アルバイトの面接と生徒たちとの出会い②

 どんどん話がややこしくなっている。私が能力持ちだとは初めて聞いた。もし、私が能力を持っているとしたら、どんなすごい能力を持っているのだろうか。

 

 想像してみた。攻撃系ではないだろう。炎も雷も氷も出せたことはない。となると、回復系か精神系の能力か。人より回復が少し早いような気がするが、それはただ単に健康だからという理由である気がする。精神系というと、他人を操ることができる能力か。そんな高度な技を持っていたら、もっと人生楽に生きていけた気がする。それとも、他人の心が読める能力か。これはとても便利そうだ。他には何があるだろうか。欲しい能力といえば、瞬間移動はあったら移動が楽でよい。未来予知なんかもあれば何かと役に立つと思う。


 とはいっても、そんな能力やはり私には存在していない。現に今までの人生で特殊能力が発動したことなんてない。そんな特殊能力が備わっていたら、私の人生はもっと違うものになっているに違いない。

私には未来予知が備わっている気がしないでもない。私が予想したとおりに物事が運ぶことがよくある。予知というより、こうなると思うということが実現する。今回の大学でのあの2人との出会いももしかしたら私が予想していた結果かもしれない。バイトもそうだ。よくわからない能力者たちが通う塾に私が採用されたのも予想していた結果なのかもしれない。


「自分が能力者であるということを自覚していただけましたか。ずいぶん熱心に考えているようでしたが。」


「瀧さんの思い違いではないですか。私に何か特殊能力が宿っているとは思えないのですが。」


「そんなことはありませんよ。私には能力者がわかる力があるのですよ。ちなみに私の能力は他人がどんな能力を持っているか相手の目を見ればわかる。そんな能力ですのであなたのことも目を見て判断しました。」


 瀧さんが自ら能力者について話し出したので、予想はしていたが、やはり瀧さんは能力者であった。そうなると、能力者について詳しいことにも納得できる。


「では、お聞きしますけど、私の能力はどんな力ですか。差し支えなければ教えていただけると嬉しいのですが。」


「それは秘密です。教えてしまっては面白くないでしょう。ご自分で考えてください。そのうちに答えがわかると思いますよ。」


 回答をはぐらかされた感じがする。いったい私の能力は何なのだろう。気になるが、今は自分の能力について考えている場合ではない。

 


「ただわかるというだけの能力ですが、この能力は私が人生を楽しく快適に過ごすためになくてはならないものです。危険能力者との接触を避けたり、うっかり能力者同士の争いに巻き込まれても、相手の能力さえわかれば、大抵のことはどうにかなる。さらには最終的にこの能力のお蔭で今の仕事につけたわけですから、この力があってこその人生です。」


 自分の能力がどれほど役に立っているのかを主張する瀧さんある。この人はどこか頭のねじが緩んでいるのだろう。


「そんなに自分のことを話して大丈夫ですか。もし、万が一私が能力を発動して瀧さんを従わせるということを考えなかったのですか。」


 そうだ。もし仮に私に特殊能力が存在して、真の力を発揮したら、瀧さんを操ることができるかもしれない。もし私が他人を操る能力を持っていた場合だが。それ以外でも攻撃系の能力を発動させることで瀧さんに危害を加えることもできるはずだ。

 ただし、瀧さんがこうして普通に話しているということは、私の能力は瀧さんに特に被害が及ぶ能力ではないということだ。あくまで能力者という存在がこの世にいるという設定で、私もその一人ならばという仮定の話ではある。


「心配には及びません。これでも仕事上、たくさんの能力者にあってきました。能力者でも負けるつもりはありませんよ。」


 それに私にはまだまだ生徒を集めることが必要ですから、能力者に負けていられないのですよ。

小さくつぶやかれた言葉は私の耳には届かなかった。



「それに私の能力は相手が能力者だとわかるというよりも、相手の記憶も読むことで能力者であるかわかるということですし。相手の能力がわかり、弱点などもわかれば、どうとでもできるので負けることはないのですよ。」


 何かとんでもないことを言っているが、この言葉はきかなかったことにしよう。



「さて、いろいろ幽霊や能力者について話してきましたが、理解いただけたでしょうか。理解いただけたと思うので、ぜひ私と一緒にバイトをしてくれる気になりましたよね。ここまで話したのにまさか断るという選択肢があるとは思っていませんよね。そんな非常識な真似を朔夜さんがするとも思えませんが。」


