幕間

第24話脈動

「よし、ようやくこの【千里眼】の使い方にも慣れてきたな。なかなかいい力じゃないか。だが、ただ単に遠くまで見る事が出来るだけの力だ。焦点を当て間違えると、見たいものまで見通してしまうのが問題だな。ただ見るだけならいい。だが、何かを探すとなると、色々と条件をそろえるのが面倒だ。範囲を絞って、距離を短く、細切れにするしかない。何かコツがあるかもしれんが、今の俺にはそれが分からん。何となく、これ以上はできない気もする。もう少し時間をかけたとしても、少しましになる程度だろう。どうもこの力は、俺にあってない気がする。まあ、だからこそ、使えるまでに一年もかかったのだろうけどな。相性の悪い能力を奪っても、使えないのもあるらしいから、そういう意味では使えただけ、ましと言えるがな」

薄暗い部屋の中で、体格のいい大男が一人で壁に向かってつぶやいていた。

しかし、何を思ったのか急に立ち上がり、部屋の中をぐるぐると回り始めていた。やがて立ち止まると、一心不乱に何かを見つめていた。

何か失敗したような悔しそうな顔から、驚いた表情に変わり、それは歓喜へと変わっていった。


「見つけた、見つけたぞ!」

愉悦の笑みを浮かべたまま、まるで視界を広げるように、首を左右に動かしていた。

しかし、次の瞬間には憤怒の表情に変わっていた。


「クソッ! 今日はもう使えん! 偶然だったが、明日もう一度探すしかない。胸糞わるい奴らだ。やっぱり、国外に逃げてやがった。奴らめ、味なまねをしてくれる! クソッ! いくら見つけたって、侵攻がなければ行くことができんじゃないか!」

それまで座っていた椅子を蹴とばして、怒りをぶちまける大男。軽く蹴ったように見えたけど、椅子は粉々になってつぶれていた。

自分でやっておきながら、大男は忌々しげに、それを見下ろしていた。


その時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。

大男が短くそれに応えると、緊張した小さな声が扉の向こう側から聞こえてきた。


「申し…………。次の侵攻…………た。目標は…………す。統一歴二千…………侵攻…………す。以上、…………た」


何を言っているのか、はっきりとは聞き取れない。しかし、大男の口から白い歯がこぼれていた。


突然、静まり返った部屋ごと震わせるような大声で、大男は笑い始めた。


「六年。六年だ! まった、まったぞ! 待ちわびたぞ! この時を! この俺をまんまと出し抜きやがった魔王斑どもめ! 召喚など関係ない。今度こそ捕まえてやる。捕まえて、この俺をだましたことを、あの世で後悔させてやる!」

男の高笑いが、いつまでもその部屋で響いていた。


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