第7話生き残り
「なかなかやるな……」
うっすらと、一郎の声が聞こえてきた。もう一人誰かと話しているようだ。でも、なんだかはっきりしない。
そもそも、私は今どういう状況なんだっけ……。
頭と背中と左手が痛い。ちょっと左胸も痛い気がする……。
左胸?
あれ?
私は一郎に刺されたんじゃなかったっけ?
でも、左胸にはそれほど痛みはない。
一体どうなっているんだ?さっきよりも明るくなっている。というか、もう昼間のように明るい。
何がどうなっているのかわからない。
考えようにも、相変わらず、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
脱線事故、模試、生存者、一郎、妙な二人組……。落ち着けるように、一個ずつ整理して考える。
家を出て、模試に行くところだった。
列車事故にあった。
生存者は四十八人。
妙な二人組、一人はバスで会っている。
もう一人から殺し合うことを宣言された。
目の前に一郎がいて、いきなり刺された……。
そうだ、一郎!
そう言えば、一郎には文句があった。いきなり刺したこともそうだけど、身に覚えのない恨みに文句を言おう。
起き上がろうと状態を起こしたときに、やけに左胸が重いことに気が付いた。
鉄板神社のお守りか……。
このおかげで助かったのか……。帰ったら、母さんにお礼を言おう。
そう思った時に、一郎と、もう一人の誰かの叫び声がこだましていた。顔を向けると、お互いにガラス片で突きを繰り出していた。リーチは互角っぽい。でも、得物が違っていた。相手のおっさんはなぜかナイフを持っていた。
「一郎!」
このままでは危ない。私は思わず大声で叫んでしまった。
真剣勝負の時に横から声をかけるのはご法度。ただ、立ち合いに集中していると周りの声は聞こえない。だから、私の声は聞こえるはずがなかった。
でも、その瞬間。明らかに一郎は私を見た。驚愕の眼差しを私に向けたまま突きを繰り出した。
それもそうだ……。一郎の中で、私は死んでいるのだから……。
おっさんのナイフが、まるでそこに行くのが当然のように、一郎の右胸に納まっていく。吸い込まれるように、なめらかに根元の方まで……。
「ぐはぁ」
口から一気に血を拭きだしつつも、一郎は反撃をしていた。
ガラス片をおっさんの首筋に当て、一気に引き裂く。鮮血が飛び散り、一郎の顔が自分の血とおっさんの血に染まっていた。
力なく崩れるおっさんを見て、何かを言いながら一郎は仰向けに倒れていた。
「一郎!」
駆け寄ろうと立ち上がった瞬間、それまでよりもさらに明るくなっていた。
いや、もう明るいなんてもんじゃない。真っ白だ。
強すぎる光が何も目に映さないように、私の目の前は真っ白な世界になっていた。
「いったい何なんだよ……」
もうわけがわからない。
その時突然、またどこかに引っ張られる感覚に襲われた。
「だから、いったい何なんだよ……」
さっきの感覚は錯覚だと思えるほど、相変わらず目の前は真っ白な世界が広がっていた。
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