友人との食事

「さて、それじゃあ食事だ」


 パンと手を打って、マリウスは言ったが、俺は片眉を上げて尋ねた。


「あれ? カミロは? 呼びにいってるんじゃないのか?」

「ああ、彼は店の方に行ったよ」


 そう言ってマリウスは姿勢を崩す。


「なんでも、やっておきたいことがあるんだとか」

「やっておきたいこと?」


 俺は言ったが、マリウスは大げさに肩をすくめた。彼も何をするのかは聞かされていないらしい。

 ディアナが言うところの「悪ガキ三人衆」同士に秘密ということは……いや、もともと俺たちは互いに話していることは多くなかったか。


 マリウスからして悪戯好きで、黙って何かを進めていたりする。ここはカミロが何か言ってくるまで、俺たちも黙って待つべきだろうな。


 その後、天気なんかの他愛もない話をしていると、やがて食事が運ばれてきた。

 趣向を凝らした、というよりはかなりシンプルな感じだが、素材には良いものを使っていることが窺える。

 コース料理のように一品ずつ出てくるのではなく、普通に料理が居並ぶ感じなので、なかなかに壮観だ。


 味のほうは何回かお呼ばれになった時の経験上、おやっさんのところに敵わないにしても、十分に美味いことが期待できる。

 まだ音は鳴らしていないが、少しずつ中身の少なさの抗議をはじめそうな胃を宥めながら、俺は小さく〝いつも〟の挨拶をして、友人が用意してくれた食事に手をつけはじめた。


「普通ならもっと礼儀正しくいくべきなんだろうけどな」


 最初の一口を口へと運ぶ前に、俺は苦笑しつつそう言った。

 一介の鍛冶屋(今回は傭兵のようなものなので少し職種が違うかもしれないが)が伯爵のところにお呼ばれしているわけである。

 通常であれば、もっと畏れをもって接するべき相手だ。


 それでなくても「短期間に功を立てすぎたので、不公平と言われないように少し抑えていた」くらいの新進気鋭だし、本来は打算としてもへりくだっておくのが得策と言えよう。


「なに、ここには親友とその家族しかいないんだ。作法やしきたりなんかは抜きにしようじゃないか」


 ウインクをしつつマリウスが言った。相変わらずサマになっている。


「それじゃ、お言葉に甘えまして」


 伯爵閣下直々に許可をいただいて、俺はスパイスで味付けされている、鹿のものらしき肉を口に運んだ。

 味付けはスパイスのみで凝ったソースなどはかかっていないが、香りや辛味、塩味のバランスがちょうど良い。肉の風味も決して死んでいない。


 いつだったか、ディアナがとにかくスパイスの味しかしないような料理があったと言っていたっけな。

 そういった料理はそれだけのものを手に入れられる顔の広さと、購入できる財力を誇示するのが意味合いの半分以上らしい。

 そう考えると少し肉が可哀想な気もするな。


 俺はそんなことに付き合わせないでおいてくれた親友に内心感謝しつつ、俺の隣で黙々と次から次へ料理を口に運んでいるヘレンに負けぬよう、次の料理へと取りかかる。


 その様子を見て、マリウスの顔には何かを懐かしむような、そんな笑顔が浮かぶのだった。

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