四方詰め
早速、リケの提案をいれての作り直しにかかる。魔族のニルダの刀を鍛ったときには「甲伏せ」と言う、柔らかい心鉄をU字にした硬い皮鉄に挟み込むような方法を取った。
今回は笹の葉形の穂なので、「四方詰め」と言う、柔らかい心鉄の周り四方に硬い皮鉄を貼り付けるような手法を取る。
本来、鋼の硬軟は炭素の含有量や分子構造など、色々なものに影響されるのだが、俺がやると魔力を帯びて「とにかく硬い」ものが出来上がってしまう。
「折れず、曲がらず」は達成できるのは確かだが、それもなんと言うかつまらない。なので、魔力の込め具合で硬軟を変えることにする。皮鉄になる部分はとんでもなく硬くなるはずなので、ほとんど気分の問題ではあるだろうが。
さっきまで形を作ろうとしていたものを再度加熱し、ただの板になるように整えていく。こいつは一度魔力をこめてしまったから、更に魔力を入れて皮鉄にするのだ。
同じように、もう2枚ほど魔力をこめた最上級のものを用意する。うち1枚は縦半分に割るのだ。これで四方を囲む板はできた。
次に作るのは心鉄になる四角柱である。こちらは柔らかいままでいいので、適当な温度まで熱したら手早く叩いて形を整えるだけで済んだ。
「あとはこれを組み合わせるだけだが……」
既に日は傾きかけていて、いち早く今日の仕事を終えた板金製作組は稽古(とクルルやルーシーをかまってやる)のために外に出ている。リズミカルに木剣同士がぶつかり合う音や、クルルとルーシーがはしゃぐ声が鍛冶場の中まで聞こえていた。
「固めるところまではやっちまうか」
「良いんですか?」
この場に残っているのは俺とリケだけである。
「この調子なら明日に回しても間に合うだろうけどな。ここで止めてしまうのもキリが悪い」
「ですね」
前の世界でもこんな調子で「サービス残業」をしてしまっていた記憶がうすぼんやりと思い起こされる。好きな仕事だからってあまり良くはないと思うが、明日ここから続きというのもな。
というわけで、俺は皮鉄と心鉄を一緒に火床に入れて熱しはじめた。ゴウゴウと風が炎に力を与える音がする。炉の方は火を落としておいたから、一層その音が大きく聞こえた。
この工程では折り返し鍛錬のときのような接合剤は使えない。皮鉄と心鉄の間に残ってしまうからだ。そんなわけで、同じ温度になったところで取り出して叩いて接ぐ、という工程になる。
「よっ」
赤熱した鋼を金床に移した。この工程では本来はある程度、接目のようなものがどうしても出来るらしいのだが、そこはそれ、貰った能力が十全に発揮されれば、そんなものも出来ずに接ぐことができる。……こう言うのが後世に残ると「オーパーツ」と言われたりするんだろうなぁ。1000年後のこの世界の人々の解釈が気になるが、当然俺がそれを聞くことはない。
少しさびしいような、ワクワクするようなそんな気持ちで、俺は鎚に力を込める。
リズミカルに鎚を動かし、加熱し、再び金床で叩く。その工程を繰り返して、やがて1本のやや平べったい鋼の角棒が出来上がった。
「よし、こんなものか」
「相変わらず親方の仕事は早いですね」
「まぁ、どこを叩けばいいかはなんとなく分かるからな……」
本当の話である。”なんとなく”わかるのだ。逆に言えばなんとなく以上にはわからないということだが。
しかし、リケにとってはそれこそが目標であるらしく、
「私も早く親方の足元にはたどり着かないとですね」
と奮起しているのだった。
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