余所んちのご飯

 心地よい疲労感と、家族との穏やかな時間。いつもとは少し違ったひとときに俺の意識はゆっくりとほどけていく。


「そういえば、ディアナとヘレン。娘たちと遊んでくれて、ありがとうな」


 ソファに沈みながら、俺は2人に感謝を伝える。ずっと遊んでくれていたおかげで、俺は集中して針金作りに没頭できた。


「いやぁ、アタイも楽しかったよ。久々に何も考えないで身体を動かせたし」


 ヘレンがニカッと笑う。


「すっかり大人になってきたわよね」


 ディアナも目を細めて言った。「ママ」たちの中では最も長い時間を娘たちと過ごしている彼女をして、そう言わせるくらいなのだな。

 ルーシーは大人になってきても、うちから離れる気配がない。いざ離れられると寂しいのは確かなので、特に促したりはしないが、いずれそういう日が来たりするのだろうか。

 ディアナをさておいたとしても、なるべくならその日が遠いいつかだと、俺としては嬉しいのだが。


 そんな会話をしているうちに、夕食の準備ができたのか、番頭さんが部屋に入ってきた。


「皆様、夕食の準備が整いました。どうぞこちらへ」


 案内された先は、先ほどの居間と同じくらいの広さがあり、大きな円卓が中央に鎮座していた。

 その円卓にはすでに美味しそうな料理の数々が並べられている。ここは食堂らしい。

 円卓には本来上も下もないはずなのだが、元日本人としては部屋の出入り口で上座下座を一瞬意識してしまうな。


 それに、友達の家に遊びに行ったら、そこで夕食をいただくことになったときと同じく。僅かばかりの緊張感を覚える。

 これは俺が元日本人だからなのか、他の皆もそうなのかは不明だが。


「おお、豪勢だ」


 並んだ料理を見て、サーミャが目をキラキラさせる。確かに普段の夕飯よりも豪華だ。肉に魚、野菜に果物。

 魚はうちだとあまり大きくない川魚をたまに食べる程度なのだが、どこから仕入れたものか、前の世界でいう「良い形の鯛」くらいの大きさと形の魚が、オリーブオイルらしき油で焼かれているようだ。

 肉は羊のものらしい。これはうちの食卓にはのぼらないものだ。大体は猪か鹿だからな。

 肉にはうちでは使わないようなスパイスがふんだんに使われているらしく、それらの香りが鼻腔をくすぐってくる。


「それじゃあ、いただきます!」


 皆が席に着いたのを確認したリケの合図で、みんなで食事にとりかかる。口に運ぶたびに幸せな気分になる。スパイスの風味もするのだが、思ったほど強いものではなく、素材の味を活かしつつ、絶妙な味付けが施されている。

 さすがと言うべきか、カミロの家には腕の良い料理人がいるらしい。


 一瞬、俺の脳裏にサンドロのおやっさんの姿が思い浮かぶが、まさかおやっさんを呼んではないよな……。ちょっと味付けの方向性が違うように思うし。

 できるなら、あとでちょっと料理人の人に挨拶もしておきたいところだ。あと2日ほど世話になるわけだし。


 ワイワイガヤガヤと楽しい夕食。いつもと違う場所で、いつものように夕食を楽しむ。

 俺は皆と話しつつも、それを用意してくれたカミロに心の中で大きな感謝を送るのだった。



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