第6話マーキング

いい高校に入りなさい。

そう言われて、中学生活は終わった。今の高校に入り、両親には褒められた。


いい大学に入りなさい。

そう言われ続けて、頑張っている。

でも、その先は?


その先はどういわれるのかな?

次は、いい会社に入りなさいかな?


でも、その先は?

そもそも、いい高校とか、いい大学とか、いい会社とかの前にある、『いい』って一体なんだろう。


誰にとってのものだろう?


少なくとも、今の高校でいい思いなんかしたことは無い。ただ、言われるとおりに頑張って、高校生活もあと残りわずかとなっている。


あと半年で、いい高校の意味って分かるのかな……。


受験を控えた高三の誕生日。

塾帰りの私は、いつものバスに乗っている。十八歳になっても変わらない日常に、漠然とした目的。大人に近づいていると言われてもまるっきりピンとこない。

そんなことを思いながら、外の景色を眺めていた。


外の景色は少しずつ変わりを見せる。

季節ごとに変化も見せる。

バスが動き出すごとに、外の景色は動いていく。


でも、私は動いていない。十八歳になっても、何も変わらない。


私がバスにのせられているから動いているだけ……。

言われる通りに動いている、私……。

この先もそうなのかな……。


なんか、いやだな……。

そう思っても、私をのせたバスは、ただ私を運んでいく。


そして、バスはいくつもの停留所にとまる。

その都度、人の乗り降りで、バスの中も変化する。

だけど、私の家は最終車庫の停留所の近くにあるため、最初から最後まで乗っている。


最後尾の窓側の席。

ここは私の指定席みたいなものだった。


バスの外の風景も中の様子も変わっていく。

動く世界と停滞する自分。

いつもの光景だけど、何となくため息をついていた。


その時、最終車庫の一つ手前の停留所でバスが停まり、乗車口がひらいていた。

普段そこで降りる人はいても、乗る人はいない。


たぶん、ほんのわずかな興味だったと思う。変わらない生活に、ほんの少し変化があったことに興味を覚えたに違いない。


いつもなら、ただ眺めているだけなのに、乗ってくる人を見ていた。

そして、その人も私を見ていた。


「やあ、君で最後だね。期間内にみつけられてよかったよ」

いつの間にか、隣に来てそう話すその人は、風変わりな格好をした人だった。


「なんのこと……」

ほんの瞬きをする間のことだった。その人に、その質問をしたつもりだった。

しかし、バスの中に乗客は私しかいなかった。


「疲れているのか……?」

いつの間にかバスも走っている。いくら両眼をこすったところで、今見ている風景は変わらない。


夢でも見ていたのだろうか?

いつものように、いつもの時間に、バスは最終車庫に到着していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る