明るい家路
都の門ではいつもよりも多い人々を、いつもより多い衛兵さん達が対応していた。
「お触れは昨日出たばっかりなのに、人が増えるのが早いな」
もともと〝遺跡〟が見つかった時点で〝探索者〟が都に来ていたようなのだが、今日は門の外に並んで待つ人々の中に、かなりの数の〝探索者〟らしき人々が混じっている。
ルイ殿下が昨日探索に赴いたことが少し前に広まっていたか、昨日の触れを聞きつけたかだろうが、いずれ耳ざとい人々だ。
アンネが悪い顔で情報を流すのに利用していると言っただけのことはある。
その中に全体的にかなりゆったりした、前の世界で一番近い服装と言えば「シンドバッド」などで見る中東地域の物語の服装が一番近いだろうか、そんな服装の一団を見かけた。
馬車や馬もたくさん連れている。人々も老若男女、身体の線が細い人もかなりなマッチョも子供もいて、まるで小さな村が移動しているところを見ているようでもある。
「ここらで見かけない服の人々がいるな。あれはどこの人だ?」
俺がそう言うと、カミロはちらっとそっちを見た。
「あれは共和国の更にずっと向こうの周縁地域の服だな。俺もまだ取引をしたことはない」
「そんなとこからも来るのか」
「なんでも『最古の隊商の一族』だそうだ。少なくとも彼らはそう名乗ってる」
「遺跡のそばで商売するのかな」
「多分な」
ヘレンが俺の横から隊商を見る。
「あー、あいつらか。アタイが見たのと同じ連中かどうかは分からないけど、護衛が強いぞ」
「戦ったのか?」
「いや、〝仕事〟から戻るとき、賊に襲われてるのを遠くから見つけて助けようかと思ったら、着く頃には終わってた。賊も結構な人数いたのにな」
「へえ。まあ、それくらいでないとあちこち行って商売は無理か。子供もいるみたいだし」
「だなあ」
評するのが護衛の強さなあたりがヘレンらしいが、時折は出会うものであるらしい。
この世界に来てそこそこ経つが、遠いので魔物討伐の――そしてリディの故郷の――森か、帝国くらいであると出会わないくらいの頻度である、ということでもあるが。
忙しそうにしている衛兵さん達に、カミロが通行証(我が家の天下御免の方ではない)を見せながら言った。
「ま、別に彼らを警戒しないといけないとかそんなことはない。普通に商売人だよ」
「商人が言うなら安心だな」
俺の言葉にカミロは小さく笑う。
通行証を確認し、頷いた衛兵さんの横を馬車は人々の海を泳ぐように進んでいった。
街道に出てくると、そこには草原が広がっていた。春の草原はまだ草が伸び切っておらず、緑の絨毯のようになっている。
時折吹く風で揺れて、今度は緑の波のようにうねっている。
何度も見てきた光景だが、だからこそだろう、俺はなんとなく安心感を覚えた。
都の街中よりも見通しがいいぶん、こっちのほうが安心できるという現実的な理由もありそうだが。
「しかし、賊を見かけたことがないな」
「伯爵閣下も頑張ってるし、今は特に〝遺跡〟が見つかってからこっち〝探索者〟が行き来しているからな」
俺はカミロに尋ねる。
「〝探索者〟がいると減るのか?」
「ああ。賊を討伐すると報奨金が貰える。普通なら太刀打ちできなくても、〝探索者〟で腕に覚えがあるなら行き道で出くわしたらそれで稼いでいくやつもいる」
文字通り行き掛けの駄賃というやつである。いささか物騒だが。
「それにだな、賊のうちいくらかは。自分たちも〝遺跡〟で一攫千金を得ようとするからな」
「なるほど、そりゃそうか」
こうして、めっきり賊が減ったらしい街道をすんなりと進んでいき、森の入口に馬車がたどり着いた。
「ありがとう、それじゃあまたな」
「おう、なんかあったらすぐに連絡をよこせよ」
「分かった」
俺とヘレンはカミロに再び礼を言ってから馬車を降り、見えなくなるまで手を振り続けた。
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