累計合計1億PV&書籍4巻発売記念特別編

都の家族

今回はカクヨム様と小説家になろう様の累計PV合計1億突破と、4巻発売記念の特別編となっております。

この内容は本編には影響しませんが、有り得たIFの1つかも知れません。


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「よいしょ」


 俺は腕に抱えていたものを下ろした。いや、「もの」と言っては彼女たちに失礼か。

 なにせ愛娘2人なのだ。


「よいしょー」

「よいしょおー」


 緑の髪と、灰色の髪をした2人は床に降り立つと、そう言ってキャッキャとはしゃいだ。


「先に手を洗うんだぞ」

「「はぁい」」


 2人はパタパタと台所の方へ走り去っていく。

 ここは都にある俺の工房だ。伯爵の庇護を受けた俺はここで「良い腕」の腕前の鍛冶屋として暮らしている。

 なにせこの都には魔力が無い。その状況では俺の腕も十全には振るえない。

 しかし、「それでも良いから来てくれ」と言われ、“ママ達”にも「娘達には一度都での暮らしを体験させておいた方が良い」と説得されては、俺も頷くよりなかった。

 魔力が無いと言ってもチートは変わらず使えるようで、そのおかげで「王室お抱えと同じかそれ以上」と言われる程度の腕前は保てており、娘2人を含めた家族を養う程度のことは出来ていた。


「もう都で暮らし始めて2年くらいになるのか」


 夕食をつつきながら、俺は呟いた。確か……あれ、何が片付いた時だっけ? 何か大きなことが片付いて……それでマリウスに頼まれて都に越してきたはずなのだが、その大元になった出来事が思い出せない。

 そんな大事なことなら忘れるはずもないのだが、寄る年波には勝てないと言うことだろうか。いや、でも……。

 そんな違和感は、サーミャの言葉でかき消えてしまう。


「そんなになるかぁ」

「こちらの生活にも慣れてきましたね」


 サーミャの言葉はリディが引き取った。あれ? 確かリディは……。


「私は元々こっちだったから、違和感なかったけど」

「私も似たようなものね」


 ディアナとアンネが言って、それで新たに覚えた違和感はかき消える。


「アタイはまだちょっと落ち着かないなぁ」


 小さく口を尖らせたのはヘレンだ。ずっと根無し草の生活だったからだろう。当たり前だが“黒の森”の中と違ってここいらは人も多いし。うんうん頷いているから、サーミャも感覚的には同じ思いなのだろう。


「私はどっちでもないですねぇ。山とは言っても、そう人里離れたところでもなかったですし」


 そう言ったのはリケだ。うちの元の工房が“黒の森”にあるのが異様なだけで、本来人里離れすぎたところに工房を構えるものはあまりいない。

 前の世界では地域や時代によっては賤業であったが、この世界の今は違っている。住居にほど近い場所に工房を構えても問題になることは少ない(騒音などで小言を言われる可能性はあるだろうが)のだ。

 町住まい、とまでは言わずともほど近いところに住んでいたのなら、都暮らしにもあまり違和感はないだろう。


 ちなみに“黒の森”にある元の工房はそのまま残してある。いざというときにはあそこで妖精族の治療を行うこともあるし、いずれ都からあそこへ戻るからだ。

 家の手入れは治療代と言うことで、たまにジゼルさんたちが溜まったホコリなんかを払ってくれている。

 この2年で1度だけ妖精族の治療が必要になったので戻ったが、そのときもかなり綺麗だったので、思ったよりこまめに綺麗にしてくれているのかも知れない。


「今日はパパとどこ行ってたの?」

「きょうはねー、はくしゃくおじさんのところとー」

「いちば!」


 ディアナが2人の愛娘に聞くと、2人は元気よく答えた。

 マリウスも彼女たちにかかれば「おじさん」か。まだそんなに歳はいってないはずなのだが。

 ディアナもそう思ったのか、クスクス笑っている。


「楽しかったか?」


 優しい声音で、ヘレンが聞いた。暮らしにはなかなか慣れないようだが、都に来てからというもの、母親のような雰囲気が増してきた。

 ヘレンの問いには、緑の髪の少女が答える。


「ううん。なんか、パパと2人で難しいお話してたの。あ、でもおばさんはお菓子くれたよ」

「お礼は言ったか?」

「うん! ちゃんと2人で言ったよ!」

「そうか、偉いぞ」


 ヘレンが緑の髪をグシャリと撫でると、娘は「きゃー」と言って喜んだ。


「市場では何を見たんですか?」


 リディがふんわりと微笑みながら、灰色の髪の少女に尋ねる。


「うんとねー、キラキラした石とか、パパが作ってるみたいなナイフとか、いっぱい! あと、しょくどうに行ったら、サンドロとボリスとマーティンのおじちゃんも色々くれた!」

「色々なところを回ってきたんですね」

「うん! 楽しかった!」


 リディは優しく灰色の髪を撫でる。「うふふ」と灰色の髪の少女は笑った。

 サーミャとリケも、今日何をして遊んだのかとか、今度はどこへ行きたいか聞いたりしていた。


 夕食を食べ終わって、口元を拭き終わると、2人はもうすっかりおねむのようで、コックリコックリと船を漕いでいる。アンネが「仕方ないわねぇ」と呆れたように、しかし、嬉しそうな声色を隠せないまま、緑の少女を抱える。灰色の髪の少女はヘレンだ。

 2人をベッドに運んでいくのを見て、俺は「こういうのも悪くないのかもな」などと考えた。


 いや、おかしいな。もう2年はこの暮らしを続けているはずで……。そうであればこれはこれで“いつも”であるはずなのだ。

 その違和感が膨れ上がったところで、俺は意識は暗転する。これで元に戻れる、そんな妙な安心感とともに。


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4巻は5月8日発売予定となっております。緊急事態宣言発令中でもあり、該当地域の方々には是非書店へとは言いにくいのですが、各種通販サイトなどご利用いただければと思います。

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