第86話四十八の神々

「二十番。何してんだよ!」

全方向から、強い圧力が襲い掛かってきた。


咲夜さくや泉華せんか氷華ひょうか優育ひなりは、それを私の周りで押しとめている。


ただ、その力は、真剣に私を攻撃してはいない。

何となくそう思う。

それでも、強い力であることには変わりない。


「何だ……」

まるで、遊んでいたおもちゃを、急に取り上げられたかのような苛立ちを感じる。

そんなことした覚えはないんだが……。


ただ、いわれのない因縁をふっかけられているわけでもないのだろう。


その数字が何を意味しているのかは、さっぱり分からない。

でも、それが私を示しているのは理解できた。

そして、怒りの矛先は、その数字を持つ私に向いているという事だろう。

相変わらず、圧力は続いている。


ただ、じりじりと絶え間なく続いているという感じではない。おそらく力が働いたのは、あの一瞬だけだろう。


ただ、大きすぎるがゆえに、その影響が一向になくならないに違いない。

けた外れな、存在がそこにいるという事だろう。攻撃しようにも、力の源がつかめない。


しかし、このままではいずれ……。

桔梗キキョウを手にどれだけ範囲を広げても、核となる存在にたどり着けないでいた。


早くしなければ……。


力は同じように襲い掛かっていても、精霊たちには個性がある。どちらかというと防御が得意な精霊と、そうではない精霊には、どうしても差が出てしまう。


咲夜さくやが力負けしそうになったその瞬間、真っ黒な中に、爆発するような白い光が輝きだした。


「貴様こそ何している。一応、僕のものに手を出すなんて感心しないね」

その声には聞き覚えがある。

でも、相変わらず姿は見えない。

ただその瞬間、私達を抑えていた力が無くなっていた。


「はあ? よく言うぜ!」

最初に聞こえた声が、聞き覚えのある声に向かって吠えていた。

しかし、明確な声として聞き取れたのは、その言葉が最後だった。


こちらに向かってこないものの、力のせめぎ合いを感じる。


言い争っているようにも、話し合っているようにも、ふざけあっているようにも思えるけど、その力の余波は、そのたびにこちら側を襲ってきた。


おそらく、何かのやり取りが行われている。


その内容は理解できるものではないのだろう。

ただ、人知を超えた何かがこの場所にいることは確かだ。


しかも、最初の二人から、徐々に増えていくようだった。

止めどなく流れ出る汗が、頬を伝い落ちていく。緊張が口を干からびさせていくようだった。


抗うべきではない。そう本能が告げている。


気が付くとこの場には、四十八の大きな力が存在していた。


「これが、神々……」

不意に口に出した言葉は、それらを理解したわけじゃない。でも、そうとしか言いようがなかった。

そう理解するのが、自然に思えた。


「なんだろう、大きく二つの派閥に分かれてる? いや、片方は積極的だが、もう片方はそうでもない?」

言葉に出すことで、私の中で理解の鎖がつながっていく。

積極的だと思えた方にさっきの声が存在している気がした。


それには何の確証もない。

ただ、ますます言い争いをしているような気がするのは確かだ。


何について話しているのかはさっぱりわからない

力のぶつかり合いは、互いに拮抗したまま永劫に続かに思えた。


「これは、神々の争いなのか?」

相変わらず、力の余波はこちら側に迫ってくる。

明確に感じたわけじゃないけれど、なんとなくそう思えてきた。


精霊たちが、そういった力から私を守ってくれている。さっきと違い、余波だから簡単に防げている。


だから、私はその存在を探すことに専念した。ともかく、この場を離れなければならない。そのためにも、核となるものに攻撃する必要がある。


静かに、あの存在をつかむべく、意識を極限にまで高めていく。精霊たちの力も、桔梗キキョウ尾花おばなの力を使い、ただ一点を断ち切るために……。


「見えた!」

