第一章 第三節 冒険者として生きていく

第25話王都帰還

「約二ヵ月ぶりの王都か。なんだか懐かしいな。九州くらいの大きさだって言ってたけど、実際に歩いたことないから比較しようがないな。でも、それが分かるってことは、誰か測量したのか? それとも実際に両方あるいた人がいるのか? どちらにしても、九州が分かるってことは勇者だよな。いろんな勇者がいるもんだ」

王都タムスの門をくぐった後、目の前にそびえる王城を前に、なんだか久しぶりに我が家に帰ってきた気分に、思わず苦笑してしまった。

実際に一日しかいなかったのに、懐かしいも何もない。


召喚された次の日、いきなりタムシリン王国のはずれにあるガウバシュ魔導図書館まで視察に行くように、ライトからの伝令がきた。

冒険者の件をボロデット老師に念押しするために、魔術師塔に行く途中のことだった。やたら急がせる伝令は、そう指示されていたのだろう。特に反対する気もないので、そのままボロデット老師に地図と必要な物一式を借りてから、王都を後にした。

というよりも、出てみたかった。


しかし、今さらだけど、マリウスやミストに何も言わずに出てきたのはまずかったかもしれない。なんだかんだ言っても、二人には世話になったわけだし、そのお礼はきちんと言っておくべきだった。

まあ、過ぎてしまったことは仕方ないか。


一応お土産も買ってきたから許してもらおう。

二人の件は少し億劫だったけど、楽しみな件が帰り道の私を急がせていた。


行く前に会ったボロデット老師から、あの日のうちに緊急会議を開いてくれていたことは聞いていた。

予想外の反対があったとのことで、もうしばらくかかりそうだということだけ知っている。

どこの世界でも、すんなり物事が進まないのは仕方がないのかもしれない。念押しした時も、その会議があると言っていた。


でも、さすがに結果は出てるだろう。これで、ようやく冒険者の一員になれる。


とりあえず、視察先の魔導図書館の入館証ももらったから、これからも調べものがある時に、あの図書館を使えるようになった。

冒険者となった時に、わざわざ王城に戻らなくても調べる事が出来る場所が有るのはありがたい。

しかも勇者と言っても、通常なら面倒な手続きが必要な図書館らしい。そこに視察という名目があるから、それが簡単に発行されたのは幸運と言えるかもしれなかった。

もっとも、他の勇者が利用することは、ほとんどなかったようだったけど……。


ただ、そんな場所をなぜライトが視察させたのか理由が分からなかった。具体的には何の指示もなかったので、正直困った。

だから、ただ単に見て回るだけのつもりだった。

でも、あそこに剣士ソードマンの文献があったのは、本当にラッキーだった。おかげで、予定よりも長く滞在してしまったけど、元々期日が決められてなかったから、問題ないだろう。


あらためて考えると、この世界に召喚されてから一番長くあそこにいたんじゃないか?

途中の各街は、多少違うけど、必ず一泊はしていた。

だから、行き帰り合わせて大体三日間ほど観光していることになる。

王都に至っては、一泊したとはいえ、丸一日いたわけじゃない。

そう考えると、今抱いている懐かしさって、いったい何なんだろう。


まあ、いいか。


王都から出て約二ヶ月の旅。

長いようで、短い旅だった。

その感傷が、懐かしさを感じさせているのかもしれない。


でも、行程にして片道二十日か……。

正直歩いているほうが長い。ただ、その途中でも、この世界の人の営みに触れる事が出来た。

おおらかというか何というか……。

とにかく、困っている人を助けるのが当たり前という考えの人が多かった。


困ったときはお互い様。

そんな歴史上の言葉を、この世界に来て耳にすることが多かった。

しかも、勇者はそうではないというのに……。


途中で滞在したテルの街、ユバの街、マダキの街は勇者がいたが、今は王都に召還されていなくなっている。

だからだろう。子供の一人旅に、最初はひどく警戒されていた。

でも、私が勇者のマントをしていないことに気が付いてからは様子が変わっていた。

こんな私に、街の人はとても親切にしてくれた。

そして、私も素直にお願いすることを覚えていた。


しかし、私は素性や目的を言うわけにもいかず、偽名を使い、お使いという嘘をついたのが心苦しい。


でも……。

私の中では、私はすでに勇者ではなくなっている。

いまさら、勇者という入れ物に入る気もない。


そして、今度は冒険者として、この世界をめぐるんだ。


そう言えば、今回は、テルの街、ユバの街、マダキの街を経由して、ぐるりと回るようにガウバシュの街まで行ったけど、地図で見る限りでは、反対周りでガウバシュの街に行った方が近い気がする。

でも、そのルートは危険だからということで却下された。森を抜けるルートも当然のように却下された。過保護すぎないかと思ったけど、これはこれでよかったかもしれない。

物見遊山のように旅をする事が出来た。

いつまでに報告しろと言われなかった分、思いっきりこの旅を味わうことにした。

これで、この国の街のことはすっかり詳しくなったといえるだろう。


そして今、私は再び王都に帰ってきている。残すは、王都の観光だけだ。

特に旅の途中で聞いた、王都にいるという星読みの魔術師シン・ドローシには会ってみたい。


でも、先に報告しよう。

目的がなかったとはいえ、お使いは最後までやり遂げてこそのお使いだ。


ただいまを言うわけじゃないけど、ちゃんと帰ったことは伝えよう。

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