樋
翌朝、何事もなかったように朝の色々を終わらせた。
カレンの様子も特に変わったところはない。もし潜り込むのが目的だったとして、もしバレていると気づいたとしても、
「フハハハハ! そうだ! 私はここに潜り込むのが目的だったのさ!」
「な、何ィ!?」
とはならないだろうしなあ。どちらにせよ、あと1週間かそこらだ。その後にカレンの去就が決まる。その時にどういう判断をすればいいか、俺はしっかり考えておかないとな。
それを一旦頭から追い出す。今日からは樋を作って源泉から湯を引っ張ってくる作業だ。家の外に並べた道具を手に手に、クルルとルーシー、それにハヤテを含めた俺たち家族は、温泉の方へと向かっていった。
こんこんと湧き出している温泉。そっと皆で排水池を確認しに行くと、今日も森の温泉は千客万来で、肩に連続した衝撃を感じたりした。
「ここで工事するのは、なんかちょっと憚られるな」
「驚かせちゃうものねぇ」
俺が言うと、肩に衝撃を与えていたディアナがおとがいに手を当てて言う。
一時的にいなくなるだけでいずれ戻ってくるものとは思うが、驚かせてしまうのも本意ではない。
幸い源泉から排水池までは距離があるし、湯殿からの排水側はそこの溝に接続すればいいようには思う。
それでどうだろうと家族に提案してみると、問題ないのではないかということだったので、それで進めることにした。排水側は後からでも多少の融通がきくので、難しければ改修することにしよう。
「それじゃ、分かれて進めていこう」
『おー』
こうして、湯殿の最終工程が始まった。
作業は樋を作る組、それを支える支柱を立てていく組、湯殿の排水桝(のようなもの)から、排水溝を掘っていく組に分かれる。
樋を作る組は俺とリケ。排水溝を掘る組がヘレンとディアナ。クルルを含めた他の皆が支柱を立てていく組だ。
アンネを排水溝ではなく支柱に回したのは背の高さもあるが、カレンについて何か掴めそうなら、ということだ。
俺とリケは材木の丸太から板を切り出していく。それなりにやってきた作業なので、丸太はあっという間に長い板に姿を変えていった。
木の板は凹字型に組み合わせて樋にしていく。多少の水漏れは仕方ないとしても、なるべくそれが少なくなるように、基本的にはかみ合わせで組み立てる。
その時、水を含むと少し膨らむので、その分も計算に入れる必要がある。組み立て段階であんまりギチギチで組んでしまうと膨張したときに不具合が出かねない。
かと言って緩すぎると水がダダ漏れになるわけで、ちょうど良いところでやっていく必要がある……が、俺はチートで、リケは経験でそこを補って、手早く組み上げていく。
樋は源泉から水をひく最初のところに、小さな板で湯殿へ行かないように分岐したものが1つ必要になるのでそれも作っておく。掃除やなんかのときはこれで水を止めてからするわけだ。
作業の合間に支柱の方を見ると、なかなかの速度で進んでいた。湯殿はここから少し離れている(源泉に寄せすぎると家からは遠くなりすぎるため)ので、枝葉の無い木が規則正しく生えているようにも見える。
幅についてはこちらで樋の底と同じ幅の木切れを渡してあるので、それに合わせてもらっている。
いずれここに組み上げた樋が乗り、湯殿まで湯を運んでいってくれるわけだ。
そして、その湯は浴槽に溜まり、今排水池で森の動物たちがそうしているように、俺たちを癒やしてくれるものになる。
俺はそんな光景を並ぶ支柱の先に見ながら、樋を作る作業に戻った。
=====================================
本日、日森よしの先生描き下ろしのコミカライズ版10.5話が公開になっております。
こちらもどうぞお楽しみください。
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19201711010000_68/
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます