第42話嘘と誠
「そういう事だ、こいつは勇者だよ。大体、一介の冒険者が真の勇者である俺の最初の一撃を受け止めれるはずないだろう。それ以上に反撃までしやがったんだぜ、こいつはよ。それとな、コイツに譲った刀はよ、前の持ち主が真の勇者だった。プライドの高いこいつらは、自分が認めたものしか使用を許さんそうだ。だから、
大男の高笑いが、村中に響き渡る。
攻撃しようとすれば、出来るはず。でも、今はそんな気は無いようだった。
コイツは私と戦いながら、ルキを攻撃してるんだ……。
精霊たちを宿すことを一旦やめて、元の姿でルキに話しかけた。
「ルキ、私は確かに勇者として召喚された。でも、勇者としてではなく、この村には冒険者としてやってきた。この村のことは正直知らなかった。組合長はいろんなことを教えてくれなかったから。でも、この村の事情は分かったつもりだ。だから、勇者ということは隠そうと思った」
目の前のルキは、崩れかかった土壁を支えに立っていた。
やはり、それほど勇者を憎んでいたんだ……。
「すまない。君たちに嘘をついた。このことは、君たちの気持ちを考えると、何と言っていいか分からない。でも、許してくれとは言わない。ただ、今この時だけは、君たちの前に立つことだけを見逃してほしい」
頭を下げて、目の前の大男に集中する。
これ以上、ルキを傷つけることは許さない。
「はっ、とんだお笑い種だぜ、お前は国王の危機から逃げて、その能力を大幅に下げた偽物だろう。まあ、見た目と違って過酷な訓練をしたようだな。俺達に匹敵するくらいの力を持ったつもりだろうが、そんなことあるはずないな。お前の持つ
私に言っているようで、やはりルキを攻撃している。
勇者に希望を持ったのだと勘違いしたようだ。でも、ルキは勇者を憎んでいる。
ここで、私を卑下しても何の得にもならないだろう。
「言いたいことはそれだけか? マリウスやミストやライトに散々なまねをしてくれたな、大男」
「ジェイドだよ、ジェイド・ポプランだ。いくら頭が悪いっていっても、生きてる間くらいは覚えとけ、三下」
不機嫌そうにハルバードを構えてだした。
早さでは、マリウスにはかなわなかった。魔法ではミストに後れを取っていた。
でも、今は
もう一度、呼びかけに応じて、精霊たちが私の中で力となる。
「いくぞ!」
声をかけて、ルキの体に結界を施す。
全ての精霊の力を集めた結界だ。衝撃波くらいでは壊れない。
そして私は大男との間合いを一瞬で詰めていた。
大ぶりの武器は、その間合い深くに入ると、小回りが利かない。
しかし、相手は真の勇者、このくらいではびくともしなかった。
ならば、連撃!
尚も懐のもぐりこみ、その鎧の隙間を狙う。体格差があるから、頭部は正直厳しい。マリウスのように跳躍して狙うだけの技量はない。
それに、
「あー、ちょこまか鬱陶しい!」
柄の部分が潜る私の目の前にやってきた。それを刀でいなしつつ、空いた胴に一撃を放つ。
「
「
刀身に炎を纏ったまま、鎧に打ち付ける。高熱の刃は、そのまま高温のダメージにつながるだろう。
更にそこに
急激な温度上昇と温度低下は、物質の運動を急激に変える。いかに頑丈な鎧とは言え、これで無事に済むはずがない。
その繰り返しで、もろくなった部分を叩き切る。
「効かねーよ」
抑揚のないその声に、思わず背筋が凍りついた。
右側からの攻撃が来る感覚に、とっさに刀を滑り込ませる。
金属同士の衝撃音のあと、自分の体が崩れた土壁に打ち付けられた痛みに襲われた。
何が起こった?
その瞬間、激しい嘔気に思わず
目ではとらえきれない何かが起きたとしか言いようがない。
感覚を超えた何かが起こったに違いない。
奴の右からの攻撃は何だった? ハルバードは左手に持っていたはずだろう? その攻撃が私の右に来たはずだ。
背中の痛みは打ち付けられたものだとして、この嘔気は?
頭部へのダメージじゃない。
明らかに腹部へのダメージだ。
何があった?
混乱が思考を妨げる。動揺がさらなる混乱を招きよせていた。
「まあ、お前がこの国最強だってのは、認めてやるさ。速さも攻撃力も防御力もそれぞれ一級品だろう。もしかすると、俺以外なら倒せたかもな? でもよ、俺には通じない。全部それ、嘘だ。見せかけだ。お前の速さは、早いだけ。攻撃する瞬間はスピードが落ちる。防御しだすと攻撃できない。結局、そう見せているだけで、力が全部足りてねーんだ。ただの見せかけだけだ。そんなんじゃ、雑魚相手ならともかく、実力を持った者には通じないぜ。あの嬢ちゃんの方がスピードに乗ったいい攻撃してたぜ! 防御はお粗末だったけどな。まあ、国王が死ぬ前だったら違ったかもしれんがな。そんなこと今言っても仕方ないだろうな。逃げ出したお前が悪い」
ジェイドは淡々と説明していた。明らかに、私に対する興味を失ってきている。
まずい。
ここで興味を無くされては困る。
まだ、ルキがそこにいる……。
痛みはそれほどでもなかったけど、吐き気の方が深刻だった。無理やりそれを飲み込み、もう一度ジェイドに向き合った。
「ああ、さっきのが答えだよ。防御した瞬間、スピードが落ちた。だから、俺の右手のボディーブローが見えなかっただけだ。防御してたから、割と軽症みたいだけどな。今のそれ、普通だったら風穴空いてるんだぜ! こんなふうにな!」
言い終わる瞬間に、ジェイドは北の方に向かってハルバードを投げつけていた。
なぜ、そこに?
今まで、全く接近に気が付かなかった。
でも、ジェイドの行動は待ってくれない。
胸をなでおろす間をおかず、ルキの影からロキを連れ出した。
「ロキ、何で来たんだ!」
危なかった。もしも本気で投げられてたら、今のは防げなかった。
「ロキ!」
ルキがロキの体に抱きつく。
「どうしてかって? 僕がヴェルドさんの応援をしたいからです。『まことのゆうしゃ』は、守るものが多ければ多いほど、力が出るでしょ? そう本に書いてありました」
どこまでもさわやかに、ロキは笑顔で告げていた。
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