第7話 予兆

 …流石にこの数は想定していなかった。しかし俺のことを異教徒だの言っているのは仮面をつけていないからか?ここは仮面を信仰する宗教なのか?

 そんなことを考えつつ、迫り来る男たちを待ち構える。

 よく見ると男たちは蛮刀で周囲の植物をかき分けて進んでくる。

 あ、無理。あんな武装でも集団で来られるのはまずい。すぐさま逃げに移る。

 もとより、襲われた時に決めていたルートはある。川に行く方面に向かい、頂上を目指すルートだ。つまり来た道を戻るわけだがそちらしか方向を知らないので致し方ない。

 走りながら腰帯につけていた石を後ろに放り投げる。すると最前列の男たちがその石が投げられたところを通過した途端、体から力が抜けたように崩れ落ちる。それに後続は足を取られ、次々に倒れて行く。そこに残るのは煌々と紫に光る石である。

 やはり魔物用に絶識ショックを持って来たのが幸いした。まぁ対人用ではないので強すぎて障害が残るかもしれないが、こっちもそんな気遣いをしてられない。

 そうして襲撃者の足を止めたのに成功し、俺は逃げ道を急いだ。



追ってくる気配は今の所ない。

今はもうだいぶ日も傾いており、赤と黒の間がはっきりとしている。

今は川の源流から頂上に近づいたところまで来ていて、少し背の低い木がまばらに生えている。

撒いたは良いものの、これからの行動をどうするか、だ。

少女とは別れてしまったし、第一まだ人里を見つけられていない。そんなわけで物理的に生存が絶望的である。

とりあえず当面の目標は定住地の発見または人里の捜索。そして少女との合流であろう。

まずはすぐにくる夜、つまり魔物への対策だ。魔物は昼は日光によってほとんど活動しない。なのでその分夜に活動が活発になる。とは言っても人里には必ず周りにコナラシの植林や、城壁などによる防衛が整っているので、基本襲うのは動物だが、とはいえ人間はほかの獣などより遅いし、鈍い。なので夜に出歩く人間は魔物にとって格好の獲物である。

その格好な獲物に今なってるわけだが。

目の前にいるのは狼型の魔物。体毛はこげ茶で、一見ただの狼に見えるが、大きさは普通の木に匹敵する高さ。後ろ足が異様に発達しており、その後ろに付いている尻尾は今までにその尻尾でどれだけの命を奪ったのか、本来の色であろう茶色は影もなく、紅に染まっている。

絶識ショックは先の襲撃に使ってしまった。(なぜ複数作ってなかったのか。あ、魔石が買える金がなかったのか。)

魔物はこちらをしっかりと捉えており、逃げる事はさせてくれそうにない。

獣ならすぐに噛み付いてくるのだが、基本魔物は知能が高く、こちらの出方を伺う。

そんな膠着状態が続いていた時、ついに魔物が動き出した。

後ろ足を大きくたわめ、勢いよく跳ね上がる。おそらく上から狙いを定めて尻尾で押しつぶすのだろう。

なので魔物の狙いが定まるまでギリギリまで引きつける。と同時に、相手はこちらに襲いかかる。とっさに右に避ける。元立っていた場所は盛大に抉れ、凄まじい威力が尻尾にあるとわかる。

避けられたことが不満なのか、こちらを睨む魔物。今度は逃すまいと、上にではなく、こちらに向かって突進をしてくる。

ただそれを見ているだけにもいかず、腰帯についている剣を引き抜き地面に刺す。

「地の神よ。緑の神よ。我が身に加護を!ここは聖域。守護の植園アースシールド!」

剣が緑に光り、周りからありとあらゆる植物が生えていき、そしてドーム状の防壁を作り上げる。この魔法は魔力を捧げるだけ壊れた分を修復できる。ただしその分燃費は最悪だが。

しかしほとんど魔力を使っていない状況では大いに役立ってくれる。

魔物はそれを見ても怯まず、突進を仕掛ける。


ドォォオンッッ‼︎


剣から衝撃が伝わってくる。しかしなんとか持ちこたえてくれたようで、凹みながらもしっかりと魔物の体を受け止めている。

頭を抜こうとする魔物。しかし防壁に魔力を注いだので、突進してきた魔物ごと防壁を作るように絡みついているため抜くことができない。

さらに魔力を込めると、魔物の体に根を張り始める。基本魔法は精霊がらみなので、精霊も搾取しなければ生きてはいけない。しかし普段はそれだけの力はないが、魔法によって励起状態の今、ここぞとばかりに魔力を奪う。なので術者の俺はもうほとんど魔力を送っておらず、魔物から吸い上げている。それからあまり経たずに、魔物はその命を枯らした。

と、同時に俺はそのドームの中に倒れこむ。魔力欠乏が起きたようだ。目が霞み始める。なんとか気力を絞るが体は言うことを聞かず意識を手放してしまった。



「…フゥン?なかナかやるもんだねぇー。あれ一応僕の使い魔で上の方なんだガ、、

少し気になるかも?」


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