第68話星読みの親族の思惑
改めて応接室で顔を合わせたのは、ラミアさんと、魔導図書館館長と自警団団長の三人だった。後の人たちは、それぞれの仕事に戻ったようだった。
いわゆる星読みの巫女の親族だけが、この図書館に残ったようだった。
「ラミアの話はひとまず置いておくとして、まずは改めて自己紹介からさせてもらおうかな。私はセトリアス。この魔導図書館を管理している者だ。妻のラミアは魔術師組合の組合長をしている。そしてこっちが私の義理の兄にあたる自警団団長のシクーツだ」
さすが館長、社交辞令を分かっていると言いたいところだけど、ラミアさんの顔が餌をもらったハムスターのようになっているよ!
大丈夫?
ついでにミリアさんまで膨らませているのは、館長に恨みでもあるからか?
勧められるままに座った応接室の椅子は、とても座り心地がよかったけど、この後の事を考えると、とても気が気でならなかった。
しかも、両脇を星読みの巫女が固めてきて、なんだか逃げられない状況を作り出された気がする。精霊たちも一斉に私の所に来て座っているし、なんだかすごい光景になってそうだった。
そして、目の前にはその両親がいる。
おまけに伯父と叔母も伴って、まるで四人が私を値踏みしているようだった。
何なんだ、この配置? この状況?
あっけにとられている暇もなく、目の前の人たちはそれぞれ言いたいことを話し始めた。
「もう理解してくれているとは思うけど、私達の娘たちはとても利口だ。自慢の娘たちだよ。わかるだろ?」
「あら、それだけじゃないわ。気立てだっていいのよ」
「しかも母親似の美少女だよ、ヴェルド君!」
「まあ、年齢が近いのもよかろう。ネトリスはヴェルド様よりも年上だが、それはそれでいいものだ。私の妻も年上でね。セトリアスとラミアの結婚を反対した時など、ずいぶん妻に説教をくらったものだ。もっとも、私もそんなことでは反対の手は緩めなかったがね!」
いやまて、いったい何の話をしている? そもそも私は何のために待たされたんだ?
ていうか、いいかげん許してやってくれ。
「あの……。話がよく見えないのですけど……」
さっきはお礼とお詫びとお願い多数を言ってなかったっけ? しかも、お礼もお詫びも飛越して、いきなりお願いになってないか?
しかも話の流れ的には、あの件のような気がしてならない。
今、そんな話をしてもらっては困るんだけど……。
ネトリスは成人しているとはいえ、私もエトリスもまだ成人すらしていないんだ。
なにより、そんなことしている暇はない。
「ああ、そうだったね。勇者の戦いのことはうちの娘達が星から聞いたようだ。『ぎしんあんき』にとらわれた、この街の代表者たちを納得させる為に芝居を考えたのも、この子たちだ。どうだ、偉いだろう?」
凄く誇らしげに頷いている。しかも、ラミアさんの尋常じゃない頷き方は、とても正視出来るもんじゃなかった。
まさに、親バカだ。しかも、シスコン団長とミリアさんもそうだった。
こういうのって親族バカっていうのだろうか?
「それだけじゃないわ。ドルシールの事もこの子たちは分かっていたのよ。しかも、この子たちの料理は、私より上手なのよね」
ドルシールと料理って関係ないでしょ?
ていうか、それって母親が自慢していいことじゃないと思うな。
いや、まてよ……。
料理って、ひょっとしてあっちのこと? ひょっとして気付いてないだけで、私も調理されてた?
「姪っ子が美少女ってことは、私も捨てたもんじゃないはずなのにね? そう思うよね、ヴェルド君? そうだよね? そ・う・だ・よ・ね?」
その迫力は、無言で首を縦に振るしかできなかった。たぶんミリアさんだけがこの三人と別次元で話をしている気がする。
あと、あえて言わせてもらうなら……。
たぶん、ミリアさんの場合は性格か性癖に何か問題があると思う。たしかに、美人だし、いい人であることは間違いない。それは私が保証する。
でも、いまだに独身。この世界ではかなり問題となる独身。
二十歳を超えたあたりから年齢を数えなくなったミリアさん。
私はまだいいから、誰かいい人紹介してあげて……。
「しかし、うちのかわいい娘たちをやるわけにはいかん。どうしても欲しければ、この私を倒してみるがいい!」
シスコン団長改め、姪コン団長と呼んでやろうか?
そもそもあんたの娘じゃないから! しかもそのセリフを勇者相手によく言うよ。
そもそも、欲しいなんて一言も言ってないし!
何なんだ、この展開。アンタら勇者がいることで、嫌な思いしたんじゃないのか?
しかも、それぞれバラバラに話してくるから全く纏まらない。それでいて、親族バカたちはかなり上機嫌だ。
さて、いったい誰の話に合わせたらいいのだろう。
そもそも、ミリアさんと姪コン団長は論外だし……。
「すると、私はどう判断されたのでしょう? さっきも申しあげたとおり、私としてはご迷惑をかけないつもりです」
まあ、あわせる必要もないか……。
この図書館に目当ての物がない以上、次の場所にかけるしかない。ここは穏便にやり過ごして、一刻も早く立ち去ろう。
「実はその件がお願いの一つなのです。どうか、うちの娘たちをあなたと一緒に連れて行ってもらいたいのです」
セトリアス館長とラミアさんがそろって頭を下げていた。
その脇で、姪コン団長は憮然とした表情を浮かべ、ミリアさんはいつも通りの笑顔だった。
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