第69話運命の選択
結局それからも、娘自慢は延々と続いていた。
一つ話が進んだと思ったら、誰かが新たな自慢という合いの手を入れる。すると話がそちらに飛び、なんだかんだと続いていた。
その度に引き戻す苦労を分かって欲しい。
でも、目の前のルキはそれを許してくれるほど、寛大なご様子ではなかった。
「で、他に何か言うことは無いの? 勇者様?」
正座させられた上に、仁王立ちしているルキに対して、これ以上言うべきことはなかった。
ちょっと端折ったけど、ありのままに伝えたはずだ。何か間違ったこと言ったっけ?
「あんみつ坊やのヴェルド君。あたいは、その子をちゃんと家に置いてくるようにって言ったはずじゃなかったかい? なんで増えてるんだろうねぇ? もう一度行ったら、もう二人増えるなんてことはないだろうねぇ?」
ここから少しだけ離れた位置に、いわゆる応接セットのようなものがあった。そこの自分専用らしきいすに腰掛けて、冷たいまなざしをおくってくるドルシール。
暖炉を背にして足を組んで座っている姿は、この屋敷の主の風格を見せつけているかのようだった。
でも、それは笑えない冗談だ。
「そうだぜ、あんみつ! 姉さんの言いつけはまもれよな!」
「もしかして、ドルシール姉さんの言ってることが理解できなかったのかい? 言ってくれたら教えてあげたのに、残念だよ、まったく」
その背後に立っている、ガドラとイドラは好き放題に言ってくれる。
それにしても、なにが、まったくだ。
こっちは、さっぱりだよ!
「まあ、ヴェルドも悪気があったわけじゃないし、そろそろちゃんと説明させてもらいたいかな」
もう一度説明しようとしたとき、
「なんなら、ボクが説明しようか? でも、そのまえにヴェルド君を座らせてあげてほしいな」
「クク。汝も災難よな」
「ごめんなさい。あたしの力では未来まではみえません」
「そなたの風が招いたことじゃ。あきれて物も言えぬ」
「お前のその軟弱さを、俺の炎で鍛え直してやろう」
「ウチはしらんで、反対したし」
精霊たちが一斉に出てきたと思ったら、なんだか好き放題言ってきた。ただ、珍しく
いつも通り、無言。
でも、なんだかいつもより冷たい気がするのは気のせいだろうか。
「そうね、
ルキは少し考えた後、そう決断を下していた。
どんだけ信用ないんだ、私?
でも、やっとまともに話を聞いてくれそうな雰囲気に、思わず安堵のため息が口を出た。
「でも、ちっとも反省してないみたいだから、君はそのままね。
ルキが、ドルシールが座っているソファーの方に、星読みの巫女たちを連れて行った。
向こうで話す理由って何?
なんだかよくわからない行動は、何か私に問題があったからだろうか?
もう一度、順を追って考えてみる必要があるか……。
離れているとはいえ、向こうの声はしっかり聞こえる。ちょうどいい、
*
とりあえず、ガウバシュの街で感じた暗いイメージは、全く私の誤解だった。
私が勇者であることは、あの場所にいた人しか知らないようだった。
街を暗く感じた原因は他にあった。
ミズガルド統一歴二千五百九年にハボニの乱といわれた、ハボニ王国の侵攻。私がこの世界に来る前の出来事がその時期を大きく変えていた。
それはハボニ王国がインクベラ王国に侵攻したことに始まり、二年後の二千五百十一年にダグル王国に侵攻したところまでを指すようになっているようだった。
タムシリン王国への侵攻は、ハボニの乱とは言わなくなっていた。
もはや、それは乱では済まされない事態になってしまったようだった。
ハボニ王国がタムシリン王国を侵攻した時、争いの火種は一気に大陸全土に広がっていた。
ミズガルド統一歴二千五百十二年八月。つまり、この時が第五次世界大戦の始まりの時だった。
八月にタムシリン王国に侵攻したハボニ王国の行動に呼応したかのように、各国が示し合わせたように動きを見せていた。
二千五百十二年八月南の大国ジーマイル王国が北上し、大国ターラント王国はその歴史を閉じていた。
二千五百十二年九月ジーマイル王国と国境を接するイタコラム王国が、カットラス山脈の反対側を目指して北上し、バルトニカ王国を滅ぼしていた。
これにより南の大国である、ジーマイル王国とイタコラム王国が同盟したとも噂されていた。
イタコラム王国侵攻と同時期に、大陸中央にあるクレナット王国がアテサット山脈沿いに南下して、プラシ王国を滅ぼしていた。
二千五百十二年十月には、マルムストン山脈とカットラス山脈とアテサット山脈に囲まれた大陸一の大国であるジルスラガル王国が南下してスカメル王国を滅ぼしている。
私達が村で、警戒しながらも安穏とした日々を過ごしていた間に、世界は大きく変化していた。
これにより、私がこの世界にやってくる少し前にあった二十の国は、すでに十三にまで減っていた。しかも、これから行こうとするガドシル王国は、国境でデザルス王国と小競り合いを続けているようだった。
いつか、デザルス王国がガドシル王国に侵攻する。
いずれやってくるであろう戦争の恐怖は、海を越えてガウバシュの街に不安の影を投げかけていたようだった。
その上で、ラミアさんたちが求めたこと。それは色々な話を経由したとはいえ、結局のところ星読みの巫女の保護だった。
彼女たちは、勇者の子供の子供であるにもかかわらず、強い力と魔王斑をもって生まれてきたようだった。彼女たちが、無事に魔王斑がなくなるまで匿われていたのは、あの図書館の設備のおかげだった。
しかも、組合長もそれを手助けしたようだった。
ひょっとすると、魔王斑の子供の出生率が低下したのではなく、組合長たちの努力の結果、王国はそう見えていたのかもしれない。
そう考えてみると、組合長に密かに拍手を贈ったけど、その顔が浮かんだ瞬間、やめにした。
絶対、面と向かってはしたくない。どんな顔するかわかってしまう。
自然と自分の心に固く言い聞かせていた。
「なるほどね、だからこの子たちを保護するわけね。分かった。でも、あたしはもちろん行くわよ。しっかし、最初からそう言ってくれたら、あたしも理解したのにね。残念だわ。それとドルシール、やっぱり悪いけど、また今度にするわ」
「そうかい、それならいいさ。まあ、仕方ないね。そしたら、あたいも一肌脱ごうかね。ちょっと踊らされた気もするけど、まあいいさ。あたいは人間が出来てるからね。あんみつ坊やの代わりに守ってやるよ」
なんだか二人とも納得の表情を見せている。
「ご理解いただきありがとうございます」
「ありがとうございます」
ルキとドルシールの言葉を受けて、ネトリスとエトリスは二人に頭を下げていた。
あれ? ひょっとして聞き逃した?
話しは全部知ってるけど、私の説明では納得しなかった二人が、
一体、なんて言ったんだ、
私の疑問を解消するまもなく、ドルシールの言葉が全員の時間を止めていた。
「で、あんみつ坊やは、どっちを選ぶんだい? ルキかい? ネトリスとエトリスの二人かい?」
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