延びる
サーミャとアンネが大鎚を振り下ろし、合間に俺も手鎚で少し形を整えたりする。
リケとリディには今のところ待機して貰っていた。筋力的な部分や、叩くべき場所の勘所について考えると、サーミャとアンネ組に勝るとも劣らない実力はある。
俺が鋼の加熱をし、そのたびにサーミャとアンネが大槌を振るう。
それを何度か繰り返して、サーミャとアンネの額にハッキリと汗が滲み始めた頃、
「代わります!」
リケが声をかけた。もちろん、俺と代わるわけではない。
どちらの組もかなりスタミナがあるほうなのだが、それにも限界はある。
サーミャとアンネが作業をした後に交代して貰うことで、連続して作業が可能なはずである。
俺はこの世界に来るときになかなかの体力も貰えているし、直接手を出すタイミングは限られているから、その間もずっと作業はできる。
かなり延びてきた鋼の一部が赤くなっている。鋼は板から棒に形状を変えつつあるが、もっと細くしないと、その先の作業ができない。
ガキンガキンと、派手な音が鍛冶場に響く。いつもの場所ではないが、いつもの音には安心する感じを覚えた。
「よし、これくらいか」
スムーズに作業は進んでいき、鋼の一部がかなり細くなった。ここからは俺の仕事だ。
「みんなはちょっと休んでてくれ」
みんなから了解の声が返ってきた。彼女たちには手伝って欲しいことがまだある。それまでは休んでいてもらいたい。
俺は鋼の細くなった部分を熱する。細いぶん、赤くなるのも早い。十分な熱を得た鋼を素早く取り出し、手にした鎚で連続して叩く。
貰ったチートのおかげで、どこをどのように叩けば良いかは分かる。わずかばかり馴染まない鎚を手にしていても、いつもと同じように作業を進められている。
細い部分の鋼は、針金といっていい形状と細さになる。次のステップに進んでも良いか、かざすように持ち上げてチェックする。
「あれだけで?」
針金の状態を確認していた俺の耳に、ペトラさんの呟きが入ってきた。
「親方ですからねぇ」
しみじみとリケが応える。
「こういうとき、親方は常に最短で作業をするんですよね。きっと鋼の声が聞こえてるんですよ」
「ああ、カレンさんもそんなことを言ってましたね」
リケとペトラさんのそんな会話も聞こえてくるが、俺のはあくまでチートなので、申しわけない、と思うと同時に、目標にして貰えるならそれもありだな、とも思えるようになった。
この世界に対してあまり影響を与えたくはないのだが、この世界の人々が何かを得て、自身で発展させてくれるなら、それを止めようとするのは、それはそれでおこがましいことなのかも、と思うのだ。
でなければペトラさんがここにいることも断っていただろう。
次は何をするのかと注目する2人の視線を受けながら、次の工程を進めるべく、新しい板金を手にとり、俺はそれを火床に突っ込んだ。
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