第140話神々への口撃

「何か企んでいるみたいだね。でも、無駄だからあきらめた方がいいよ。あの人間達も邪魔しなければ殺されなかったのにね。弱い人間のくせに、よその国の出来事に首を突っ込むからいけないのさ。せっかく生かされているんだ。力の無いものは、おとなしくしてるべきだよ。ただ、君みたいにでしゃばってくるのも同じだけどね」

どこまでも人を小馬鹿にしたような声が響き渡る。勝ち誇ったような感じも伝わってくるから、実際そう思っているのだろう。


あれからまだ、何故かクジットは動いていない。それは私にとって、とてもありがたいことだ。

運がいい。そう言ってしまえばそれまでだけど、まるで時間が私に味方してくれているかのようにも感じられる。


「精霊王を封じた結界がどうにかできるはずがない。それが、アンタら神様の油断だ。前はそうだったけど、今の私はそうじゃない。剣士ソードマンである以上、精霊の力が私の中で大きく働いているのは事実だろう。この中では、精霊はその存在だけでなく行動も封じてしまうんだろう。だからアンタに行動を許された氷華ひょうかだけが、この場で行動できている。尾花おばな桔梗キキョウ剣士ソードマンの専用武具だから、同じ扱いなのかもしれない。でも、私の力はそれだけじゃない」

静かに厳かに、声だけの存在を捕まえてそう告げる。いきなり捕まったような感覚に、焦っているのだろう。距離をとったように感じさせられたその瞬間、私の意識はその首を捕まえた。


「それこそ、無駄な事だ。ここのことが分かった私に、それが通用するものか。ここは、アンタらが作った疑似的な精霊界だ。もともとの精霊界と同じく、距離の概念なんてない。時間の推移も通常とは異なる。そして、本当の精霊界なら、時間の流れは固定されているだろう。この中が遅く、外が早い。でも、ここは精霊界じゃない。私に外を見せたことは失敗だったな。私が見ることで、この中と外の世界は同じ時間の流れの中にいた。時間の流れが変化することは、本物の精霊界ではありえない。ひょっとすると、逆の事も出来るかもしれないこの世界は、アンタらが作り出した世界だからだろう」

そう、それは偶然だったのだろう。

見ることで、外の世界とつながっていた。それは、私自身が見ようと思えば繋がれるということを意味している。そして今の私なら、たぶんそれは自力で可能になるだろう。


「何が言いたい? それがどうしたって言うのかな? わかったところで、ここから出る手段なんてないよ。でもまあ、その通りだよ。ご褒美に教えてあげるよ。この空間は、精霊王を閉じ込めておくための特別な世界なんだ。もっとも、今回のこれは君だけを捕らえるようにしてるけどね。純粋な精霊でないにしても、君の体は精霊の加護を受けている。この世界にいる限り、その力はかなり封じられる。それは、剣士ソードマンにとっては致命的だと思うよ。そもそも竜の力も中途半端な君は、もともとの勇者としての力とその性質……」

そこまで言って気が付いたのだろう。


私がまことの勇者だということを。

私には特別な性質があることを。


「そう、勇者の力をこの結界で封じることはできない。当然、その性質も同じだろう。そして、以前の私が全く手も足も出なかったのは、ただ勇者の力が弱かったからだ。でもその事で、私の性質がより確実にアンタらに影響した。アンタらは考えたはずだ。『二十番が何をしようが、結界に閉じ込めれば問題ない』とね。前にできなかったからといって、今も同じと考える。まったく、慢心もいいところだ。その瞬間、アンタらは間違ったんだよ、神様。悠久の時を生きているアンタらは、変化というものを忘れた。お返しに教えてあげるよ。今の私は精霊の力だけじゃない。私の中には竜との契約の力がある。知ってても、見逃したね。取るに足らないと思ったんだね。そうそう、アンタは中途半端だと言ったけど、そもそもそれがアンタの間違いだとしたらどうなる? 竜の力は、この結界の影響は受けない。そして、私は『嘘』という性質を持っている。それは、アンタら神様をも欺くモノだ」

