切り株
木を伐ったとして、大事なことがある。それは「切り株の始末」だ。いつもなら、木を伐った後はそのまま放置している。
サーミャ曰く、
「根っこが生きてりゃ、また伸びてくるのもある」
らしいので、森林環境の保全的な意味でもそのままにしているのだ。それもあってリュイサさんが「好きに伐っていい」と言っているんだろうけどな。
次に同じところまで育つにはかなりの時間がかかるだろうが、それでも死ななければ次があるのだ。
だがしかし、である。今回は渡り廊下を通す。となれば切り株があっては当然ながら邪魔になるのだ。
「よし、行くぞー」
「おう! よい……せ……っとぉ!」
「クルルルルルルル」
俺が声をかけ、ヘレンとクルルと一緒に切り株に結びつけた縄を引っ張る。
俺とヘレンの筋力が他の家族より優れているほうだと言っても、どうしても重機のようなものの手助けが必要になるので、しばらくクルルの手も借りることにしたのだ。
あっちの効率が多少落ちることにはなるが、向こうも力自慢の家族はたくさんいる。
……というか、リディとカレン以外は大体力が強いからな。太い柱を立てたり、梁をかけたりといった作業は終えていて、あとは板くらいなものなので、効率が落ちると言ってもさほどではない、という俺とディアナとの判断である。
一応、そっちの進捗がヤバくなったら教えてくれとは言ってある。
切り株は周囲を含めて軽く掘りだし、太い根っこも切ってあるが、それでも巨体を支えていた根は
長らく抵抗を続けていた切り株ではあったが、それでもいつまでも抵抗できるものではない。やがて、ズズッ、ズズッと地面から引き剥がされていく。
そして、なかなか派手な音を立てて横向きに倒れた。根っこの太さや長さが、この木のこれまでを物語っていた。その後にはポッカリと大穴が空いている。
「すまんな」
思わず俺は手を合わせた。実際に神様や“大地の竜”、それに樹木精霊に妖精族なんてものがいるこの世界ではあるが、この木にもこの木の歴史があったのだろう。それを思うと、なんとなくだがそうしたくなったのだ。
それを見てなのか、ヘレンも手を合わせ、クルルも目を閉じて頭を下げる。俺がよしよし、とクルルの頭を撫でると、クルルは嬉しそうに「クルルルル」と小さく鳴いた。
空いた穴には浴槽を埋めるために掘り出した土をあてた。温泉掘りの時に出た土も使えるので、多分埋めきれるはずだ。
穴を埋めたら次に取り掛かる。またも3人の全力だ。
「ふぬぐぐぐぐぐぐぐ」
「うぉりゃああああああああ!」
「クルルルルルル!」
力を合わせて、力いっぱい縄を引っ張る。ミチミチ、と縄が音を立て、切り株を引き起こしていく。そうやって2つ終えた頃には作業を終えるのにいい時間になっていた。
いや、いい時間でなくても切り上げただろう。なぜなら、
「さすがに……限界だ」
「そうだな……」
「クルルゥ……」
3人とも疲労困憊だったからだ。いや、クルルは俺たちに付き合ってるだけにも見える。普段重い荷物を運んでも平気だし。でもまぁ、マラソン的な力と短距離的な力では力の出しかたが違ってくるだろうし、その影響も多少はあるだろうな。
「よーし、帰るか……」
俺はそう言って、皆にも作業の終了を伝える。皆から返ってくる了解の声を聞きながら、明日は筋肉痛で動けない、とかなってないと良いんだがと思いながら、腰をトントンと叩くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます