第6話 対峙


当面の目標は決まった。後はそれに対してどう行動するかだ。

魚も食べ終わり、今は太陽が西へ向かおうとしているところだ。早めに行動しておかないと、今日の飯も確保できないし、何より少女を探しに人が来るとも限らない。その時のことを考えると、仮面がない言い訳を考えなければいけない。

少女はまだ目を覚まさない。気絶したとはいえもう昼下がりだ。こちらとしては、そろそろ話をして、理解を得て人のいるところに連れて行ってもらいたい。少し強引だが、起こすとしよう。

覚醒アウェイク

少女の周りにいる精霊に直接魔力を注ぎ、体内の魔力の溜まり場に干渉し、意識を強制的に励起させる。属性関係なく契約なしに魔力を与えれば勝手に精霊が震えるので使い勝手がいい。

「ん、んぅ…」

魔法はちゃんと機能したようで、彼女は目を覚ます。

そして、体を起こし、こちらをみると、

「! (ズザザザザサッ)」

後ずさった。

「お、おい…」

「近寄らないでください」

「いや、一応安全なとこまで運んだの俺なんだが…それに何もしてないぞ?」

「そう言う人ほど何かやってるのです。近寄らないでください」

「そう避けられても…」

完全に俺が襲ったと勘違いしている。どうしたものか…

「な、なぁ、確かに警戒するのもわかるんだが、あそこは獣もよく通いそうな川だったし、俺が運ばなかったら食べられたかもしれないんだぞ?そこを助けたんだから、少し話を聞くぐらいはしてくれないか?」

「…わかりました。その節はありがとうございます。っと、それ以上近づかないでください。信用したわけではありません。それで、話とはなんですか?仮面もつけてない怪しい人の言葉を聞いてあげるのです。手短に。」

「……ありがとう。このとおり、俺は冒険者で、迷宮に入ったらこんなところに飛ばされていた。君とは違う国の出身だ。仮面をつけてないのが証拠になると思う。それで、お願いなんだが、街まで案内してくれないか?ここの環境もまだよくわかっていないんだ、案内してくれれば後は君に関わらない。」

もちろん関わらないのは嘘だが、ここでさらに信用を失うわけにはいかない。方便を使わせてもらおう。

返答は間があった。

「わかりました。これでね?では頑張って生きてください。さようなら。」

立ち上がって去っていこうとする。

それをただ見ているわけにはいかない。

俺はすぐに彼女の手を掴み引き止める。

その手はすぐに払われた。

「私には関係ありません。それにいきなり連れてけと?レディを誘うにはあまりにも失礼です。それに人の国があるなんて図書館にもそんな本ありません!あなたは何を言っているんですか?」

「誘い文句としては悪かったのかもしれんが…いやそうじゃない。待ってくれ、本当に何も知らないんだ。ここがどこかも。」

「あなたは仮面と一緒に知能も落としたんですか?そんな言い訳で騙せるとでも?そんなにつがい探しに手間取ってるなら他をどうぞ。気を引きたいのか知りませんがさっさと仮面をつけたらどうですの?どうやって外したのかは知りませんが。」

「さっき海の外と言ってたな?外に行ったこともないのに、本当に人がいないと言えるのか?」

「それは…。あなたとはここで会っただけです!助けてもらったことは話を聞いてあげてお返ししたでしょう?もうあなたと関わる理由も義理もありません。」

「頼む。本当に話をっ」

『契約者、こちらに何か向かってきているぞ』

会話に割り込んだのは契約した精霊だった。それを見て驚いたのか彼女は呆然と精霊を眺める。

確かにピリピリとした雰囲気が伝わってくる。

「どのくらいの数ですか?」

『おおよそ十。魔力濃度が高い。人型だろう。』

昼間には魔物は襲ってこない。確実に人が来ている。精霊が警戒を促すのだからこちらに向かって来ているのだろう。つまり彼女を探しに来た人たちだ。

まずい。まだ彼女と話は付いていないのに、この状況で来られるとこちらが不利になる。

と、どうするか考えていると、彼女は人の気配がする方向へと走り去って行った。

「あ、おい、待ってくれ———」

呼び止めようとしたが、どこにそんな力があるのか、凄まじい勢いで去っていく。

このままでは確実に敵扱いになってしまう。ここは一旦離れて時機を待つしかない。そう決めて俺は逃げる用意をする。少しでも襲ってくるやつらのことを覚えておこうと、くるであろう方向を見る。

「…を!…いを!鉄槌を!」

目を向けた方向からは何か聞こえてくる。耳をすませると、

「鉄槌を!異教徒には鉄槌を!神に背きしものに鉄槌を!」

叫びながら仮面をつけた男たちがこちらに猛烈な勢いで走って来た。

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