入れてしまわなければならない。
「人目が付くところでは話しにくいです。それにあの子たちはここに住んでいると聞いているので、生徒も交えて思うがまま話し合いたいと思いまして。」
「どうして、あの子たちがここに住んでいることを知っているのですか。もしやあの子たちの秘密を知ってしまいましたか。それはないと思いますが、答えてください。」
更に瀧さんの私に対する警戒レベルを上げてしまった。しかし、ここで押し負けてはいけない。私は瀧さんの後ろに回り込み、背中を押していく。
「その話もしようと思っていたところですから、どうぞ、寺の中に入りましょう。雨も降ってきそうですし。というか降り出しましたね。」
ザーザーと大ぶりの雨が私たちに降りかかる。それにしてもいつみても本当に突然雨が降ってくる。雨の気配を感じさせずに一気に雨が降る。これが雨水君の特殊能力というわけか。何度も体験しているというのに感心してしまう。
「仕方ありませんね。この雨では中に入らざるを得ませんね。」
といって、瀧さんは私の提案に乗ったかのように見えた。しかし、相手は常に武器を所持しているらしい。私にも佐藤さんに振りかざした注射器を突き刺そうとした。
「ダメー。」
私はその声とともに押し倒された。地面に押し倒されて背中が痛いが、どうやら瀧さんの攻撃は免れたようだ。
「翼君ですか。どうしたのですか。最近の君は私のいうことを聞かないことが多いですね。私の指示や行動には逆らわないことを目覚めたときに言いましたよね。私に逆らってただで済むと思っているのですか。今まで逆らってきた子たちがどのようなお仕置きをされたのか覚えてないとは思いませんが。」
助けてくれたのは翼君であった。しかし、翼君は幽霊で実体がなかったはずだが、今はそんなことを気にしている時ではない。
「お仕置きなんてされないから大丈夫だよ。朔夜先生が瀧先生の罪を暴いてくれるって言ってくれたから、僕は朔夜先生を助けるって決めたんだ。」
翼君は私を守るように瀧さんの前に立ちはだかった。
「そうですか。悪い子ですね。先生の言うことを聞けないなんて、本当に悪い子だ。」
そう言って、瀧さんは翼君に近づいていく。翼君はそれでも懸命に私を守ろうとしている。身体が小刻みに震えていて、うさ耳もいつもはぴんと上に向かって伸びているのに今はしゅんとしたにうなだれている。本当は怖いのだろう。
ひゅっと、何かが降ってくる音がした。瀧さんの目の前に降ってきたのは氷の刃だった。鋭くとがっていてもし当たっていたら、大けがは免れないだろう。
「翼、よく朔夜を守ってくれたな。それにしても先生の言うことが聞けないだけでお仕置きだなんて、とんだ独裁先生だな。」
声とともにまた瀧さんの前に氷の刃が降り注ぐ。私と翼君の前には無数の氷の刃が瀧さんとの間をふさいでいる。
「生きていたのですか。全く、しぶとい人もいるものですね。」
「まあな。桜華は残念ながらお前の手によって殺されたが、俺は生き残った。さて、ここで問題だが、俺が生き残ったということは、お前はどうなるでしょうか。」
雨水君の手に新たな氷の刃が現れる。このままでは瀧さんは死んでしまう。事件の真相もわからずに雨水君に殺されてしまっては困る。
「雨水君、そのまま動かないで。」
とっさに私は能力を発動した。私と雨水君の周りが光りだす。さらに瀧さんにも発動する。
「私の質問に答えなさい。」
不意の私の能力発動で瀧さんは回避できなかったようだ。瀧さんの周りが光りだす。
「今まで何人殺したことあるのか。」
「どのように殺したのか。」
「殺人の動機は何か。」
「能者ばかり狙って殺していたのはなぜか。」
私は瀧さんに質問した。すると、瀧さんは一瞬嫌そうな表情を浮かべたが、すぐに表情が消え、機械的に話し出した。
「今まで殺した人間は8人でこの寺まで連れてきて、寺の地下室で殺した。寺の地下室で日本刀で心臓を一刺しで殺した。その後、死んだ人間の魂を取り出す儀式を行い、その際に子供姿になるように術をかけ、魂をこの世にとどめておくようにした。能力者ばかりを狙ったのはその方が子供の姿にしたときに耳や尻尾がついていて萌えるからだ。この時ばかりは自分の能力の有用性に感謝しかなかった。子供の姿にさらにケモミミと尻尾などの付属物が付くことで完璧なる子供の完成だ。さらには子供たちには私の言うことに従うように暗示をかけることで素直で従順になる。もちろん、生前の記憶は邪魔でしかないから消しておく。彼らが一生懸命に塾で勉強している姿を見ることが至福の時だ。塾で勉強を教えることで自分が頼りにされているという快感も得ることができる。子供といっても小さすぎるのは論外だ。ろくに会話もできないようなガキはお断りだ。やはり子供といっても小学生~中学生ぐらいの子供が最高だ。」
瀧さんが言っていることを簡単に説明しよう。まず、能力者がわかるという能力を生かして能力者を狙って殺している。ただし、能力者の本当の姿を確認して、子供にしたときに萌えるかどうかで殺すかを判断しているようだ。
殺した後、何らかの術で能力者の身体から魂を取り出し、さらに魂を子供姿にして、自分の塾で勉強するように仕向けている。
私の予想していたことがまさか本当だったとは。重度のロリコンである。さらにコスプレではなく、本物の動物の耳や尻尾がついている子供を自分の思い通りにしたいという願望を持った変態であり、それが常軌を逸して殺人まで犯すようになってしまった。私たちが止めなければまだまだ殺すつもりだったのだろうか。
殺した能力者たちの遺体はどこにあるのかを訪ねる。追加でどうして大人の能力者ばかりを狙い殺していたのかも聞いておく。子供が好きなのであれば、子供の能力者を殺して魂を抜き出せばよい。わざわざ大人を殺して魂を捻じ曲げて子供の姿に変えるより、手間が省けるはずだ。
「殺した能力者はこの寺の墓の近くに埋めている。確かに子供を狙えば、魂を取り出して、記憶を消し、洗脳するだけで事足りる。しかし、一度子供を殺さなければならない。子供を殺すなんてそんな非道が私にはできなかった。子供は神聖な存在だ。そんなことをするぐらいなら私自身が死んだ方がましだ。しかし、大人を選んだのは子供が殺せないというだけではない。大人のそれも一人暮らしの人間を狙えば、殺してもそのことが警察に知れ渡るのに時間がかかる。今まで殺した人間は皆能力者だが、その誰もがひとり暮らしで行方不明になってもすぐには警察が動かないものを選んでいる。警察に捕まっては子供たちをめでることはできないからな。」
話し終えた瀧さんはぐったりとその場に倒れこむ。その場の雰囲気は重いままで誰も口を挟む者はいない。
最後に寺の中にある地下室に案内してもらうことにした。私は瀧さんの案内のもと地下室へ向かう。私以外誰も瀧さんについていくものは居なかった。翼君と狼貴君、雨水君、近くに隠れていた佐藤さんはその場にとどまり、動こうとはしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます