試作の完成

「よーし、始めるか」


 朝の諸々を終えて、炉と火床に火を入れた俺は、顔を張って気合を入れた。まだ4面に硬い板金の張り付いた棒でしかないものを今日は槍の穂に仕上げる必要がある。

 今日明日で4本、石突と柄を考えれば今日中に3つは穂先を作りたいものである。


 火床に昨日固めただけの鉄の棒を入れて熱していく。周りに貼り付けたぶんも含めるとその分加熱に時間がかかる。外側だけ柔らかくなっても、内側は硬いままだと流石に俺でも加工が出来ないからな……。

 中まで熱が行き渡ったところで形を整えていく。穂先になる部分は形を整える前には硬い鋼で覆われていない。ここは形を整えていくことで、他の4面の硬い鋼が延びてちょうど埋まるようになる。当然その分も含めての4面には少し厚みをつけてある。

 何度か加熱と加工を繰り返す。加工するときは勿論全力で、周囲の魔力をふんだんに織り込んでいく。きちんと穂の周囲は薄く、中央へ向かうに従って厚く、その途中には樋のような凹みもつけた。これで硬さと軽さが両立出来ているはずである。

 根元の部分は柄を差し込む形ではなく、柄に挟み込んで固定するような方式になるよう、刀の茎と同じような茎を作っておいた。


 こうして見た目には反りのない刀を背中合わせにくっつけたような形のものが出来上がった。これに焼刃土を置いて焼入れすると刃紋もつけられるはずだが、全く同じものが出来るわけではない。

 と、言いたいところだが多分俺なら出来てしまうのだろう。しかし、完全に同じかどうかまでは怪しいかも知れないので、焼入れ自体は剣やナイフを作る時と同様に行う。刃紋はなしだ。

 焼入れに適した温度まで熱した穂を水を湛えた水槽に入れると、ある意味耳に馴染んだジュウという音が鍛冶場に響いた。

 しばらく待って、これまた適切な温度まで下がったところで引き上げる。火床の炎で炙って焼戻しをしながら状態を確認する。

 色はまだくすんでいるが、穂としての出来は良いようだ。


 軽く磨き上げると、穂はキラリと銀色の姿を現した。砥石で穂に刃をつける。主に穂先での刺突を使うだろうから、そこを優先しての作業だ。

 板金を作る音に、今度はシュリシュリという音が混じっていく。金床で叩いていたときとはまた違う音楽のようでもある。


「はー、こうやって出来るんですねぇ」


 俺の作業をちょいちょい横目で眺めていたらしいアンネがそう言った。そうしつつも自分の作業はきっちりこなしているらしい。器用だな。


「そうですねぇ。今回は親方はこうしてますが、他にも色々やり方はあって……」


 リケが早口で説明をはじめた。こう言うところのテンションの上がり方は生粋の鍛冶師というべきだな、うん。そう思おう。


 その合間に転がっていた適当な木材を自分のナイフでササッと加工して、仮の柄をつくる。先端は二又に分かれた形にしておいて、そこに穂の茎を差し込む。

 茎には目釘穴と同じような穴を作ってあるので、そこに通るように釘を打ち、周りを革紐でグルグルと巻けば、試作品の完成だ。


「おーい、ヘレン」


 俺はヘレンを呼んだ。彼女は口元にしていた布を下ろしながら返事をする。


「なんだ?」

「今ちょっと手を借りれるか?」


 ヘレンがサーミャに視線を送るとサーミャは頷いた。


「いいぜ」

「ちょっとこいつを試してみてくれ」

「ここで? 外で?」

「勿論、外だ。作業中にすまんな」

「エイゾウの新作とあらばお安い御用だぜっと」


 俺がポイと投げた槍をうまくキャッチしながら、ヘレンは言った。グルグルと槍を持ってない方の肩を回しながら外に出ていく。

 俺は出来栄えを確認できることもそうだが、ヘレンがどれくらい槍の使い手なのかを見るチャンスに恵まれたことにもワクワクしながら、その後をついていった。

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