腕試し

「じゃあ、まずはナイフを作っているところから見てもらおうかな」

「はい!」


 俺が言うと、カレンは勢いよく返事をした。気合が入っていて良いことである……のだが、「いきなり親方が出張るのは流石にちょっと」ということで、俺が見せるのではなく、まずはリケが作って見せることになった。

 別に俺が作ってもいいと思うのだが、見て覚えろしかできない俺があんまり偉そうなのも忸怩たるところがあるので、素直にリケの言葉に従ったのだ。


 板金を熱し、金床で叩いて形を作り、焼入れをして研ぐ。その一連の作業をリケはスムーズに、手早くこなしていく。以前より早く、そして丁寧になっている。魔力を込めるのもだいぶ上達しているようだ。以前とは量が違ってきている。

 あれならいつでもどこでも、それこそ帝国帝室のお抱え鍛冶師にだってなれるんじゃないだろうか。

 その作業の途中、あっという間に形を作っていくリケを見て、カレンが言った。


「“弟子”でこのレベルなんですか」

「まぁね」


 俺は肩を竦めた。カレンは再びリケの作業に集中する。時々手を動かしているのは、作業のコツをつかもうとしているのだろう。

 そうこうしている間に仕上がったナイフをリケは俺に見せる。


「親方、どうでしょう?」


 俺は受け取ってじっくりと眺める。チートで確認をしても俺の「高級モデル」と遜色ない。実際混ぜても全然分からないんじゃなかろうか。


「いい出来だな。どこでも通用すると思うぞ」

「いえ、そんな。親方に比べればまだまだで……」

「レベルが違いすぎるのよエイゾウは」


 俺とリケの会話に、アンネが割って入る。俺はリケの作ったナイフをカレンに渡した。


「正直、今でもエイゾウの代わりに帝国に連れて帰ったらお父様が喜ぶと思うけどね」


 じゃあ、帝国のお抱え鍛冶師になれそうだという俺の見立ても合ってるのか。本人に聞いたところで断られそうな気がするが。


「ま、本人に一切その気がないんじゃ、どうしようもないわね。私は人質だし」


 そう言ってウインクをするアンネ。リケもそれを見てニヤリと笑った。俺はリケのナイフをじっと見ていたカレンに声をかける。


「さて、それじゃカレンの番だな。とりあえず思ったようにやってみてくれ」

「は、はい! それでは……」


 一瞬驚いたらしいカレンは言って俺にナイフを返すなり、自分の顔を両手で張って、ヤットコで板金を掴んで火床に突っ込んだ。魔法で自動的に風が送られ、炭がゴウゴウと燃え盛る火床で板金はその赤みを増していく。

 ベストより少しズレた温度で、カレンはそれを火床から取り出すと、金床に置いてから、鎚で叩いていく。当然のことながら、魔力についてはなんのサポートもされていない。鋼が鋼のまま形を変えていくのを見るのは久しぶりだな……。

 僅かばかり低い温度だが、結構スムーズに形を整えていくカレン。


「筋はいいな」

「そうですね」


 俺とリケは小声でそう言って頷きあう。習得しなければいけないことは多いかも知れないが、思ったより早くここから発てるんじゃなかろうか。

 作業の速度もモタモタしている感じではない。焼入れの温度も少しズレているが、普通に使う分には支障ない範囲の話だ。


 そうして出来上がったナイフを、カレンはおずおずと差し出した。


「ど、どうでしょう……」


 差し出されたナイフを俺が受け取り、眺めた。組織のムラのようなものが結構残っていたり、魔力がほとんどこもっていないなど問題がないわけではないが、出来としては十分だろう。言葉を選ばずに言えば、そこらの鍛冶屋と比較して決して劣るようなものではない。

 それでもカレンの父親のお眼鏡には敵わなかった……と言うよりは認めたくなかったのかも知れないが、どちらにせよこの状態でダメだとなったら、そんじょそこらの鍛冶屋以上になるしかない。


「ものとしては悪くないと思う。まぁ、まだやることはたくさんあるだろうが……」

「はい……リケさんのを見て痛感しました……」


 肩を落とすカレン。その肩を俺は軽く叩く。すると、リケがいたずらっぽい笑みを浮かべながら言った。


「それじゃあ、もうちょっと痛感してもらいましょうか」


 俺はため息をつくと、ヤットコをひっつかんだ。さてさて、一番弟子の期待に応えるとしますかね。


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