あまり踊らない会議
「確認ですが、皇女殿下への襲撃は王国の男爵と、帝国の伯爵が結託したと言うことで間違いないですね?」
「王国側ではその認識だ」
「帝国側もです」
マリウスの言葉に、王国側は侯爵が、帝国側は皇帝の隣に座っている細面の男が発言した。こういう場にいる以上、高い身分の人なんだろうな。単に俺とカミロの身分が本来同席するには低すぎるだけではあるが。
「それでは、こちらを」
マリウスが合図をすると、扉が開いて使用人が入ってきた。手には槍を2本持っている。皇帝側から強い殺気を感じた。細面の男ではない。皇帝を挟んでその反対側に座っている女からだ。おそらくは護衛だろう。ここまでの情報を総合すると、大勢いるであろうアンネの「お母様」の1人か、あるいはその候補かも知れんが。
その殺気を気にした風もなく使用人は槍を卓に置いて出ていった。なかなかの胆力だな。フレデリカ嬢なら気絶までありえるレベルの殺気を受け流せる使用人か……。
使用人が出ていった瞬間に殺気が消える。カミロがこっそりとため息をつくのが聞こえた。
皇帝が顎で槍を指すと、隣に座っていた女が1本を手にとった。そのまま、ためつすがめつしている。まさかこちらに向けることはないと思うが、万が一の場合は隣りに座っているマリウスを蹴飛ばせるようにこっそりと腰の位置を変えた。
すると、女はこっちをチラッと見た。バレたか。これくらいなら、いくらでもしらばっくれることは可能だ。しかし、面倒の種にはなりかねない。
俺は内心ヒヤヒヤしていたが、女は軽く鼻を鳴らすと、槍の品定めに戻った。
「確かに」
やがて女は低い声で静かにそう言って、槍を2本まとめて自分の後ろに置く。取引完了、と言うことだろうか。
「事後はお好きにしていただいて結構です」
「わかった」
マリウスの言葉に皇帝は頷いた。それを見て細面が口を開いた。
「さて、これで計画に必要なものは揃いましたね」
「私はこんなに念を入れなくていいと思うけどね。どさくさに紛れて人を2人始末するくらいで、いくら出来が良いと言ってもわざわざ出向いてまで受け取るようなもんかねぇ」
細面に女がちゃちゃを入れる。ここまでずっと涼しい顔をしていた細面の顔が歪んだ。計画のキモは俺やカミロには言わないつもりだったんだろう。それはマリウスや侯爵も同じだったに違いない。
それを裏付けるかのように、侯爵が大きなため息をついた。
「まぁ、そう言うことだ。ワシが得ることになった土地があるだろう? そこに帝国の伯爵が奪還のために出撃する。その情報を間諜から得た我々は男爵を差し向ける。どちらにも国から兵を出す」
「で、どさくさ?」
侯爵は大きく頷いた。
「連中もバカじゃない。私兵は連れて行くだろうし、良い防具を身に着けていくだろう。そこで鋼も貫くお前の槍の出番と言うわけだ」
「なるほど」
俺の武器の質はこの場にいる人間は知っているということだ。マリウスと侯爵は目にしているし、皇帝もヘレンの武器を知ってアンネをうちに寄越したのだ、知らないはずがない。
で、そんなことしなくても普通の槍で仕留められるだろ? と言うのが女の主張らしい。それはそれで理解は出来るな。
しかし、これだけなら俺をわざわざこの場に同席させる意味が分からない。少なくとも立場上は一介の鍛冶屋でしかないのだ、締め出しておいて話が終わったら金貨を寄越してハイさよならでいいんじゃないのか。
それに皇帝がわざわざ出向いてくるような用事でもない。実際に話を進めているのは細面と女だし、この2人が来るだけで良かったはずだ。少なくとも今日1日は皇帝が不在という事になる。
そんな空隙を作ってまでやってくるほどの話があるんだろうか。
俺がぐるぐると思考を巡らせていると、何でもないことであるかのように、皇帝が隣に座るアンネに言った。
「あ、そうそう、アンネマリー。お前は王国に残れ」
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