 突然、話をまとめにかかった瀧さんである。話が面接の本題に戻った。ここまでの話をしてもらっても正直、別に断っても問題ないと思うのだが。そもそもこの話を私にしてくれた意味がわからない。生徒にケモミミや尻尾が生えていたのは事実であり、その説明をするのにどれだけ時間をかけたのか。外を見ると、あれだけ激しく降っていた雨はすっかり止んでいて、青空が広がっている。

 そもそも、別に幽霊や能力者について、今聞いた話を他人に話したとしても、大多数の人間は私の作り話だと思うだろう。瀧さんはこの話を秘密にして欲しいとも言っていない。ただ、生徒のことは秘密にして欲しいようだった。何が私を塾でバイトする気にさせたのか瀧さんに私からも問いかけたい。


「バイトするかどうか決めかねている顔ですね。先ほど、あなたは生徒たちを見てかわいくて萌えると話していた。今後、あの子たちのような存在に出会える機会はそうそうありませんよ。それにあの子たちほどではないにしろ、この塾には小学生や中学生などのかわいらしい子供たちがたくさん通っています。彼らに勉強を教えてみたいと思いませんか。」


 今度は謎の主張を始めた。どうしても私を塾の講師として働かせたいらしい。こんなに勧誘されては確かに断りにくい。別に子供たちに勉強を教えることには何の問題もない。むしろ瀧さんの言う通り、小学生や中学生のかわいらしい生徒に勉強を教えられることはとても魅力的である。それに、今日見たケモミミ尻尾の彼らと実際に話をしてみたい。もしかしたら、瀧さんの話は嘘ではないと証明できるかもしれない。

 私はこの時、わくわくとした気分が抑えられなかった。西園寺さんと一緒に行動することに楽しみを感じた時と同じような気分である。平穏平穏と言いながら、このような刺激的な生活にも心のどこかであこがれているのだろう。瀧という人物が怪しいと頭の中ではわかっていて、面倒事を押し付けてくるのは目に見えている。


「わかりました。ここで働きます。これからよろしくお願いします。」


「ありがとうございます。あなたには一般人と幽霊たち両方の勉強を見ていただこうと思っています。」


それでも私はわくわくの気持ちの方に身を任せることにした。何度も言っているが、人生なるようになれだ。面接は無事に終わり、今後、バイトに入れる曜日や時間帯を話し、給料などの必要事項を再度確認し、契約書にサインした。


 平穏で普通の生活をしたいと思っていたが、それは到底無理な大学生活であるでもしかし、刺激に満ちた生活も悪くない。


 こうして、私の塾の面接は無事に終了し、バイトも決まったのだった。


 

 塾を出ると、雨はやんでいて、塾の中から見た通り青空が広がっていた。そして、運のよいことに空には虹がかかっていた。七色にはっきりと見えて、とてもきれいだった。なんだか得した気分になって私は家に帰った。


 そういえば、塾にいた生徒はどんな能力を持っていたのだろうか。能力者だとしたら、頭にケモミミ、お尻に尻尾のようなものが見えていたので、身体能力が獣のように高いのだろうか。どんな能力を持った生徒がいるか、想像するだけでわくわくする。これはいいバイトを見つけた。来週からバイトが始まる。楽しみで待ちきれない。いいバイトとは程遠い気がするが、それでもバイトが決まったのでいいバイトと決め込むことにしよう。



 家に帰って、スマホを確認すると、西園寺さんからメッセージが届いていた。

「用事が済んだから、もうすぐ雨は止むと思うよ。」

「ではまた来週、学校で会おうね。」


 出かける前は雨に気を付けてと言っていたのに、今度は雨が止むから大丈夫と言っている。彼女は気象予報士にでもなった気分でいるのだろうか。まあ、変な人だとは思っているので、これくらいの言動なら気にしないことにしよう。

 私はそのまま気にすることなく、自分の部屋に戻り、今後の大学生活に思いをはせながら、漫画を読んだり、ベッドでゴロゴロしたりして、まったりと過ごした。日曜日も同様に過ごし、しっかりと休みを取ったのであった。


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