都からのお取り寄せ
俺達はアラシが見えなくなるまで手を振り続けた。
「手紙はどうする? 今日終わってからにする?」
アラシの姿が見えなくなって、森がいつもの様子になった頃、ディアナが俺に聞いた。
「んー、いや、先に見ちまおう。街へ行く必要があるかも知れないし。ついでに昼飯にするか。いつも通り、鍛冶場の火はそのままでいい」
「わかった」
ディアナは頷き、それは家族の皆に伝播した。
今日は天気もいいし、ということで昼食はテラスで摂ることにした。テラスのテーブルにはいつもの料理が並んでいて、クルルにルーシー、ハヤテ、マリベルがいただきますを待っている。
「行儀は悪いが、先にいただきますをするか」
「それじゃあ」
俺の言葉で、サーミャが音頭を取る。サーミャが勢いよく手を合わせた。彼女の場合は肉球があるので、派手な音はしないが。
「いただきます!」
『いただきます』
「クルルル」「ワン!」「キューゥ」
それぞれにいただきますをして、食事は始まった。娘達は早速食べ始めているが、俺達はちょっとだけやることがある。
「さてさて、お嬢様方の前ではしたないが、手紙を読むか」
少しだけ空けていたスペースに手紙を広げた。あまり上手ではない字で文章が書かれている。急いだのか、心なしかいつもよりも少し崩れているようだ。
ちなみにディアナやアンネに聞いたところ、王侯貴族と呼ばれる人たちでもこれくらいの字の人は結構いるそうな。
さておき、手紙の内容をまとめると……。
「つまり、肉以外はほぼあるけど、鱗と骨以外は都にあるから、街に持ってくるのに明日までかかる、ってことだな」
そして、手紙をハヤテとアラシで分けたのは単に在庫を確認するのにちょっと時間がかかるから、先にハヤテを帰したそうである。
その割に到着にはさほどタイムラグがなかったのはアラシが頑張ってくれたのだろう。うーん、もっとねぎらってやればよかったか。
「腐らないのか、ハラワタ」
サーミャがそう言ってスープをすくった匙を口に運んだ。その動きに不自然な感じはなくなっている。ディアナとアンネによるこの世界でもトップレベルのマナー講座を受けてるからな。
閑話休題、この〝黒の森〟の獣人たちは鹿や猪などを仕留めた際、内臓はその場に置いておくことが多い。特に心臓は「命を森に返すため」であるそうで、他の内臓はオオカミたちが食べたりするそうだ。
なので腐っていく内臓を見たことはあまりないはずだが、一度も見ていないわけでもないらしい。
「普通は腐りそうだが、ドラゴンだからなぁ。それこそ心臓とかずっとそのままでありそうだ」
俺はそう答えた。魔力が強くて腐りにくい、みたいな話はあってもおかしくない。いや、どちらかといえば、そうあって欲しいという願望のほうが強いのだが。
もし死んでも多少は魔力を循環させているなら、それで解決……してくれるといいのだが、多分デカくて組み込むには厳しいよなあ。
「胃袋とよくわからないのも残ってる、とあるわね」
アンネがそう読み上げる。残っているものの一覧もあるのだが、そこには普通の動物のように食道や胃や腸などの他に、「不明」とだけ書かれたものがぽつんとあって、違和感を放っている。
「うーん、この謎のやつが気になるな」
俺はその「不明」を指差した。他のものも何かしら役に立つかも知れないが、あからさまに怪しいのがこれな気がする。
「明日早速見せてもらいに行くか……」
このところちょっとバタバタしてたし、街へ行って気分転換をするのもありだろう。家族からも特に反対意見は出なかった。
「飯を食べたらハヤテにはもう1回頑張ってもらおう」
もちろん、明日行く旨をカミロに伝えるためである。名前が出たハヤテは、会話の内容が分かっているのか、えっへんと胸を張ると一声高く鳴いて、その自信の程を見せるのだった。
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