友人夫妻とワンちゃんと

「分かった分かった。今度カミロに聞いておくよ」


 とうとう折れたマリウスがそう言うと、ジュリーさんは喜色満面の笑みを浮かべた。

 もしエイムール家に走竜が来るなら、クルルに「お友達」が出来るかもしれない。……「彼氏」だったら、父親の俺はどう振る舞うべきかな。

 それはまだかなり気が早いか。俺は小さく頭を振って、妙な未来予想図を頭の中から追い出した。


 俺は肉を一切れ食べてから、ふと思ったことをマリウスに聞いてみる。


「そういえば、狩りや戦に使う犬は飼わないのか?」


 エイムール家で犬を飼っていなかったことは、ディアナが以前に言っていた。だが、武で身を立ててきた家なので、ご先祖の戦にも連れて行けるような犬を飼っていた可能性は高そうだ。

 もしくは貴族としてのお付き合いとして、狩りに出ることもあるだろうし、その時にも犬を連れて行ったりしたかもしれない。

 今のマリウスも新進気鋭の若い貴族だし、エイムール家の武名を考えれば、犬を飼っていてもおかしくないと思うんだが。


「うーん、お爺様も飼っていたという話を聞かないからなぁ」


 マリウスはそう言って首を捻った。料理を呑み込んだディアナが続く。


「そうねぇ。私が聞いてもお父様は笑って誤魔化すだけだったわ」

「飼ってはいけないって家訓があるとか?」


 アンネが混ぜっ返す。これにはマリウスが笑いながら首を横に振る。


「そんな家訓がうちにあるというのは聞いたことがないですね」

「でも、何かないと頑なに飼わないってことにはならなくない?」


 口を尖らせてディアナが言う。マリウスは今度は頷いた。


「家訓には残さなかったけど、口伝で飼わないように言われていた可能性はある」

「ええっ、じゃあ……」


 ジュリーさんが心底悲しそうな顔をした。マリウスはそれを見て微笑む。


「でも僕はそれを聞いていないからね。特に問題がないなら、飼うのに問題はないはずだよ。制限する法があるって聞いたこともないし。こっちはシュルター女史に聞く必要があるだろうけど、彼女に頼めば飼えるような法を探してくれると思う」


 それを聞いたジュリーさんは今度は心底ホッとした顔をする。走竜が無理でも、犬ならなんとかなるだろう。

 飼い始めたら世話はマティスがやるんだろうが、この様子だとジュリーさんもしょっちゅう面倒を見ようとするだろうな。となれば、多分マリウスも様子を見に行くだろう。

 美男美女が豪邸の庭でキャッキャウフフと犬と戯れている様子はさぞかし絵になるだろうな。

 うちの娘達やお嬢さん方も大変に絵になることは間違いないのだが、場所が場所だけに若干の厳つさから逃れ得ないのが難点ではある。


 はしゃいだ様子のジュリーさんが朗らかに言う。


「ええと、それじゃあ、今のうちにディアナと皆さんに聞いておこうかしら」

「何を?」


 マリウスは片眉を上げた。満面の笑みのまま、ジュリーさんが答える。


「勿論、走竜ちゃんと犬ちゃんのお世話よ!」


 これはもうほぼ確定だろうな。俺はこの後苦労するだろうマリウスを、そっと胸の奥で労うのだった。

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