メナアスティの言ったこと。それは私の中に竜の力が宿ったというものだった。あの時はいまいちピンとこなかったけど、今ならしっかりわかる。絆は互いに引き合うから絆なんだ。


だから、私の考えていることはリナアスティに伝わっていた。私が受け取れないと思い込んでいただけで、私の意志は伝えられていたんだ。


だから今、こうしてリナアスティを身近に感じる事が出来ている。苦痛を感じる事が出来る。

だから今、こうしてリナアスティと話をする事が出来ている。もうすぐ行くことを伝えられる。


だから、メナアスティもあの場に居続けてくれている。


そして今、私の中にリナアスティとメナアスティとの絆を通して、竜の力が流れ込んできた。


――もうすぐ行くよ、リナアスティ。


「でも、君は僕達をどうすることもできない。さすがだよ、二十番。ただ、君の言う竜の力。君はそれを使いこなせているわけじゃない。それに、あの男みたいに僕達を攻撃する手段を持っているわけじゃない」

ほんの少しの動揺を感じたのかもしれないが、さすがに堂々と言い放つメシペルの神様。

確かに、今の私にその手段はない。だけど、私にはそもそも攻撃する必要なんてない。


「あなたの言う通りだよ、メシペルの神様。でも、そんなことはどうでもいいんだ。要は、この結界に閉じ込めても無駄だということが言いたかっただけだ。これ以上は時間の無駄だから失礼する。でも、再び私を捕らえようとしたら、今度は精霊王を見つけ出して連れ出すよ。龍王の結界を利用しても無駄だ。その時はその逆をするだけだからね」

その瞬間、強烈な意志が襲い掛かって来たものの、すでに私はその姿を見つけている。それを跳ね除けるだけの力を得ている。


力の衝突がこの空間をふるわせている。


「無駄だよ。アンタを認識できれば、この氷の彫像を包む結界はアンタを拒む。精霊の力ではないから、この世界でも同じように使えるのさ。もう一度言っておく。これ以上、私と私の仲間に手を出すな。私の目に映る人々を傷つけるな。もし、この事が受け入れられなければ、私もアンタら神々を攻撃する為に行動する。かつてアンタらがそうしたように、私が神殺しになる。そう言えば、一人なったんだよね? これは決して【嘘】じゃない。他の神々にも伝えておけ!」

なおも執拗な攻撃は、竜の結界により全て無駄に終わっている。


――言いたいことは言い切った。もうここですべきことは何もない。

だから、あとは飛ぶだけだ。


あの場所へ、あの場所に。


【位置変換】

私の固有能力は、何かと何かを入れ替える力。それはモノである必要もなく、同じである必要もない。ただ、目印があった方がやりやすい。


結界の中にある氷の像・・・・・・・・・・と、優育ひなり泉華せんかが守ってくれていた結界の外にある氷の像・・・・・・・・・・を入れ替える。


当然その一部である私も結界の中から外に出ることになる。


私自身の状態でも、たぶん同じ事が出来るだろう。結界の中・・・・結界の外・・・・という位置状況を入れ替えるだけで、私はいつでも外に出る事が出来る。

だから、メナアスティは心配ないと言っていたのだろう。


「お帰り、ヴェルド」

優育ひなり泉華せんかの笑顔が飛びこむ。だけど、今はそれに満足している暇はない。


「聞こえてたよね? 咲夜さくや! 春陽はるひ! 急ぐよ!」

「汝の思うままに」

「まかせて!」

その瞬間、影跳躍を発動さる。


狙いはクジットただ一人。

音速を軽く超えた速度で跳躍する。光が一点に集まった先に、目指すものがあるはずだ。


桔梗キキョウを抜き去り、クジットの影から出て切り裂くのみ。


刹那の斬撃。


確かな手ごたえと共に、この攻撃に反応できていないクジットの頭が宙を舞う。


そう、光となった私はクジットの首を跳ね飛ばし、空高く駆け抜けていた。


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