森の動物たち

「それじゃ行ってくる」

「行ってらっしゃい」


 出かける準備を整えたサーミャ達を、家の出口から見送る。彼女達は今から狩りに出るのだ。

 メンバーは俺とリケ以外の全員で、クルルにルーシー、ハヤテも同行する。

 ハヤテは少し迷ったのだが、さしあたって連絡すべきことも無いので、同行させて何かあれば手紙をつけるつけないによらず、ここへ帰すように言ってある。

 ハヤテが帰ってきて手紙がなければ、最後に放たれたところへ俺(とリケ)が急行する手筈である。万が一その場に留まっていなくとも、探す範囲は多少絞られるので、全くのノーヒントよりはマシだ。


 最悪の場合はリュイサさんに頼って居場所を教えてもらったりすることも検討するが、それは最後の手段にとっておきたい。

 彼女とは特に敵対はしていないどころか、友好度で言えばかなり上位だが、なにせ人間の想像と力の及ぶ外にいる存在だ。借りをあまり作らない方が得策だろうと考えている。今のところ貸しの方が多いような気がするから、その辺りを盾に取ることはできるだろうけど。

 まぁ、何か危険な目に遭うとしたら、サーミャ達よりも俺達だろうが。何せ戦力差がすごいからな……。

 やはり砦化を考えたほうがいいかな。負傷させるような罠とまでは言わずとも、不意に近づくと侵入者に警告を与えるようなものか、仕掛けで家に警報を発報するようなものがあったほうが良いだろうか。この辺は追々考えるとしよう。


 狩りの最中、ハヤテは普段はクルルの背中に止まっているらしい。クルルは狩った獲物を運ぶときに大活躍をする。基本狩りの道具は各々が持っているので、行き帰りの道中でクルルが持たされるような荷物は存在しない。

 それでだろう、移動中のハヤテのお気に入りプレイスはクルルの背中で、揺られながらのんびりくつろいでいるらしい。人間の年齢になおせば一番年上のはずだが、妹に甘えてはいけないこともないからな。一番身体が大きいのはクルルだし。

 クルルの背中以外ではアンネの肩か頭に止まることが多いと聞いた。背がかなり高いからだろうと思う。この話をしたとき、重くないのかアンネに聞いてみたが「多少の重みはあるけど全然」とのことだったし、本人も少し嬉しそうなので注意することもないと思って何もいってない。


 クルルは素早い動きで勢子としても優秀らしい。その間はハヤテの休憩所としての役目はなしだ。ハヤテも樹上に上がってあれこれ鳴いているそうなので、俺達には分からない「娘たちだけに通じる言葉」で指示をしている……というのがサーミャの推測だ。


 ルーシーもかなり大きくなってきて、狩りでも活躍の場が増えているようだ。魔物化している影響らしいのだがかなり賢く、猟犬ではときに獲物に文字通り「食いつく」ことがあるが、ルーシーはそういったことを全くせずに獲物の動きを封じたら、それ以上のことは言われるまでしないそうである。

 このあたりはディアナが目尻を下げながら力説していた。


 うちのすぐそばにはあまり動物たちが近寄らない。魔力が濃いゆえで、少し間違えばルーシーと同じく魔物化してしまうリスクがあることを自然と理解しているのだろう。

 その代わりなのかどうかは知らないが、多少魔力の少ない温泉の方にはよく動物が来る。正確には湯殿には入れないようにしているので、排水用の池にだが。

 そこには狼や猪、鹿はもちろん、狸に虎もやってくる。小さい方ではリスや小鳥たちも浅いところで水浴びをしているところを見かけるので、今のところ熊以外にこの森でよく見かける動物は一通り見かけることになる。

 前の世界のテレビ番組ではジャングルの中の監視小屋に滞在して、虎だと騒いだ挙げ句が鹿だったとかあるが、ここではそんなこともなく色んな動物が白昼堂々見放題と言うわけだ。

 ちなみにメインは池が溢れたりしていないかのチェックであって、湯に浸かっている動物を見てほっこりすることではない。断じて。

 池にいる動物たちは狩りでは狙わない、というのがうちの家族の暗黙の了解になっていた。やっていることに大差ないと言われても、くつろいでるところを仕留めるのは気が引けるしな。


 そんなわけで、時々こっちを振り返る娘3人の姿が森の木々に覆い隠されるまで、俺とリケは手を振るのだった

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