掘り進める

 ざくりと硬い土に鋼が食い込む感触が、柄を通じて俺の手に伝わってきた。これが最初の作業ということになる。

 水が出てきたところで掘るのをやめるつもりだが、深ければ10mほどにはなるはずだ。まだまだ先は長い。

 俺が最初にスコップを入れるのを待っていたのか、1すくいの土を脇によけた途端にルーシーが駆け寄ってきて地面を掘り掘りしはじめた。地面の硬さもあって大して掘れてはいないのだが、なに、子供が手伝ってくれるのは気持ちだからな。


「俺たちに近づくと危ないから、ちょっと離れたところを頼むな」

「わん!!」


 俺が言うとルーシーは一声上げて、言われたとおりにちょっと離れたところを掘り掘りする。クルルはルーシーが掘った土を足で器用に脇へよけていた。すっかりお姉ちゃんが板についてきたな。

 それを見て家族皆がほっこりした気分になる。それなりに急ぎはするが、今すぐ無いと困るものでもないし、ましてや仕事でもない。先を考えてげんなりするよりは、こうやってほっこりした気分で作業を進められるなら、そっちのほうが良いに決まっているのだ。


「よーし、それじゃあこの辺を広く掘っていこう。出た土はそうだな……あの辺にまとめておこう。あとである程度は埋め戻すから、近いところがいい」


 人数が少なかったり作業に使える場所が狭いなら、崩落の危険も考えつつ、できるだけ狭い範囲で掘るのが良いのだとは思うが、今回は人数もいるし作業に使える場所もそれなりに確保できるので、広めに掘り下げていく予定だ。

 万一を考えて掘り下げる箇所は一辺が斜面になるようにする。こうすれば崩落したときの安全マージンを取りながら、換気の問題も解決できる……はずである。狭い範囲で掘った場合の問題は換気で、想像より浅い段階でも換気されずに窒息してしまう。これなら換気できるだろうとの目論見だが、作業中に苦しくなった場合はすぐにリディが“送風”の魔法を使うことになっている。

 そう、彼女も“着火”と“送風”の魔法が使えるのだ。普段俺が使っているのは「親方が俺だから」というそれだけである。別にロックがかかっているものでもないからなぁ。

 掘り出した土砂の運び出しも、カゴか何かに縄をくくりつけて引き上げてもらうことも考えたが、直接出入りができるしこちらのほうが面倒が少なそうだ。

 作業の内容が決まれば後は進めていくだけである。途中で何らかのハプニングが起こることはあるだろうが、その時に解決方法を考えればいい。俺は再びスコップの先を地面に食い込ませた。


 掘り始めてしばらく。土は硬いが“特製”のスコップのおかげか、思ったよりも作業が進んでいる。今は田んぼを作るにはまだ浅いが、水が溜まればそれなりの量になりそうなくらいだ。

 掘削班以外のみんなが集めてくれた土も結構な量になっている。ちょっとした小山のようだ。頑張っていたルーシーも結構掘ったところで飽きたらしく、今はクルルと一緒にあたりを走り回っている。

 あれは多分皆が見えるところにいるから嬉しいのもあるんだろうな。鍛冶場をクルルも入れるようにして、自由に出入りさせるか? いや、あそこは火を扱うからダメだな。

 空を見た俺は太陽が中天にさしかかろうとしているのに気がついた。もうそんな時間か。


「そろそろ昼飯にするか。準備するから皆手を洗ったりしといてくれ」


 俺がスコップを地面に突き刺してそう言うと、皆から声が返ってくる。今日は天気もいいし、クルルやルーシーも機嫌がいいのでテラスで食べることにしよう。

 昼からも作業をすることを考えたら、少しスープの具材を増やしたほうがいいかな、そんなことを考えつつ、落ちる汗を拭いながら俺は家に戻った。

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