第5話 決意
……………………………。
どうしようか…。
倒れた少女は後頭部を地面に強打したので気を失っている。
とりあえずここでのたれ死なれるのも後味が悪いし、拠点に運ぶか。
拠点まで運び終えた。
仮面があるので年齢を特定するのはできないが、少なくとも、いいとこのお姫様らしき人だ。身につけているのは乗馬服の様なつなぎで、またこんなところまで来れるからには何度かここにもきているのだろう。なら彼女を利用して、彼女の街まで連れて行ってもらおうか。
そこでふと俺は一つ重要な問題に気づく。仮面を付けていないのだ。確かに俺の住んでいたところでは仮面はつける方がおかしかった。
しかし彼女の発言からすると、仮面を付けていない人が少数派、もしくはいない可能性が高い。
しかしなぜ俺を飛ばした神父も、転んだ彼女も仮面を付けているのだろう?
それに普通の仮面は呼吸するための穴が付いている。しかしこの仮面にはそれらしき穴はないし、第一口にも穴がなければ声もくぐもる。神父もだったが、この少女も顔は全て覆われている。ということはこの仮面は魔法の類が働いているのだろう。
そんな好奇心で仮面に見入っていると、彼女の仮面がぼんやりと光り出した。その光は仮面の色と同じ白である。光はやがて彼女の全身を纏いながら穏やかに光り、消えていった。
すると、彼女の体から光の球が現れる。それは、徐々に人の形を作り、彼女と似通った女性が出てきた。
「外から遣わされし使者よ。私の依り代は鍵。
そう言って光は少女の中に戻っていく。
神父といい、先ほどの女性といい、よく分からない言葉を残し去っていく。俺になにをしろというんだ………
釈然としないまま、釣りを再開するために俺は川へと向かう。少女の安全も気になるが、精霊の目もあるし、まぁ襲われた時は自分で何とかしてもらおう。
川で釣った魚を持ち帰り、拠点へ戻る。まだ彼女は目を覚ましていない。
また赤石を組み替え火を熾す。
その火に魚を入れながら、彼女の顔、というか仮面を見る。顔の輪郭や凹凸のみをかたどる仮面からは、その下の感情を読み取ることはできないにも関わらず、彼女が穏やかそうな顔をしているように見える。
俺は火の通った魚を食べながら、前日の神父の助言、先ほどの女性の発言を思い出す。自分のことを「使者」とどちらも呼んでいたが、使者になった覚えもないし、別に聖職者の信託を受けたわけではない。だが二人から使者と言われてしまえば何かしらの使者としての役割が与えられたということ。それを果たさなければ恐らく元の場所にも戻れない。別にあの王国に未練があるわけではないが、適度に退屈な生活を気に入っていたのに、失われた。その生活を取り戻したいなら、与えられた使者の役目を果たそう。そうして戻れると信じなければ、こんな無意味な生があるだろうかと思いながら。
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