第142話勇者の力、明かされた秘密

「え!? なんで!?」

ルキの驚きの声が静かに響く。私が言わなかった言葉と態度。それだけに、その態度にこそ満足したと思われるクジットが、何度も何度も頷いていた。


「そうです。それが普通の反応ってやつです。あんさんの態度がおかしいんですよ。ほら、お仲間をじっくり見てみるです。いくらまことの勇者だからって、そこまで周りと違わなくてもいいです。驚くです。普通は驚くものです」

皆あっけにとられているのはよくわかる。

いくら勇者だからといっても、首をねられて生きている方がおかしい。でも、そもそも勇者なんてみんなおかしい。特にまことの勇者なんて、その極みだろう。試したこともないし、試したいとも思わないけど、私もそうだということは、ハボニ王国のジェイドが言ってたから間違いないのだろう。


それが、固有能力【治癒強化】の力。通常の魔法にはない、古の魔法のようなものがそこにある。


――あれ? でも、ジェイドは本当に試したのか?

まあ、いいか。それは今、それほど重要な事じゃない。


「簡単なことだ、クジット。まことの勇者の固有能力は、殺した勇者に瞬時に光の玉となって受け継がれる。あの時、君の固有能力は私の所には来なかった。その時点で、君が死んでいない事は明らかだろう」

この世界に召喚されたまことの勇者は、召喚前に殺し合いをさせられた。そこで生き残った者がいれば、まことの勇者として召喚される。

私の場合は、ただ残っただけだったけど、他の人は自分で戦って生き残ったのだという。

だから、まことの勇者は好戦的になっている。そしてそれが、この世界で殺し合うゲームの駒となるには必要な事だった。


戦うたびに強くなる。それがまことの勇者にさらなる戦いへと導く。あの時、新しい能力を受け継いだとき、私の中にもそれがあった。


「なるほどです。それでも、もう少し疑ってもいいです。首が飛んだんです。自分で言うのもおかしな話ですが、普通は死ぬです。でも、あんさんは全くその気配すらなかったです。まるですぐ反撃が来るかのように、あっしの動きを探ってたです。しかも、お仲間と談笑しながらです。説明してもらいたいです」

それでも腑に落ちない事があるのだろう。クジットは全く引き下がる気配を見せていなかった。


確かに、ねた首は、吹き飛んだにもかかわらず、何かに引き寄せられるように元に戻っていた。私の能力ならそうはならない。ジェイドはちぎれた手足を自ら傷口に押し当ててつなげていた。


「能力は光の玉となって追いかけてくるからね。それに、ある人が残した資料と日記にも色々な事が書かれていた。特に、まことの勇者については詳しく書かれていたよ。特に固有能力については、能力名と共にその能力に関する考察もあった」

組合長の残した資料。そこには様々な情報が書かれてあった。


そして、その足跡を辿れば見えてきた。組合長が何を考え、何故それを集めていたのかを。


それは、固有能力の事だけではない。

神々の事、勇者の事、精霊の事、竜の事。

そして、自らの苦悩にいたるまで、彼はそこに記していた。わざわざ、ガドシル王国の図書館に行く必要がないくらい、事実が簡潔に記されていた。


それは、自分に関する歴史の考察。そしてその後の歴史をひも解いた研究の成果。


かつて、始まりの勇者と称えられた四十八人。古の魔王を倒すために召喚された最初の四十八人。


そして彼らは後に、暗黒の四十八人と呼ばれるようになっていた。

だが、歴史はさらに記している。彼らまことの勇者は四十七人だと。


そう、暗黒の四十八人に数えられ、まことの勇者になれなかった唯一人の男。

自らの力で自らの国を滅ぼしてしまった男は、それでも古の魔王と戦っていた。


その男こそ、後に魔王と呼ばれる賢者ダイウスト・チョイリス。

彼の生まれ変わった姿があの組合長。

星読みの魔術師シン・ドローシだということが、彼の日記に記されていた。


まことの勇者はその生の終わりにもう一度神と出会い、二つの道を選ぶ事が出来る。


一つは魂を元の世界に戻す道。

そしてもう一つは、この世界の人間として歩む道だった。


組合長が、どういう気持ちでこの世界に残ったのかは分からない。でも、彼はこれ以上勇者が現れない世界を望んでいたのは明らかだ。


――今どこで何をしている? あなたは何を考えている?

ただ、今はそれを考えている時じゃない。


まことの勇者は固有能力を自らの資質や、蠱毒こどく法と呼ばれる殺し合いの中での行動で獲得するらしい。まれに、『性質』と呼ばれる特性をもって転生する者もいる。しかも、その技能はある程度解明されている。何しろ五百年以上たっているからね。資料にあった技能と君の言葉『今ある状態を維持している』から考えると、君の固有能力は【状態不変】だ。そして、君は生きている状態・・・・・・・を不変としている」


話しをしている間に、私の意志を感じたリナアスティが、皆を誘導して下がらせる。さっきルキを狙ったのは単なるあてつけに過ぎない。クジットにとっても、私を倒さなければならないことは明白だ。


「正解です。ささやかなプレゼントでも受け取るです」

放たれた拳圧を薙ぎ払った瞬間、クジットが一気に距離詰めて話しかけてきた。

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