森の姉妹
「なんだか催促してしまったようですみません」
ジゼルさんはそう言って頭を下げた。今は夕食で、ジゼルさんにも同じものを出したところだ。俺は顔の前で手を振る。
「いえいえ、ジゼルさんくらいだと何の負担でもないですよ」
実際のところ、ジゼルさん達妖精族の人たちは全くと言って良いほど物を食べない。それはクルルと同じく身体の維持をほとんど魔力で行っているからだ。
それに彼女たち妖精族は肉はあまり好きではないそうだ。そんなわけでスプーン1杯かもう少しくらいのスープのみを用意することになるのだが、それが負担になるかと言えば全くならないに決まっているのである。
ジゼルさんの前にはうちで一番小さいカップにちょろっとだけスープが入ったものが置かれている。小さいと言っても、ジゼルさんの体の大きさからすると、ポリバケツみたいな感じに見える。
「そろそろ、皆さん向けの食器や家具も用意しないといけないですね」
うちには巨人族や妖精族など、人間族かそれに近い大きさではない種族向けの食器や家具は存在しない。いつか用意せねばと思ってはいるものの、必須のものでもないので結局用意せずじまいである。妖精族向けのものは、ジゼルさんが温泉の場所を伝えに来るのは分かっていたのだから渡り廊下より先にしても良かったな。
巨人族向けは今のところ使うとしたらアンネの母親(つまりは皇妃なのだが)くらいなので、全く急がなくても問題はない……はずだ。皇妃様にホイホイ来られても困るし。
とは言え、いつまでも作らないと普通の巨人族のお客さんが来た時に困るだろうから、渡り廊下を作ったあと温泉に取り掛かる前に両方ちゃちゃっと作っておくか……。
ジゼルさんは目をまんまるに開いた。お人形さんのような顔なので、実に可愛らしい。ディアナとアンネがホクホクしている。
「いえ、そんな!」
「私達にとっても手先の練習になるんで、丁度いいんですよ。滞在していただくこともあるでしょうし」
多分、家族の皆は「病気の治療」の話だと思っているだろう。しかし、俺の場合は「前の世界の知識を妖精族に教えてほしい」という“大地の竜”の頼み事も含んでの話である。あんまり長く居続けるのは不審があろうが、たびたび短期間の滞在があることは同じ森暮らしのよしみということで、あんまり疑われまい。その滞在中にスキを見て伝えていくのだ。
「うーん……私が持ってくるという方法もありますが……」
「うちは鍛冶屋ですからね。カップは木を削って作るとして、スプーンやフォークなんかは任せてください」
「ナイフの出来からしてもそうですよねぇ……。じゃあ、お願いします」
「ええ」
先の都合が無かったとしても、友人夫妻の無事という十分過ぎる報酬を前払いで貰っているのだ。逆にこれくらいはしておかないと収まりが悪いように思うので、やらせてもらえるようで良かった。
「へぇ、やっぱりエルフとは違うんですねぇ」
夕食を食べながら、そう言ったのはアンネだった。エルフと妖精族はやはり違うのか? と興味を示したのが彼女だった。ちなみに隠すことでもないとリディ自身が言っているので、エルフも身体の維持に魔力が必要であり、そのために町なんかではめったに見かけないのだということはアンネにも伝えてある。「なるほど父様が后に迎えられないわけだ」が聞いたときの第一声だったが。
「私たち妖精族は魔力のほうに近い存在です。それが人間族みたいな存在に寄った感じですね」
「ジゼルさんの言葉を借りれば、私のようなエルフは人間族のような存在が魔力に少し寄ったもの、になりますね」
身体の大きさこそ違えど、姉妹であるかのように似た部分がある2人は微笑んだ。心なしか微笑み顔がそっくりに見える。なるほど、アンネが気になるわけだ。
「魔力が必要な量が違うのはそのあたりなんですねぇ」
『そうですね』
うんうんと首を縦に振りながら言うアンネに、やはり2人は揃って返す。本当に姉妹のようだな、と思いながら俺はスープを一口すすった。
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