蛇もいました
今日は大学の授業がある日である。佐藤さんは大学に来るだろうか。佐藤さんにも聞きたいことがたくさんある。私が大学に行くというと、九尾もついていくと言い出した。仕方がないので、九尾を連れて大学に行くことにした。
九尾を大学に連れていくことにしたが、ケモミミ少年をそのまま大学に連れていくわけにはいかない。それは九尾もわかっていたようで、家を出る前に変身して、大学生の姿になっていた。髪も瞳も黒く、ケモミミも尻尾も生えていない。身長は私より高く、好青年という印象を醸し出している。
「ケモミミ少年以外の姿にも変身できるなら、もうこのままの姿でいつもいてくれたらいいのに。そうしたら、人の目を気にせずに行動できるのに。」
「心の声が駄々洩れだぞ。この姿だとお主が困るだろう。若い男女が一緒にいると、恋人同士だと間違われるだろう。それに困るのはお主だろう。別に我は気にしないが、それとも誰か愛しい人でもいるのかい。それはないと思うが。」
失礼なことをいう狐である。私に恋人がいないのがわかっているくせに、さらにはこの特異体質のせいでできたとしても、破局の道しかないと知っているからたちが悪い。
九尾と話しながら大学に向かう。私は普段電車を使っているが、九尾はどうするのだろう。
「電車に乗るのは興味があるが、お金がかかるだろう。我は大学で待っている。」
と言い残すと、九尾は姿をくらましてしまった。そういえば、九尾はこう見えて神様だった。移動が便利でお金もかからなくてうらやましい。一般人はちゃんと電車を使って大学に行くしかない。私は一人電車に乗り、大学に向かった。
「………。」
大学に到着したはいいが、何やら人だかりができている。
「蒼紗、やっと来たか。待ちくたびれたぞ。授業はどの教室で行われるのだ。早く行かんと授業に間に合わんのではないか。」
なんとなく予想はしていたが、人だかりの中心にいたのは九尾だった。九尾が私に声をかけてきたせいで人だかりの視線は私に向けられた。私は九尾の腕をとり、足早にその場を離れた。授業がある教室の廊下で九尾に訴える。
「なんで人に囲まれているのですか。もしかして神様だということがばれてしまったのですか。」
こんな早くに正体がばれてしまっては瀧さんを捕まえるどころではなくなる。
「そんなへまはしない。ただ、我の神聖なるオーラに下々の人間が充てられただけだ。人間とは愚かなる生き物だ。」
「蒼紗、おはよう。隣のイケメンは蒼紗の知り合いかしら。」
佐藤さんが声をかけてきた。昨日のことなどなかったかのようないつもと同じ口調だった。
「おはよう、佐藤さん。昨日は………。」
「昨日の話はやめましょう。私は変な男から逃げることができたから大丈夫よ。でも、しいて言えば、私をさらった犯人にはそれ相応の罰を受けてもらわないと気がすまないけれど。」
「それならそこの娘。我々と協力してその誘拐犯を逮捕しようではないか。」
そこで九尾が佐藤さんに話しかけた。
「我は蒼紗の知り合いで、今日はたまたま時間があったから蒼紗が通う大学を見てみたいと思って一緒にいる。彼女から事情は聞いている。お前の能力も含めいろいろとな、そんなに見つめるではない。蛇娘よ。」
「蒼紗、この失礼な男は一体どのような知り合いなのかしら。初対面の相手に向かって蛇娘とかいう知り合いがいたなんて驚きだわ。」
どうやら佐藤さんの能力は蛇がもつ能力らしい。しかし、このままでは九尾と佐藤さんの言い争いが始まり、協力どころではなくなってしまう。
「言い争いはやめましょう。まずはお互いのことをもう少し話していきましょう。その前に授業を受けるのが先決ですが。」
話に夢中になっていて、授業時間をとっくに過ぎていたようだ。教室の中から教授が私たちを見つめている。気まずくなって私たち後ろのドアからこそこそと教室に入った。
「こほん。では授業を始めます。」
またもや先生に目をつけられてしまった。
最近の出来事が衝撃過ぎて、よく眠れていても身体や精神が疲れ切っているらしい。私は授業が始まってそうそう、すぐに夢の中に旅立ちかけていた。九尾と佐藤さんの小声の会話が遠くに聞こえる。
授業はいつの間にか終了していて、教室には私と九尾と佐藤さんしか残っていない。そして、そこには翼君と狼貴君と死んだはずの雨水君がその場にいた。
「さて、お主。言霊を操る能力を使いこなす練習をしていくぞ。お主の能力があれば、あの瀧という男はたやすく捕まえることができる。」
私はその言葉にうなずく。今までどうやって能力を発動するかもわからなかったのに今では発動方法がわかりすでに何度も発動している。
「今日はそこの蛇娘にかけてみろ。瀧という男がこの娘をもう一度狙ってくるのは明白。彼女が瀧という男を誘い込むことができたらこちらの勝ちだ。誘い込んだのち、お主が能力を瀧に発動させる。」
「わかった。やってみる。」
私は深呼吸した。そして、佐藤さんの目を見て叫んだ。
「私の質問に答えよ。」
叫ぶと同時に私の周りが光りだす。さらには佐藤さんの周りも同じように光りだす。そして、今私の瞳は金色に変わり、輝いているのだろう。自分の状況も冷静に判断できた。
「お前の能力について詳しく教えろ。」
「はい。私は身体に猛毒の血が流れています。その血を摂取すると、大抵の人間は身体がしびれ、動けなくなる。摂取量が多いと最悪死に至る猛毒の血液です。さらに私には威嚇の能力があります。蛇ににらまれた蛙のように人間は私のひとにらみで身体が動かなくなります。」
そういった佐藤さんの顔の半分が蛇のうろこのようなものに覆われていく。瞳は爬虫類特有の鋭いものに変化していく。
能力がうまく発動したようだ。私の質問に答え終わると、私たちを覆っていた光が消え、佐藤さんは気を失って倒れてしまった。慌てて佐藤さんに駆け寄る。
「蒼紗、蒼紗。授業が終わったわよ。次の授業は休講になっているから、この後、少し早いけど食堂に行って昼食を食べながら今後のことを話し合いましょう。」
はっと顔を上げる。すると、私たちの顔を覗き込む九尾と佐藤さんの顔があった。
今見たものは夢だったのか。これが私の能力である予知夢だろうか。私の顔を覗き込んでいた九尾が私の思いつめた表情に気が付き話し出した。
「夢を見たのか。」
「まあ、授業中に夢まで見るなんてどれだけ爆睡していたのやら。まあ、最近疲れたような顔をしていたし、何か悩み事でもあるのかしら。」
悩み事はたくさんある。瀧さんのことがメインだが、西園寺さんと雨水君のこと、それから………。そこであることに気が付いた。今日、佐藤さんは西園寺さんについての質問を私にしていない。どういうことだろう。普段なら、私が大学に来ているのに西園寺さんたちが来ていないということを必ず質問するはずだ。
「どうしたのかしら。蒼紗。私の顔に何かついているのかしら。」
聞いてみるべきだろうか。西園寺さんのことを。
「まずはこの教室を出よう。話はそれからだ。」
九尾が話を遮るように言った。
「それもそうね、じゃあ、食堂にでも行きましょう。」
私たちは食堂に向かった。私の心には重い暗雲が立ち込めていた。
食堂に着くと、まだお昼前で席は結構空いていた。私たちは向かい合わせに席に着く。外を見ると、雨が降っていた。雨を見ると雨水君を思い出す。そういえば、夢の中で雨水君の姿があった。生きているのだろうか。
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