慣れない服

 抵抗しても無駄だ、ということはこれまでの経験上痛いほど分かっている俺は、使用人さんたちにされるがまま着替えを済ませていた。

 以前までと違っているのは、これまでは会合や祝典へ出席ということで服に華美な装飾が施されていて、色もそこそこに派手さがあった――とはいえエイムール家のものなので、他と比べるとかなり地味なほうらしいが――ことが多かったのに対し、今回は〝遺跡〟の調査ということもあり、装飾はかなり控えめかつデザイン上、動きやすくしてあることだ。


 甲冑の下に着るギャンベゾンそのものではなく、それに近いながら甲冑を脱いでも格好がつく服が用意してある、というのが武名で鳴らした家という感じがあるなあ。


「どうですか?」


 俺が聞くと、主に着せ付けてくれた使用人さんが俺を上から下まで眺めてから頷いて言った。


「よくお似合いだと思いますよ」

「ありがとうございます」


 俺もぎこちなさはあるだろうが、なんとか笑顔をこしらえて返す。一応自分でも見てはいるが、外から見てどうかは見てもらわないとわからないからな。

 似合っていようとそうでなかろうと、王族への不敬に該当しないのであれば、動きやすければそれでいいのは確かなのだが、それでも最低限の身なりというものは気をつけたい。


 前の世界ではスーツさえ着ていればとりあえずは不快に思われない、という生活をずっと続けていたので、こっちに来てからのほうがむしろ身なりに気をつけるタイミングが増えたような気がする。

 実際に着用して活動するのは明日なので、再び元の服に着せ替えてもらう。


 脱ぐところまでやってもらえれば、あとは自分の服だし自分で着られるのだが、何故か俺の手の届くところに服を置いてくれないので、自分の服もテキパキと着せられてしまう。


「うーん、慣れない!」


 俺は伸びをして大きな声で言った。その気はないが、ああいう服もずっと着ていれば、それこそスーツのように慣れていくものだろうか。あれも結局ずっと着ているから慣れただけではあるし。

 クスクスと使用人さんたちが笑っている。


「何回もいらしたら慣れますよ」

「いやぁ、ただの鍛冶屋の親父ですからね。あまり慣れたくはないものです」


 頭をかきかき言うと、再び笑い声が部屋に満ちる。

 俺があの服を着慣れる状況となれば、おそらく侯爵は喜ぶだろうな。そもそも都への移住をすすめてきたくらいだし。

 鍛冶屋として満足しきったなら考えてもいいが、今のところはまだまだやれることはあるし、であれば〝黒の森〟を離れるわけにもいかないのだ。


「それでは、また明日お願いします」

「はい。明日も頑張りますね!」


 俺は苦笑しながら「どうぞお手柔らかに」と小さな声で言って、笑い声の響く部屋をあとにした。


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