第87話竜に呼ばれし星々

「いやいや、ガドラ――」

などと突っ込みを入れている暇はなかった。


いつの間にこんな状況になっていた?


何で、王家の剣が炎を纏っている? ガドラの髪が逆立っている? しかもパチパチしてないかい?


ガドラの周囲は、さっきよりも風が渦巻いている? 


「ああ、すまないな。つい調子に乗っちまったぜ!」

心が通じ合っているとは言え、謝罪が軽いな、紅炎かれんさん!


ていうか、いつの間にガドラと一緒に戦っているんだ?


「いや、なんだかじっとしてられなかったんだ! それに守りは鈴音すずねでいいとしても、ガドラの攻撃力をあげておこうと思ってだな!」

いや、紅炎かれんさん? それって、なんだか余計なことしてないか?


「どちらにしても、あのままやったら、お互いに何もできひんかったわ。アンタもそういうてたやん! いまさらなんなん? 文句あんの? でも、ちょっとこれはあかんわなぁ。やりすぎたわなぁ このアホではどうにもならんなぁ」

美雷みらいまでも……。

そういえば、この二人だけは、目がマジだった。さっきの冗談が通じてなかったんだ……。


「でも、あの黒い球に割と長い間閉じ込められとったやん……。一応ちょっとはウチも心配したんやで……。違うし! つながりが消えてないから、心配してないし!」

一体どっちなのかわかんないけど、あの状況でも精霊のつながりと、力のつながりは保てていたようだった。


そして、戦ってたと思われる場所を見ると、かなりの時間、閉じ込められてたことも分かった。


砂漠化したとはいえ、戦いの痕跡はしっかりとついていた。


体感した時間と、少しずれがあるのか?


やはりあれは、別空間に閉じ込められてたと言う事か……。それでも、精霊たちとのつながりは消えてなかっただけ、ありがたかった。

そうでないと、ガドラの支援が出来なかっただろう。


「まあ、ありがとうね。それと心配かけてごめん。あと、ちょっとやりすぎ!」

でも、今はそれどころじゃない。

ただ、三人とも舌を出して謝っているような感覚が伝わってきた。


「とりあえず、銀竜を何とかしようかな」

「そうかもしれないね。でも、ヴェルド君どうする? 使えないんだよね?」

優育ひなりはさっきまでと違って、いつもの優育ひなりに戻っていた。


エマは相当ばてている。


おそらく銀竜を使って隕石群を召喚したのだろうけど、自分自身もかなり疲労感が漂っている。紅炎かれん美雷みらいのおかげで、ガドラの攻撃が届いたのだろう。


所々手傷を負っているようだ。

でも、これ以上追い込むわけにもいかない。


ただ、当初のプランは変更しなくてはならない。


エマを殺して、【魔物制御】を手に入れる。それを使って、銀竜を解放する手段はもう使えない。

さっきの感じからすると、多分奪った途端、封印されるのが目に見えている。


尾花おばなで二人の関係を断ちきるのも考えたけど、正気を無くしている銀竜がどうなるかわからない。

関係を断ち切った途端、銀竜の精神が崩壊してしまっては意味がない。


どうする?


「まあ、考える時間を作るために、まずはあれを何とかしようよ。極小さいのは勝手に自滅するからいいとして、問題になるのは……。全部で、ざっと五十ってところかな? 以前よりもちょっとだけ小さいけど、結構な範囲が影響受けるよ? 数を優先させたのかな? それとも何か意味があるのかな?」

優育ひなりは何かを探っているようだけど、私には多分、その意味を考えても分からないと思う。

それに、わかったところで仕方がない。


毎度毎度、はた迷惑な隕石を召喚してくる人たちの思考を理解したいとは思わない。

ただ……。この賢者と呼ばれる職業の勇者は、いいように考えると、ロマンチストなんだろう。


自分で呼び出した流れ星に、最後の願いをかけるなんて……。


ただ、今回のこれは、どれに願いをかけるかもはっきりできないものだろう。

広範囲に展開しているということは、その召喚と制御をエマではなく、銀竜がした可能性が高い。


このままだとトルリ山も王城も危ない。それに、まだ避難中の人たちもいるだろう。


銀竜が正気じゃないことは、これで明らかだ。色々問題が山積してるけど、まずは、迷惑行為を一掃しないことには始まらない。


まずは、現在落下中の隕石群を処理するか。


隕石群に突入しようとした矢先、ガドラの勇ましい姿と共に、自身に満ち溢れた声が轟いてきた。


「勇者エマ、お前は何をしているのかわかってるのか? お前のあれは、このすべてを壊してしまうものだぞ?」

話しながら、力を蓄えるように剣先を後ろにして構えるガドラ。

目を瞑り、静かに何かを待っているようだった。


エマはそれをなすすべもなく見守っている。

私もなんとなく見入ってしまっていた。


しかし次の瞬間、まるで仁王像の形相になったかと思うと、炎の剣をただ真横に振るっていた。

紅炎かれんの力と、美雷みらいの力と、鈴音すずねの力が合わさって、王家の剣に力を貸していた。


「困難は、打ち破るためにある。勇者タマ、覚えておけ! このガドラ様のさっき得たばかりの必殺奥義で、お前の野望を打ち砕く! 『いちねんぼっきすれば、なんとかなる』そうだ! 喰らえ、奥義! 『ガドラクラッシュ!』」


自分を砕き、下ネタで全てを台無しにしたガドラの叫びと共に、雷と炎の嵐が、隕石群に襲い掛かって行った。

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