通行証
都へ向かう街道は人も馬車もそこそこの数が通る。馬車は大抵荷物を満載にしていて、人が乗っているにしてもせいぜい2人程度だ。
そこへ荷車を走竜に牽かせ、荷物らしきものを積まず、その代わりに女性が沢山乗っていて、狼に小竜もいるという俺たちの陣容は、さぞかし目立っているだろうなと俺はぼんやりと考えていた。
いつもならもう少し見えるくらい荷物を積んでいるし、その荷物もとくに隠しているわけではないから、どういう一行なのか、ある程度推測も出来るだろうが、今日はその荷物もない。
何かあらぬ疑い――例えば人買いとか――でもかけられたら少し面倒だな。
街の衛兵さんの巡回に当たる分には俺たちのことを知ってくれているから、顔パスで済むが、それ以外の巡回にあたると弁明が必要かも知れない。
「こういうときのために、なんか通行証みたいなの貰っときゃ良かったかな」
空が青く澄み渡る中、俺はボヤいた。そういうものがあれば、面倒ごとに巻き込まれずに済む。
決して本人たちが悪いわけではないのだが、事実を明らかにせずにディアナがここにいる説明も難しいし、アンネはもっと難しい。
そんなときに、説明もなにもせずに通して貰えるなにかはあったほうがいいな。
王国と帝国の秘密和平のときも、マリウスの結婚式のときも、なんだかんだ特例的になんの説明もなく通して貰えたが、いずれもマリウスの力あってのことだ。
「貰うなら悪用しない保証が必要になるけど、そこは大丈夫でしょ?」
ディアナが笑って言ったので、俺は頷く。
もし貰えたとして、仮に街の入り口で順番を無視して通れても、そこで使う気はさらさらない。
「ちゃんと並んで、順番が来たら出すだけでいいと思うけどな。それ以外は面倒になりそうなときに出すだけなら」
「そうね」
ディアナは頷いてから続ける。
「むやみに出すと今度は持っている理由を聞かれるでしょうしね」
「ただの鍛冶屋だからなぁ……」
「エイムール家のお抱えになるという手はあるけど」
「いやぁ……それはちょっと」
通行証を持っている理由としては一番納得されやすいのは確かだ。その場合は都の外に出ているのがおかしいことになるが、そこはなんとか説明できるだろう。
しかし、たとえ親友のところでも「お抱えになる」というのは避けたいところだな。関係性が悪化したときを警戒というよりは、お互いに公的な繋がりはあまりないほうが良いだろうし。
「うふふ、冗談よ。エイゾウはそういうの嫌いそうだもの」
「嫌いっていうか……まぁ、はい……」
そのへんのしがらみがあまり好きでないのも確かなので、俺は素直に頷いておく。
「とりあえず、今回の件が片付くくらいにマリウスに聞いておくか」
「侯爵は?」
俺の言葉をアンネが混ぜっ返した。
「避けたさ加減でいえば、あの人に用意して貰うほうが上だな……」
きっとノリノリでしかもかなり速やかに用意してくれるだろうけど、あの御仁にこそあまり借りを作りたくない。後でどんな無茶振りをされるか分かったもんじゃない。
あんまりにげんなりしていたのか、俺の様子を見た家族から笑い声が響く。
こうして、注目具合を多少上げながら俺たちは都へと進んでいった。
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