第3話 試練

 俺たちはその神父の顔を見て、何も口から発せなかった。仮面は顔を模した簡単な窪みがあるのみで、仮面の意味としては顔を隠す者だろうと容易に想像できる。神父は顔を隠しているだけなのに、俺は得体の知れない不気味さを感じた。

 誰も何も言わずにしばらく経った時、先に動いたのは神父だった。

「この魔力、もしや者か...?おぉ、神よ。ついにこの身で奇跡を感じることができました。ついに

 おかしい。ここは迷宮だったはずだ。なのになぜ神父は「海の外」などといっている?ここは大陸の中心部に位置する王国の王宮の地下なのだ。明らかに海という言葉は出るはずがない。

 神父は俺たちの困惑を気にせず、ただ胸に手を当て中空を見上げていた。

「この身で奇跡を見れることになろうとは!このような奇跡は余りに私のちっぽけな信仰とは不相応でしょう。つまり、我は奇跡を見ると同時に試練を与えられたのですね!承知しました。それならばこの身命を賭してでも乗り越えてみせましょう!」

 事態は俺たちを置いて進んでいく。神父は大仰に手を広げ、初めて俺たちへと言葉を向けた。その姿は光の魔力を溢れさせているかのような眩しさだった。俺たちは慌てて迎撃体勢に入る。

「よく聞け!神の奇跡によって我が信仰の糧となる者よ!神は私に試練をくださった!ならば私はその愛に応えるのみ!さぁその神に見初められし力で我が信仰を崩してみるがよい!この世の万物は無常!幾星霜をまたぐとも学ばぬ愚か者どもよ!ここにあるは神の奇跡!神の叡智!そこに集いたるは我らが知恵!試練の過酷さ、それすらも我らが力の一端となるであろう。騎士に栄光を!乙女に花を!さすれば我らが道は開かん!其は禁断の果実、しかして我らが信仰の始まりである!」

 そして神父は手を広げ、高らかに魔法を告げる。


「刮目せよ!ゲート・オブ・エデン!」


 世界に光が溢れた。

 たったそれだけのことなのに、魂すら焼き尽くされるかの如き熱を感じる。とっさに対魔力の盾をかざしたが、それすらも溶かし尽くし、呑み込んで行く。このまま終わるかのように見えた時。神父は愕然としたような声音で呟いた。

「馬鹿な、まだ我が信仰におれぬというのか!ありえない!我が愛は!我が信仰は!何者にも負けぬ筈だ!なぜだ全て溶けたぞ!なぜ我が愛を受け取らぬのだお前は!」

 どうやら他の奴らは全員死んだようだ。特に親しかった訳でもないから何も感じないが、この一瞬で溶かし尽くす魔法に戦慄する。明らかに見たことのない魔法だ。それにしても、なぜ他は死んで俺は生きているんだろうか?「おのれおのれおのれおのれおのれおのれおのれ!」光が強くなるが何も感じない。熱さは感じるがどうも何か身体から弾く何かが溢れている。

「まさか!いやそんなはずは、、

 しかしこれはそうとしかありえん!くっ…我が信仰が劣っているのは事実か…」

 すると、魔力が弱まり光も収まっていった。幸い目はやられておらず、目に入ったのは神父と教会だった。

「よろしい、そなたは神に認められし真の使者。しかしここにそなたの場所はない。これはそなたに与えられた試練だ!神への信仰を。そなたに祝福があらんことを。

 ___無慈悲エリミネイト。」

 そして俺は浮遊した感覚を覚えながら訳の分からぬまま、森の真ん中に放り出されていた。

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