納品へ
3日――正しくは2日と半日――の間、剣とナイフを作り、カレンはそれを見てとり、1日の作業の終わり頃に実践するということを繰り返した。
リケの見るところでは「わずかながら上達している」そうである。俺が見ても同じ意見だった。まだ判断するには早計だが。
納品の前の日、確定はないが送別会として夕食を少し豪華にした。北方に戻るかも知れないのに北方風もあるまい、と思ってワインやブランデーをメインにしたソースでとっておきの鹿肉やイノシシ肉のソテーにしてある。
サラダ……は無理なので湯がいた野菜と香草をあわせたものや、果物などもテーブルに所狭しと並んでいる。
「場所が場所なんでこれくらいが精一杯だが」
「いえいえ、とんでもない。とっても美味しいです」
カレンは顔の前でブンブンと両手を振った。いただきますと乾杯をした後、サーミャとヘレンは無心に肉を頬張っているし、リケは酒をあおっている。ディアナとリディは比較的穏やかに食べているが、ワインのペースがいつもより少し早い。
途中からは、北方でこういうときにどうするのかを皆がカレンに聞いていた。ゆったりと尻尾を揺らしてカレンが答える。
「そうですねぇ、やることはそんなに変わらないですよ。ごちそうが出て、お酒が出て」
「北方のお酒ですか」
リケが聞いて、カレンが頷いた。前の世界でいうところのどぶろくや清酒はもちろんだが、清酒の酒粕からアルコールを蒸留して作った粕取焼酎のようなものもあるのだ、とカレンが説明している。
焼酎の話になると、リケの目が輝くのはご愛嬌か。もし今後も北方の物が手に入るならカミロに頼んどいてやるか。
ごちそうについても、加熱しない魚肉は刺身のようにそのまま食べることもあるにはあるのだが、基本的には酢〆のようなものが主だそうだ。後は煮付けや少し山の肉を焼いたりしたものが中心らしい。
つまりは時間や手間がかかるか、食材そのものの入手何度が高いものがごちそうとして並ぶ。ここらは前の世界とも大差はないな。
かまぼこみたいなものもあるそうで、カレンはそれが好物だそうだ。彼女がリザードマンだから好きなのか、個人的なものなのかまでは流石に聞けなかったが。
日持ちがするなら食べてみたいところではあるが無理だろうなぁ。こっちで作るか。
ささやかながらもにぎやかな送別会はいつもより少しだけ長く続き、俺達は納品の日を迎えた。
朝の日課を人通り終えたら、荷車を引っ張り出して納品する品を積み込んでいく。
纏めて簀巻きにされた剣と、通り函に収まったナイフ。これがうちの「主力商品」だ。日用品は自由市で売れなかったので作っていない。主力以外には時折、槍を納品しているくらいか。
カミロに聞くところによると「あれはあれで結構売れる」とのことだった。カミロの知人の商人も「自分の護衛に」と買っていくらしいので、今後売れ行きが伸びていくこともあるかも知れない。
久しぶりに街までお出かけということを察してか、娘たち3人ははしゃいでいる。来た当初はもう少し大人しかったハヤテも、このところ少し感情のようなものをあらわすようになった。
今日みたいに走り回るクルルとルーシーのそばを小さく鳴きながら飛んでいる。まぁ、もしかするとお姉ちゃんとして窘めているのかも知れないが。
そうやってはしゃいでいたクルルと荷車を繋いで、全員が乗り込んだら出発だ。ルーシーも荷車に飛び乗るのがさまになってきた。体つきもどことなくガッシリした感じが増したように思う。
それでも可愛らしい我が子だと思ってはいるが、そろそろ「子狼」から「子」をとってもいい頃合いなのかもなぁ……。
いや、猫は1歳くらいでもまだギリギリ子猫と呼べるはずだ。つまり狼も同様と考えれば、あと半年かもう少しくらいは「子狼」と呼んでいいはず。
そんな俺の内心を知ってか知らずか、足に頭を擦り付ける我が子の頭を俺はそっと撫で、クルルと、彼女の頭に止まったハヤテの上げた声で、荷車は一路街へと向かっていった。
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