私がその何かをつかんだと思えた瞬間、精霊たちが小さな声をあげ、何かが私達を包み込んだ。


さっきとはまるで違う。

言い表せないような、大いなるものがこの場にいる。

しかしそう感じた瞬間には、それは跡形もなく無くなっていた。


私の周りからはあの圧力と空間がきれいになくなり、取り込まれる前と同じ空が広がっていた。


「ヴェルド君、精霊王から伝言を預かってるよ……」

優育ひなりの顔から笑顔が無くなっている。


畏怖というべき言葉が、おそらく今の優育ひなりを表現するには最もふさわしいのだろう。


優育ひなり……。え? みんなも!?」

全ての精霊が同じような顔になっていた。


精霊王というのは、それほどまでにすごいのだろうか?


でも、全く認識できていなかった。


「精霊王は、この世界そのもの。有るべくしてあるものだ。さっきの者どもとは少し違う。感じられないのは、感じなくても良いからよ。気にせずともよい」

桔梗キキョウの声はあくまで冷静だった。

感じなくても良いというのは、感じる必要がないという事なのか?


全くわからない……。さっきから不可解な物ばかり出てきてる。

それに、桔梗キキョウ

さっきの者って、神々のことを言ってるのか?


「あらあらあらぁ、桔梗キキョウも偉くなったものねぇ。ハナもうれしいわぁ。で、どうするのかしらぁ」

なるほど、桔梗キキョウの背伸びか……。


そして、尾花おばなはおそらく優育ひなりに向かって言ってるのだろう。

私を通して、その意思は優育ひなりに通じている。


「もちろん、伝言だからね。言うよ。いいかい、ヴェルド君。精霊王は神々からの伝言を預かったと言ってたよ。つまり、今から言うことは、さっきのやり取りの結果だと思う。ボクには分からなかったけど……。間違った意味になったらダメだから、言われたまま伝えるね」

幾分いつも通りの優育ひなりに戻っていたけど、まだその緊張は取りきれていないようだった。


「二十番、お前の罪は許された。国が亡びた後の勇者が、他の国の争いに介入することは想定していなかった。そんなことはできるはずがないからな。ただし、お前はここにいる。何もしなければ、そのままにしておいたが、お前は介入することを選んだ。だから、この国で起きたことには償いをしてもらう。ただし、今後このような事を行った場合、それなりの罰が与えられると知れ。手始めに、この地で得た力を封じる。我々の盤上に、我々以外の意志が働くことは許されないのだ」

優育ひなりが語り終えた瞬間、私の中で何かが封じられた気がした。


「【砂漠化】が使えない……? 【千里眼】はそう言えば、解除されてる? 【光速移動】、【治癒強化】、【位置変換】は感じられる……」

何だ? どういうことだ?


「ヴェルドよ、我らは神々の不興を買ったのかも知れんな……」

咲夜さくやの声が、重く、重くのしかかってきた。


さっきの話しか……。


勇者をこの手で倒したからか?

この国の争いに介入したからか?

今後このようなことをすれば、責任を取らせるだと?


罰?

罰ってなんだよ?


神様が、国と国の争いを容認しているのか?

いや、私が介入したことに対して、罰という言葉を使っている。

容認しているんじゃない……。争いを望んでいるのか?


アンタら一体何がしたいんだ?


「神って、いったい何なんだ?」

その答えに応えてくれる存在はなく、私の言葉は空しくさまよう。


その時、いつの間にか頭の中に流し込んできている泉華せんかの遠見の魔法が、ガドラの悔しそうな叫び声を、大きく響かせてきた。


「くそ! これだけの数! さすがだな、勇者タマ! このすっごい勇者殺しになったガドラ様にも、困難という文字が見えてきたぜ!」

なぜか、異様な姿となったガドラがいた。

もともと変な格好してたけど、もうこれは救いようがない。


ただ、その視線の先には、無数の隕石群が迫っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る